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3 メイド、固有魔法を発動させる。

 茂みに身をひそめてからどれくらい経っただろうか。

 一時間? 二時間?

 いや、周囲の明るさは変わってないから五分程度なのかも。

 怖くて動きたくないけど、……このままここにもいたくない。

 やっぱり、一刻も早くレジセネの町に行くべきだよね。ゆっくりでもいいから進んでいこう……。


 姿勢を低く保ち、草の深い所を選んで移動を開始する。


 ガサ、ガサガサッ。


 い! いけない! 物音もなるべくたてないようにしないと!

 できるだけ慎重に、そーっと、そーっと……。


 ザッス! ザッス!


 誰っ! 大きな音させて! だから静かにし……て……。

 茂みの中から外を窺うと、すぐ近くに狼頭のドラゴンが。辺りを見回しながら、のっしのっしと歩いている。

 さ、さっきの魔獣かな……?

 ちょっと、大きい気がするけど……。

 とにかく逃げなきゃ! 気付かれないようにここを離れるんだ。


 私はゆっくりと後ずさりを始める。

 絶対に音をたてないよう、細心の注意を払って慎重に。

 ……よし、いい感じ。

 この調子で、そーっと、そーっと……。


 ムギュッ。


 ん? 何かに乗り上げた?

 と思った瞬間、「ギャウッ!」とそれは鳴き声を。

 振り返ると、体長一メートルほどの狸が地面にうずくまっていた。私はその体を踏んづけてしまっている。

 なんてでかい狸……、待って、こいつ脚先が鱗に覆われてる。

 まさか、これも魔獣なの? こんな弱そうな魔獣もいるんだね。こいつも隠れてたっぽいけど、どうして?


「とりあえず、踏んじゃってごめんね、狸っぽい奴」


 と身を屈めたその時だった。


 ザバシュッッ!


 先ほどまで私の上半身があった辺りの草が綺麗になくなっている。

 振り上げられた鋭い鉤爪。

 獲物を射抜く捕食者の眼差し。

 体長十メートルを超える狼竜が、上からこちらを覗きこんでいた。


「うわぁ――――――っ!」

「ピギャ――――――ッ!」


 私と狸の魔獣の叫びが重なる。

 も、もうダメだ……。

 私、と狸っぽい奴、……ここで、死ぬ……。


 この時、私に頼れるものなんて何もなかった。

 ただ一つ、固有魔法〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉を除いて。

 わらにもすがる思いで、私は魔法を発動させた。


 ……奇跡でも何でもいい! お願い……!

 私を助けてくれるもの、出て……!


 キュイィ――――――ン!


 ……あれ? 何か、いつもと様子が違う……。

 目の前に光の塊が浮かび上がる。

 とっさに私は、その中に手を突っこんでいた。

 光が止んだ時、握っていたのは大型の銃。

 黒く輝く銃身。持ち手の上には、弾を入れるであろうレンコンのような部分。銃に詳しくない私でも、それの名称は知っていた。


 これって、リボルバー……?

 でも普通の銃じゃないような……? って重っ!

 片手で支えきれず、慌てて反対の手を添える。

 私にこれ、扱えるのかな? なんて考えている暇はなかった。

 気付けば、口を大きく開けた狼竜が眼前に迫っていた。綺麗に並んだ鋭い牙がよく見える。


 ひぃやぁ――――――――っ!

 反射的に、引き金に当てていた指に力を込めた。


 ズドン!


 銃弾は魔獣の首下辺りに命中。次の瞬間、


 ボワァ――――ッ!


 とその巨大な体が一気に燃え上がった。

 やっぱりこの銃、魔法武器だ!


「グオッ! グウッ! ギギャ――ッ!」


 火だるまになって暴れ回る狼竜。

 周囲の木に体当たりを繰り返し、次々にへし折っていく。


 あわわわわわわ! あ! 危ないっ! 巻きこまれたら死ぬ!

 私と狸の魔獣は急いでその場から離れた。


 ふと、背後からの破壊音が聞こえなくなったのに気付く。

 足を止めて振り返ると、狼頭のドラゴンは炎を纏ったまま地面に倒れていた。程なくその体がこつ然と消える。

 あ、私、今【メイド】レベル2から4に上がった。

 私が魔獣をやっつけたってこと?


 狼竜のいた場所に戻ってみると、そこには美しい水晶石が。

 拾い上げてよく観察する。ガラスのように透き通った石の中に、煌く鉱物が散りばめられていた。

 もしかして、これが魔石なの?

 魔獣が力尽きると、肉体は塵となり、魔力は魔石として結晶化するらしい。魔力の結晶なだけに色々と使い道があるとかで、魔石は相当な高値で取引されると聞く。

 相当な、高値……。

 実は私、お金もあまり持ってないんだよね。

 無事にレジセネの町に辿り着いても、助けが来てくれるまで一か月は待たなきゃならない。町がどんな所か分からないけど、先立つものはあった方がいいと思う。


「……だから、あんたにあげるわけにはいかないんだよ、狸っぽい奴」


 私の視線の先では、狸の魔獣が行儀よくお座りをして尻尾を振っていた。

 期待に満ちた目で魔石を見つめている。

 え、魔石って魔獣もほしいものなの?

 とにかくあげられないよ。私の今後の生活が懸かってるんだから。

 ポケットに魔石をしまうと、狸は途端にシュンと。


「キューン……」


 耳も尻尾も垂れ下がり、悲しそうな目で私に訴えかけてくる。

 ……う、あげられないよ。


 そういえばさっき、私レベル上がったんだった。

 一気に2も上がるなんて、私のメイドとしての四年間は何だったんだろ……。

 いや、死ぬとこだったし、あんな怪物を倒したんだから妥当なのかな。

 補正が強化されたおかげか、前より体が軽く感じる。レベル4だから十五年以上働いてるメイド達と同じくらいになったんだよね。皆、てきぱき動けるわけだよ。

 うんまあ、もうすぐ辞める【メイド】のレベルが上がってもしょうがないんだけど。

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[良い点] たぬたぬ…モフっとして愛敬がある尻尾…
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