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29 メイド、契約獣の格差に衝撃を受ける。

 私はシャロゴルテの魔石を拾い上げ、これをじっと見つめた。

 ……この魔石、換金したらいったいいくらになるんだろう? 台地の上にいる上位魔獣だから、この森にいる敵のものよりずっと高額だよね?

 ん……?

 気付くとタヌセラも魔石を凝視していた。


(……大丈夫です、分かっています。私がいただけるような代物ではないということは。……それ食べたら私の背中に翼が生えるかもしれませんけど)


 そんな突然変異みたいな進化は起こらないでしょ……。めちゃ欲しいんじゃない。


 上空に目を向けると、ちょうどリムマイアももう一頭のシャロゴルテを雷の斬撃で仕留めるところだった。出現した魔石を空中でキャッチし、こちらに戻ってくる。


「人の獲物を横取りしたらダメだろ、オルセラ」

「横取りしたくてしたんじゃないよ……。あと少しでリムマイアの〈サンダージェイル〉が解除されて、私達全員やられちゃうとこだったんだから」

「何言ってんだ、あの魔法はまだまだ大丈夫だったんだぞ。ちなみに、途中で網目が弾けていくのは仕様で、全てが解けるまで効果は完全に持続する」

「それ、先に言っておいて……」

「だがまあ、よく倒したものだ。銃やメルポリーの助けがあったとはいえ、な。私達の中でも、転送四日目で上位魔獣を狩った奴なんていないぞ」


 そう笑いながらリムマイアは倒れているメルポリーさんの傍らに行き、「たぶんこいつに発破をかけられたんだろうが」とその顔を覗きこんだ。

 図星だよ……。彼女は爆発させる能力だけに発破をかけるのも得意みたい。

 けどリムマイアが今言った、私達の中、とはどういうことだろう。英雄クラスの人達の中でも、って意味かな?


 考えている内に、リムマイアにつっつかれてメルポリーさんが目を覚ました。

 まず私の顔を見て、それから〈識別〉で上がっているレベルを確認したと思う。


「オルセラ、よかった……。絶対、オルセラなら倒せると思った」


 立ち上がろうとしたメルポリーさんだが、ふらっとよろめく。

 危ない、まだ魔力はほとんど空の状態なんだ。

 私が抱き止めると、彼女はしがみつくように強く抱きついてきた。


「メ、メルポリーさん……?」


 見ていたリムマイアがため息まじりに。


「メルポリー、さっき銃を撃つ時もオルセラに抱きついていたな? そもそもお前の固有魔法は指の一本でも触れていれば拡張できるはずだろ。お前まさか、オルセラのことが……」


 え……? まさか、何……?

 引っ付いているメルポリーさんが顔を上げ、私を見つめてくる。

 ち、近いです。


「オルセラ、リムマイアが雑になって困ったら私に言って。爆破してあげる」

「爆破されてたまるか。ったく、オルセラも面倒な奴に……」


 リムマイアは私からベリッとメルポリーさんを引き剥がした。

 どういうことなの……?

 私が首を傾げていると、狂戦士の少女はもう一度ため息をついた。


「鈍感で無自覚か。あまり深く考えないから運はいいのかもな」

「失礼だな……。私、運がいいの?」

「間違いなくいいだろ。これまでだって色々とそうだったし、今回も属性相性のいいシャロゴルテが相手だったからな」


 魔獣にはそれぞれ得意とする属性があり、ゆえに弱点となる苦手な属性もあるらしい。

 鳥竜種シャロゴルテの場合は、水属性の魔法が得意で雷属性に弱い。だからリムマイアは徹底して雷魔法で攻めていた。彼女自身、雷の属性を好んでよく使うそうだけど、それだけじゃやっていけないので他の属性も習得しているんだって。

 私がシャロゴルテを倒しきれたのは、最後の〈サンダースラッシュ〉の連射が割と効いていたみたいだ。


 じゃあ、タヌセラにも苦手な属性とかあるのかな。火が得意属性だとしたら、水とか?


(そうですね、冷たいのは嫌な気がします。お風呂も水浴びだけより、しっかり湯舟に浸かりたい方です)


 確かにこの子は毎晩、すごく長湯してる。属性が影響していたのか……。


「キューン、キューン。キュ」

(今日は身の凍る思いをしたので、ゆっくりお風呂で温まりたいです。早く帰りましょう)

「そっか、上位のしかも苦手な敵なのによく頑張ったね。もう町に戻ろう」


 とリムマイアに視線を向けると、彼女は険しい表情で空を見上げていた。やがて小さな声で「……最悪だ」と呟く。

 師匠のただならぬ様子に、私も上空を仰いだ。


 しばらくして雲を纏いながら巨大な竜が降りてきた。

 深緑の鱗に全身を覆われ、その体長はシャロゴルテの倍近くあるだろうか。つまり、目測でおそらく体長三十五メートルほど。


 でででででででで、でかい!

 もう空を飛んでいるのが信じられないくらいの大きさだ!

 初めて目の当たりにするサイズの魔獣に私が言葉を失っていると、地面に座るメルポリーさんが冷静な口調で。


「あれを呼んだのは私じゃない。リムマイアがバカみたいな魔力で派手に立ち回ったから」

「分かってる……」


 うなだれるリムマイアは、説明を求める私の視線に気付く。


「あいつは飛竜種のグラバノスだ。見ての通りのでかさでかなりタフな奴なんだが……。最悪なのは地属性の魔獣で、私の得意な雷が効きにくいということな。……はぁ、倒せなくはないがもう一度〈戦闘狂〉を使うのもさすがに疲れるし、仕方ない」


 彼女の言うようにその固有魔法の効果はすでに切れており、魔力も元の状態に戻っていた。

 どうするつもりなのかと見ていると、リムマイアは右手を高々と掲げた。その先に小さな魔法陣が出現する。


「オルセラ、ついでだから私の契約獣を見せてやろう。今呼び出してるからすぐに来る」


 え、どこから?

 ときょろつく間もなく、上空の雲を突き破って真っ黒な飛竜が姿を現した。

 黒竜はそのまま高速でグラバノスに突進する。

 二頭一緒になって森の中に落下した。


 ズゥゥン! と大きな地響き。

 土煙が収まると、黒竜がその脚で緑の飛竜を押さえつけているのが見えた。

 私にとっては、あの二頭はどちらも怪物だ。

 だけど何となく分かる。真っ黒な竜の方、体格はグラバノスより少し小さいけど(それでもたぶん体長二十五メートルくらいはある)、内包している魔力量はこっちが遥かに多いと。

 シャロゴルテやグラバノスより、間違いなく格段に強い。

 その黒竜を眺めつつリムマイアが言った。


「飛竜種ディアボルーゼ、あいつが私の契約獣だ」

「あれが、リムマイアの契約獣……」


 私は思わず狸の魔獣に目をやっていた。向こうも私を見返してくる。


「ク、キュ……」


 あ、タヌセラ、泣きそう……。

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