26 メイド、助けに入る。
森を走っていると、前方に二羽、いや、二頭の竜が降り立つのが見えた。
どちらも同じ種類で、竜の頭部と体に、鳥のような翼を持っている。サイズは体長十五メートルのモノドラギスより少し大きいくらいだろうか。
だけど、その内に秘めたる魔力は角竜とは比べものにならない気がする。
「リ、リムマイア、何なの、あの魔獣」
隣を駆ける師匠に視線をやった。彼女にしては珍しく、やや険しい表情になっている。
「鳥竜種のシャロゴルテだ。まさか二頭来るとは……。……メルポリー、ちゃんと逃げろよ」
そう、あの二頭が舞い降りたのはメルポリーさんがいるであろう場所だ。
そこでたて続けに大きな爆発が起こった。
リムマイアがその茶色の髪をわしわしとかく。
「あのバカ! 戦う気か! 一人で勝てる相手じゃないのは分かるだろ!」
……私は、こうなることが分かってたんだと思う。
昨日、別れ際のメルポリーさんから感じた嫌な予感。自暴自棄というか、どこか投げやりになっている印象を受けた。
きっと、守ろうとしていたものを失ったのが堪えてるんだ。
彼女はたぶん、もうこの戦争に嫌気がさしてる。
私達がメルポリーさんの姿を捉えた時、彼女は二つの連射式ボウガンを撃ちまくっていた。放たれた矢はシャロゴルテ達に当たるなり次々に爆発。
シュドドドドドドドドドドンッ!
す、凄まじい……。本当に人間兵器みたいな人だ……。
でも、爆発の威力が弱まってきてる。
魔力が尽きかけてるんだ! まずい!
攻撃が緩んだ隙を突いて鳥竜の一頭が高々とジャンプ。後脚(前脚はない)の鋭い鉤爪をメルポリーさんに向けて振り下ろす。
咄嗟に私は一頭と一人の間に走りこんでいた。
迫りくる爪に〈サンダーボルト〉を放つも勢いを少し弱めただけ。
リボルバーを抜いて引き金を絞る。発射された二万ゼアの〈ファイアボール〉弾が燃え上がり、そこに遅れて駆けつけたタヌセラが〈狸火〉を重ねた。
二段重ねの炎に、シャロゴルテは翼を羽ばたかせて後方に退く。
「ありがとうタヌセラ! 助かったよ!」
「キュキュ! キュー……イ……」
(オルセラが無茶をするのは分かっていますので! ですがこの魔獣……、私達では到底敵いそうにないですね……)
そうだね……、まず無理だ……。
私達の全力の攻撃でも牽制程度にしかなってないんだから。
だけど逃げるわけにはいかないよ。こんな状態のメルポリーさんをおいて。
魔力をほぼ使い切ってしまったらしく、彼女は地面に膝をついている。
額に汗を浮かべながら、メルポリーさんは私の顔を見上げた。
「オルセラ……、どうして……?」
「メルポリーさん、死んじゃダメです。……失った人は戻ってきませんけど、メルポリーさんにはまだ守るべき人達がいるんじゃないですか?」
「私の守るべき……、……そうだった」
どうやら彼女は孤児院の皆のことを思い出したようだ。
昨日の関所での様子からそんな気はしていたけど、彼女は一つのことに囚われると周囲が見えなくなるらしい。
私は鳥竜達に向かって剣を構えた。
「私にそのペンダントを託した人も、絶対にメルポリーさんには死んでほしくないと思っているはずです。だから、私は絶対にあなたを助けます!」
「オルセラ……」
私はあの人(達)を見捨てて一人だけ逃げた……。だからせめて、その願いだけは必ず叶える!
とタヌセラが注意を促すように私の足をつついてくる。
(そうは言ってもオルセラ、先ほども言ったように私達の敵う相手ではありませんよ。ほらあれ)
二頭のシャロゴルテは揃って口を大きく開き、その目の前には強力な冷気の塊が浮かんでいた。
「キューキュー」
(あれは私の〈狸火〉とは比べものにならないほどの魔力が込められた魔法です)
「わざわざご指摘どうも。見れば分かるよ」
一発でも防ぎようがないのに、あんなの二発も同時に撃たれたら……! 助けるも何も私にはどうしようもなかった!
二門の冷却砲が発射された。
木々や草花を瞬時に凍てつかせながら私達に迫る。
ところが、私達の背後から放たれた雷の波動がこれとぶつかり、相殺。
私のより遥かに大きな雷撃……。
振り返るとリムマイアが大槍を構えて立っていた。
……リムマイア、助けてくれるのを期待していたけど。……すごいギリギリだった。
視線をやるとタヌセラも頷いて同意する。
(危うく冷凍狸になる寸前でした……)
リムマイアは私の所まで歩いてくるとじっと顔を見つめる。
それから、私の髪をくしゃっと雑に撫でた。
「ちょ、ちょっと、何?」
「はは、オルセラお前、やっぱりいいぞ。本当に気に入った」
よく分からないけど、リムマイアはずいぶん嬉しそうにこう言った。
そして、大槍をブンッと一度大きく振って鳥竜達の方に足を進める。
「後で私の話を聞いてくれないか? とりあえずここは……、私が引き受けた」
このメイデスの書籍化が決まりました。
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