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MAIDes―メイデス―メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で、最弱クラスのまま人類最強に。  作者: 有郷 葉


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28 メイド、上位魔獣を倒す。

 私達に迫ってきていたシャロゴルテが、突如として空中で停止した。

 鳥竜の後方に目をやると、そこにはいつの間にかリムマイアの姿が。彼女の掌からは何本もの魔力の紐が伸びている。その先端はシャロゴルテの胴や翼など、全身に引っ付いていた。


 あの紐で後ろから引っ張ってるってことなんだろうけど、魔獣との体格差からすれば驚くべき光景だ……!

 と隣を見ると、メルポリーさんは特に驚いた様子もなくお菓子を食べている。


「……リムマイアのあの魔法は何なんですか?」

「〈マジックロープ〉という割と初歩の便利魔法。同時に複数本を出せるのもすごいけど、あの一本一本に相当な魔力が込められてる。あんな魔法で上位魔獣の動きを止めるなんて、まさに驚くべき光景」


 いえ、言うほど驚いてないですよね?


 リムマイアは紐の束を引いてシャロゴルテをのけ反らせると、立っていた〈ステップ〉の足場から跳んだ。

 鳥竜の巨体に飛び蹴りを食らわし、そのまま地面に叩きつける。

 魔獣を上から踏みつける格好で狂戦士の少女は語りかけ始めた。


「お前ら、二頭で行動してるから絶対に何かしてくると思ったぞ。別に卑怯と言うつもりはないが。命を懸けた戦いだから相手の弱点を狙うのは当然だ。あいつらはこの上ない弱点だしな」


 リムマイアは私達にちらっと視線を寄こして笑みを浮かべた。

 失礼だな! まったくその通りだけど!


「お前は後で相手してやるから少し待ってろ。これをやろう」


 リムマイアが手をかざすと、雷の網がシャロゴルテの全身を包みこむ。すぐに密着して一気に締めつけた。

 唸り声を上げながらもがく鳥竜を尻目に、彼女は再び空中の足場に戻る。ふと、思い出したようにこちらを振り返った。


「これは〈サンダージェイル〉だ。発動してる間は意識が乱れて魔法も使えなくなるから安心しろ」


 そう言い残して、リムマイアはもう一頭の元へ駆けていった。


 ……助かった。今回はリムマイアが雑になってなくてよかったよ……。

 私とタヌセラは顔を見合わせ、揃って胸を撫で下ろす。

 しかし、メルポリーさんはどこか不満そうな表情をしていた。


「あのままこいつを仕留めればいいものを。リムマイアめ、オルセラに余裕のあるとこを見せたいのか? こんなものを目の前に置いていかれた私達の気持ちを考えろ。…………、オルセラ、そのリボルバーの魔法弾をちょっと見せて」

「え……、はい、どうぞ」


 求められるままに銃弾を手渡した。

 それから、電流の網でがんじがらめになっているシャロゴルテに目を向ける。

 どうにか逃れようと必死で暴れる鳥竜。

 ……た、確かに、こんな荒れ狂う上位魔獣が目の前にいたら怖くて仕方ない。

 この拘束魔法はあれだけ余裕を見せていたリムマイアが張ったものだから、まさか破られたりはしないんだろうけど……。


「キューン……、キュキュー?」

(うーん……、あそこ少しほつれてないですか?)


 タヌセラが鼻先で指し示した箇所は網目がやや大きくなっているように見える。

 いやいや、まさか。最初からあんな感じだったよ。

 と言おうとしたら、その隣の網目がバチッと弾け飛んだ。


「……メルポリーさん、この〈サンダージェイル〉、大丈夫ですよね?」

「どうだろ。ただ一つ言えるのは、シャロゴルテが自由になって一度でも攻撃してきたら、私達は全員死ぬということ」

「そうなる前にきっとまたリムマイアが……」

「リムマイアは基本的に雑。さっきのはたまたまだと思う」

「…………、……い、今すぐここから逃げましょう」

「その必要はない。オルセラがこの魔獣を倒してしまえばいい」


 そう言ってメルポリーさんは一発の銃弾を摘まみ上げた。

 それは私が奮発して買った、二つの十万ゼア弾の一つ。風属性の〈エアカッター・ラッシュ〉が込められた弾丸だ。

 魔法としては中位の結構下の方で、とてもこんな上位魔獣を倒しきる威力はないと思う。

 率直にこう意見を述べると、メルポリーさんは胸を張った。


「心配ない、私が力を貸す。私のメイン武器はこのボウガンじゃない。習得している魔法」

「それってつまり……、放った魔法も爆発させられるってことですか?」

「そう、特に相性がいいのは火と風。あと、私が接触した人が放ったものも爆発させられる」


 だとしたら、メルポリーさんの固有魔法は思っていたよりずっと高性能だ。自分だけじゃなく、仲間の撃つ全ての魔法に爆発の威力を加えられるんだから。


「まず私が【シューター】として、オルセラに遠距離武器の使い方を教えてあげる」


 メルポリーさんはリボルバーを握った私に手取り足取り教えてくれた。

 にしてもやけに密着してくるけど……。ううん、それだけ熱心に指導してくれているんだよね。

 私はこの時になって初めて、銃器のどの部分に魔力を流せば威力が高まるか、銃弾自体に魔力を集中させれば込められた魔法の威力を上げられること、などを知った。

 かなり大事なことなのに、リムマイアは何一つ教えてくれてないな……。


 不慣れながらも、私はどうにかリボルバーに魔力を纏わせた。


「最初にしては上出来。じゃあ私は残りの全魔力を固有魔法に込めてオルセラに送る」


 私にかぶさるようにメルポリーさんは後ろから抱きついてきた。

 こ、こんなに密着するの? ううん、きっと固有魔法の発動に必要なんだよね。

 準備が整い、雷の網の中でもがくシャロゴルテに銃口を向けた。

 ふと、無抵抗な相手を撃つ何とも言えない罪悪感が。

 背後に引っ付いているメルポリーさんにも私の迷いが伝わったらしい。


「普通に攻撃していいと思う。あの魔獣とは現在戦闘中で、一時的に魔法で隙を作っただけ。言ってみれば、オルセラが〈サンダーボルト〉で動きを止めているのと同じ状態」

「あ、確かにそうですね。リムマイアがあまりにも簡単に長時間、無力化させちゃったから……」

「それに余裕をかましてる場合でもない。見て」


 促されて視線をやると、シャロゴルテを抑えている〈サンダージェイル〉の網目が、バチッバチッと次々に弾けていく。

 あわわわわわわ! 本当に余裕をかましてる場合じゃなかった!

 私の耳元でメルポリーさんが囁く。


「一度でも攻撃されたら、私達は全員死ぬ」

「や、やります! 撃ちます!」


 改めてリボルバーを構えると引き金に指を当てた。

 後ろのメルポリーさんから魔法が流れこむのが伝わってくる。そして、彼女は叫んだ。


「〈爆発するエアカッター・ラッシュ〉弾、発射!」

「は! 発射ーっ!」


 ドンッ!


 シュババババババババッ!

 ボボボボボボボボボンッ!


 着弾と同時に、無数の風の刃が鳥竜の巨体を切りつける。さらに風刃は本来の攻撃直後に爆発。

 放ったのはたった一発の弾丸。しかし、シャロゴルテはまるで四方八方から集中砲火を浴びているようだった。

 攻撃が止むと、魔獣は地響きと共に大地に横たわった。


 ……大変な破壊力だ。

 たぶん効いているのは、風魔法よりメルポリーさんが付与した爆発だよね。もう立つのも辛い状態なのに、ここまでの威力を出せるなんて。やっぱりこの人も他の戦士達とは違うんだ。

 振り返ろうとしたその時。

 私の背中に抱きついていたメルポリーさんはふらーっと倒れ出す。

 彼女が美少女だからだろうか、その様がやけにゆっくりに見える。おかげでタヌセラが下に滑りこんでクッションになるのが間に合った。


「なんてもふもふ……、ありがとう、狸。……それより、敵はまだ塵に変わっていない。オルセラ、ありったけの魔力を叩きこめ。……一度でも攻撃されたら、私達は全員死ぬ……」


 そう言い残してメルポリーさんは意識を失った。

 私は契約獣と顔を見合わせる。

 一人と一匹の間に、メルポリーさんの最後の言葉がくるくると舞っていた。


「やるよ! タヌセラ!」

(はい! オルセラ!)


 私は剣を抜いて魔力の刃を作り上げる。

 タヌセラは目の前に炎を浮かべて発射態勢に。


「〈サンダースラッシュ〉! 〈サンダースラッシュ〉! 〈サンダースラッシュ〉! ――――」

(〈狸火〉! 〈狸火〉! 〈狸火〉! ――――)


 ドドドドドドドドドド――――!


 この時、私はただただ必死で、罪悪感を感じている余裕なんて全くなかった。

 私とタヌセラの心にあったのは、死にたくない。この思いだけ。


 シャロゴルテの体が塵になると、私は【メイド】レベル8から一気にレベル11まで上がった。


 地獄の戦場に転送されて四日目。

 メイドの通常業務を百歳まで続けても絶対辿り着けない領域に、私は足を踏み入れることになった。

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