34 メイド、転生者の存在を知る。
ちょうどご飯の準備ができた頃、私達のいる二階の屋外テラスからリムマイアが帰ってくるのが見えた。メルポリーさんとコレットさんも一緒だ。
程なく私達の所まで上がってきた彼女達は、並んだお肉や料理、スイーツに小さな歓声を上げた。
まずメルポリーさんが抱えていた袋をずいっと前に。
「私も甘いものを買ってきた。イチゴソースのがなかったから、ブルーベリーソースのレアチーズケーキ。とシュークリーム二十個」
彼女は早速シュークリームを一つ取り出し、私の口元に押しつけてきた。
「オルセラ、食べて」
「ご、ご飯の後でいただきます。……ケーキ結構かぶってますし、シュークリームは四十個になりましたね」
丁重にお断りしつつ視線を横にやると、リムマイアとコレットさんが二人で何やらゼノレイネさんを説得している。
不承不承ながら納得した黒竜の少女は、憂さを晴らすようにメルポリーさんが持つシュークリームに齧りついた。
たぶん、これから始まる作戦に関してのことだよね。
私もきちんとリムマイアに確認しておかないと。
「ねえリムマイア、東の台地を奪還しにいくって聞いたんだけど……」
「ああ、今夜エリザが緊急ラインを使って世界戦線の理事会を招集する。おそらく承認されるだろう。それを受けて、私とゼノレイネ、メルポリー、エリザは、明後日には台地へ発つことになると思う」
「そんなにすぐなの……?」
「作戦の開始自体は十日後くらいだが、前乗りして下地を整えておく感じだ。今回は失敗できないからな。まあオルセラは何も心配しなくていい。ほら、飯にしよう」
不安げな私の表情を見てリムマイアが先手を取った。また私の銀髪をくしゃっと雑に撫でる。
それから彼女は、各々一キロずつある肉の塊五つの前に立った。流れるようにナイフを振ると、肉は瞬く間に全て一口サイズに。
これを待っていました、と言わんばかりにコレットさんが鉄板の前に陣取る。
「私も決戦までに可能な限りの戦力を集めなければなりませんからね。明日から大忙しなのでしっかり精をつけないと。さあ、どんどん焼くので皆さんもどんどん食べてください!」
言いつつ彼女は、牛、豚、鳥、羊、猪、と次々に肉を鉄板に並べていく。
本当にどんどん焼き上がるので、私達は一気に食事モードになった。もう鳥以外は何の肉を食べているのか分からない。
有難いことに、ゼノレイネさんがタヌセラにも肉を取ってくれている。
「お前も早く人化できるようになるといいのう」
「キュキュー! キュ、キュッキュッ」
(お肉美味しいです! あ、そろそろ肉まんにいきたいのですが)
「ふむ、シュークリームが食いたいのじゃな。ほれ」
(いえ、それではなく肉まんを)
「キュ、キュモファ!」
タヌセラは問答無用で口にシュークリームを突っこまれていた。
……早く人化できるようになるといいね。私、完全なるタヌセラが来ても我慢するから。
けどタヌセラ、もうすっかりゼノレイネさんに慣れたみたいだ。
それは私も同じなのかもしれなかった。さっき殺されそうになった一件から、彼女の方が認めてくれた気がする。
おかげで私もこの賑やかな食事会を楽しむことができていた。
「戦士達の打ち上げってこんな感じなのかな。すごく楽しい」
私の呟きにリムマイアが笑みをこぼす。
「これから嫌ってほど経験することになるぞ。そのためにも、今回の作戦は絶対に成功させないとな」
リムマイアはまるで自分に言い聞かせているようだった。
楽しい時間というものはあっという間に過ぎる。
ひたすら肉を焼き、食べ続けたコレットさんが最初に満足そうな顔で帰っていった。
次いでメルポリーさんが余ったシュークリームを袋に詰めながら。
「私はこの作戦で死ぬかもしれない。だから明日は思い残すことのない一日にする。オルセラ、また明日」
縁起でもない言葉を残して去った。
「あいつの役割は後方からの援護じゃからまず死なんじゃろ」
呆れ気味にそう言うとゼノレイネさんも席を立つ。
「わしはタヌセラと風呂にでも入るかの。あ、伝えてくれオルセラ」
「キュ、キュキュー! キューイ!」
(そうそう、今日は温泉でしっかり温まるのでした! 行ってきまーす!)
タヌセラが足取り軽く家の中へ。
その後を追って歩き出したゼノレイネさんだが、ふと振り返ってリムマイアを見た。
「わしもオルセラがそうじゃと思うぞ。ここまでは幸運が先行しておるようじゃが、それも今だけじゃろ。こいつは間違いなく強くなる。ま、同じくらい死ぬ可能性もあるがの」
「やけに打ち解けていると思ったら……、お前、オルセラに何をした?」
「なに、ちょいと食おうとしただけじゃよ」
「お前な……」
「じゃが、こいつはそんなことなかったようにわしに接してきよる。大したメイドじゃ。
……リムマイア、五年待った甲斐があったかもしれんぞ」
最後の言葉を微笑みと共に発し、ゼノレイネさんも家に入っていった。
私がそうって、どういうこと……?
あとこの先、二分の一の確率で死ぬって言われた気が……。
とりあえず、私はリムマイアが何か言うのを待つことにした。
しばらく沈黙が続いた後に、彼女は一つ大きく息を吐く。
「……どこから話せばいいだろうな。まあ最初からいくか」
「森の中で言ってた話だね。最初からってこの戦場に来てから?」
「いや、それよりもっと前。私が生まれる前からだ」
「……え? 生まれる前って……?」
「一部の奴しか知らないことだが、この戦争にはいわゆる転生者という人間達が絡んでいる。大体は歴史に名を遺したり、伝記になったりしてる奴だな。私もその一人だ」
…………。
……転送者じゃなくて、転生者?
突拍子もない事実に、私は頭が回らなかった。しかし、リムマイアは冗談を言っているようには見えない。私の反応を待って再び黙ってしまっている。
な、何か言わないと……!
「……リムマイアも、誰かの生まれ変わりってことだよね? その人、というかリムマイアも、伝記になってたりするの?」
「うむ、あるぞ。……ろくでもない内容だがな」
やや恥ずかしそうに言った後に、リムマイアは座っていた椅子から立ち上がる。風を浴びるように少しテラスを歩き、それから私の方に振り向いた。
「オルセラ、きっと私はお前を待っていたんだ」
ここにベルセレス・リライフが入ります。
(下にリンクがあります)
ようやくつなげることができました。
次話はその続き(話を聞き終わった後)からになります。