表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/56

26 メイド、助けに入る。

 森を走っていると、前方に二羽、いや、二頭の竜が降り立つのが見えた。

 どちらも同じ種類で、竜の頭部と体に、鳥のような翼を持っている。サイズは体長十五メートルのモノドラギスより少し大きいくらいだろうか。

 だけど、その内に秘めたる魔力は角竜とは比べものにならない気がする。


「リ、リムマイア、何なの、あの魔獣」


 隣を駆ける師匠に視線をやった。彼女にしては珍しく、やや険しい表情になっている。


「鳥竜種のシャロゴルテだ。まさか二頭来るとは……。……メルポリー、ちゃんと逃げろよ」


 そう、あの二頭が舞い降りたのはメルポリーさんがいるであろう場所だ。

 そこでたて続けに大きな爆発が起こった。

 リムマイアがその茶色の髪をわしわしとかく。


「あのバカ! 戦う気か! 一人で勝てる相手じゃないのは分かるだろ!」


 ……私は、こうなることが分かってたんだと思う。

 昨日、別れ際のメルポリーさんから感じた嫌な予感。自暴自棄というか、どこか投げやりになっている印象を受けた。

 きっと、守ろうとしていたものを失ったのが堪えてるんだ。

 彼女はたぶん、もうこの戦争に嫌気がさしてる。


 私達がメルポリーさんの姿を捉えた時、彼女は二つの連射式ボウガンを撃ちまくっていた。放たれた矢はシャロゴルテ達に当たるなり次々に爆発。


 シュドドドドドドドドドドンッ!


 す、凄まじい……。本当に人間兵器みたいな人だ……。

 でも、爆発の威力が弱まってきてる。

 魔力が尽きかけてるんだ! まずい!


 攻撃が緩んだ隙を突いて鳥竜の一頭が高々とジャンプ。後脚(前脚はない)の鋭い鉤爪をメルポリーさんに向けて振り下ろす。

 咄嗟に私は一頭と一人の間に走りこんでいた。

 迫りくる爪に〈サンダーボルト〉を放つも勢いを少し弱めただけ。

 リボルバーを抜いて引き金を絞る。発射された二万ゼアの〈ファイアボール〉弾が燃え上がり、そこに遅れて駆けつけたタヌセラが〈狸火〉を重ねた。

 二段重ねの炎に、シャロゴルテは翼を羽ばたかせて後方に退く。


「ありがとうタヌセラ! 助かったよ!」

「キュキュ! キュー……イ……」

(オルセラが無茶をするのは分かっていますので! ですがこの魔獣……、私達では到底敵いそうにないですね……)


 そうだね……、まず無理だ……。

 私達の全力の攻撃でも牽制程度にしかなってないんだから。

 だけど逃げるわけにはいかないよ。こんな状態のメルポリーさんをおいて。

 魔力をほぼ使い切ってしまったらしく、彼女は地面に膝をついている。


 額に汗を浮かべながら、メルポリーさんは私の顔を見上げた。


「オルセラ……、どうして……?」

「メルポリーさん、死んじゃダメです。……失った人は戻ってきませんけど、メルポリーさんにはまだ守るべき人達がいるんじゃないですか?」

「私の守るべき……、……そうだった」


 どうやら彼女は孤児院の皆のことを思い出したようだ。

 昨日の関所での様子からそんな気はしていたけど、彼女は一つのことに囚われると周囲が見えなくなるらしい。

 私は鳥竜達に向かって剣を構えた。


「私にそのペンダントを託した人も、絶対にメルポリーさんには死んでほしくないと思っているはずです。だから、私は絶対にあなたを助けます!」

「オルセラ……」


 私はあの人(達)を見捨てて一人だけ逃げた……。だからせめて、その願いだけは必ず叶える!


 とタヌセラが注意を促すように私の足をつついてくる。


(そうは言ってもオルセラ、先ほども言ったように私達の敵う相手ではありませんよ。ほらあれ)


 二頭のシャロゴルテは揃って口を大きく開き、その目の前には強力な冷気の塊が浮かんでいた。


「キューキュー」

(あれは私の〈狸火〉とは比べものにならないほどの魔力が込められた魔法です)

「わざわざご指摘どうも。見れば分かるよ」


 一発でも防ぎようがないのに、あんなの二発も同時に撃たれたら……! 助けるも何も私にはどうしようもなかった!


 二門の冷却砲が発射された。

 木々や草花を瞬時に凍てつかせながら私達に迫る。

 ところが、私達の背後から放たれた雷の波動がこれとぶつかり、相殺。

 私のより遥かに大きな雷撃……。

 振り返るとリムマイアが大槍を構えて立っていた。


 ……リムマイア、助けてくれるのを期待していたけど。……すごいギリギリだった。

 視線をやるとタヌセラも頷いて同意する。


(危うく冷凍狸になる寸前でした……)


 リムマイアは私の所まで歩いてくるとじっと顔を見つめる。

 それから、私の髪をくしゃっと雑に撫でた。


「ちょ、ちょっと、何?」

「はは、オルセラお前、やっぱりいいぞ。本当に気に入った」


 よく分からないけど、リムマイアはずいぶん嬉しそうにこう言った。

 そして、大槍をブンッと一度大きく振って鳥竜達の方に足を進める。


「後で私の話を聞いてくれないか? とりあえずここは……、私が引き受けた」

このメイデスの書籍化が決まりました。

皆さんの応援のおかげです。本当に有難うございます。

本日より継続して投稿していきます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~




書籍


↓をクリックでTOブックスストア書報へ。


klpg4yz5b1oc2node6ca5sa7jfl_nhg_dw_js_ddo6.jpg

1wfh4e77id1ojgvi3w3s4ahb9ryu_ft9_dw_jr_e350.jpg

86uh6ozp2wrm3jdwmfzk4ouk2a3v_gbk_dw_jq_cpdv.jpg

de4q2t0bfkyu704dfoctjrlg8w8u_vdz_dw_jr_950l.jpg




ヴェルセ王国 エピソード1
↓をクリックで入れます。




メイドが発現した固有魔法はまさかの国家規模!?

どうもすみません。孤児院出身メイドの私が王子様と結婚することになりまして。




ヴェルセ王国 エピソード2
↓をクリックで入れます。




肩書きだけだった公爵令嬢が権力の頂点に上り詰めるまで。

公爵令嬢、お城勤め始めました。婚約破棄するために権力の頂を目指したいと思います。




ヴェルセ王国 エピソード3
↓をクリックで入れます。




王妃オルディアの命を狙われ続ける日常。

聞いてません。王国に加護をもたらす王妃になりましたが、近隣諸国から毎日暗殺者が送られてきます。




ヴェルセ王国 エピソード4
↓をクリックで入れます。




11歳のオルセラが主人公です。

公爵令嬢、メイドになります。 ~無自覚モテ令嬢のハタ迷惑な生態~








本編の五年前、リムマイアのエピソード
↓をクリックで入れます。




狂戦士から転生した少女が成り上がります。

ベルセレス・リライフ ~史上最凶の狂戦士、惰弱な孤児少女に転生する~「愛くるしい小動物系美少女?いいえ、あれは踏んだら最期の地雷系女子です」





↓をクリックでコミック試し読みへ。


fvn3kutc16ulc3707tsn12eh38v4_8ke_dw_jn_amd1.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ