38 メイド、一週間で歴戦の空気を漂わせる。
とっさに〈ガードゲイン〉を使ったけど、必要なかったかもしれない。レベル11ってここまで補強されるんだ。防御魔法も肩、小手、腰それぞれの防具に付与されているから以前の四倍だし。
……だけどこの状況、嫌でも初めてウルガルダに遭遇した時を思い出す。あの時、私は戦っている人達を見捨て、地面を這って逃げることしかできなかった。
……あんな情けなくて悔しい思い、二度としたくない!
無意識に尻尾を掴んでいる手に力が入った。
ウルガルダは短く悲鳴を上げ、後方に跳び退く。
その間に私は剣を抜いて〈アタックゲイン〉を発動させた。狼竜が着地するタイミングを狙ってまずは〈サンダーボルト〉で牽制。それからとどめの〈サンダースラッシュ〉、と連続で放った。
ズババッシュ――――ッ!
塵へと変わるウルガルダを見届け、私は女の子達の方に振り向く。
おそらくリーダーであろう子が一歩前に出て来た。
「す、すごい……。た、助かりました、戦女神様……」
「いいよ。それよりそっちの子達を治療するね」
倒れている二人に駆け寄った私は、袋からヒールストーンを取り出す。即座に彼女達の上でかざした。意識は失ったままだけど、これで命に別状はないようだ。
さて……、もう一頭相手しなきゃならないか。
目を向けた方向から、モノドラギスが一直線に走ってくる。
いや、あの子が追いついてきたね。任せておこう。
茂みから勢いよく飛び出したタヌセラが、そのままモノドラギスの横っ腹に頭突きを食らわせた。
「キュッキュー!」
(この森最強の魔獣タヌセラ参上です!)
倒れこんだ一角竜に、タヌセラは相手のお株を奪う頭突き突進をもう一発。そしてとどめの、
(〈狸火〉! 〈狸火〉ー!)
ボボッ! ボボワァ――――――ッ!
二つの火球を続け様に上から落とし、モノドラギスを仕留めた。
女の子達は先ほど同様に目を丸くして、巨獣を圧倒したタヌセラを見つめる。
「た、狸、つよ……」
「あの子は私の契約獣だから安心して」
と少し誇らしい気持ちで、自らの最強を証明したタヌセラを私も眺めた。
あの子もレベル11になって一匹で大型魔獣を倒せるようになったね。なんかちょっと感慨深い……。一週間前は私達、ひたすら隠れることしかできなかったのに。
タヌセラがモノドラギスの魔石を咥えてこちらに歩いてくる。
(これ、食べちゃっていいですか?)
「もちろん。そっちのウルガルダのもいいよ」
(どうもどうも。私、オルセラと一緒にいると本当に強くなれそうです!)
「キュイッキュー!」
二つの魔石をたいらげた狸の魔獣がスキップしながら合流すると、私は改めて女の子達に視線をやった。
うーん、皆そこそこ動ける感じだけど、魔獣との戦闘はやっぱり今日が初めてみたい。何より、ベテランの同行者がいないし。
「もしかしてあなた達、ゼファリオン帝国?」
「あ、はい、そうです」
「やっぱり……」
「……アタシ達のグループ、喧嘩じゃ男共にも負けたことなかったのに。……完全に戦場をなめてました。こんなにおっかない地獄だったなんて。あなたが助けてくれなきゃ、全員死んでました……」
リーダーの子はそう言って肩を落とした。
なるほど、地元じゃ敵なしの不良少女軍団が(調子に乗って)一旗あげようと来ちゃいました、的な流れなんだろうか。
それにしても、ゼファリオン帝国の方針は五年前も今も変わってないな。
メルポリーさんと弟さんもあの最大の領土を誇る帝国の所属だ。だから余計に思うのかもしれないけど、数撃てば当たるなんてやり方は到底許容できない。
私は私にできることをやっていく。
「とりあえず町まで送っていくよ。それから世界戦線の関所で、今後あなた達を同行させてくれるチームがないか探してあげる」
「そこまでしていただけるなんて……。アタシ達はあなたのような歴戦の勇士に出会えてほんとにラッキーです。ありがとうございます、戦女神様。ところで、どうして頭にそんなものを付けているんですか?」
私の頭に乗ったブリムを見つめながらリーダーの子は首を傾げていた。
「……私のクラスは【メイド】なんだよ。あと、私も皆と同じ新人ね。一週間前までごく普通のメイドだったんだから」
歩き出しつつそう言うと、途端に場が静かになった。振り返って見てみれば女の子達は固まってしまっている。
……このパターン、どこかで聞いた覚えが。まあいいか。
私が先導して移動を始めると、彼女達は一様にほっとした表情に変わった。分かるよ、リムマイアに助けてもらった後の私もそうだったから。
ずいぶん昔のことのような気がする。
(ほんの一週間前ですよ)
隣にタヌセラが並んできていた。
(まずは一チーム、助けることができましたね。この調子で強くなりながらどんどん助けていきましょう)
「そうだね、頑張ろう」
世界の終末なんて途方もない話だし、私に人類全ての命を救えるとも思えない。
でも、せめて私の手が届く所にある命は救いたい。その範囲が少しずつでも広がっていってくれたらいいな。









