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25 メイド、胸騒ぎを覚える。

 森に入った私達は、最初に出会ったモノドラギスと戦うことになった。

 遠くから時折聞こえる爆発音。それに誘われて空からやって来るかもしれない強い魔獣。気になることは色々とあったけど、今はこの戦闘に集中することにした。

 私もタヌセラも、まだこの大型魔獣を相手に余裕をかませる立場にはない。

 そう、今回はタヌセラも一緒に戦う。


 睨み合う体長一メートルの狸と体長十五メートルの一角竜。

 回りこむようにタヌセラが横へと駆け出した。


(私をただのラクームと思わないことです。もうレベル9なんですから! 〈狸火〉!)

「キュー!」


 タヌセラの火炎放射を受け、モノドラギスは身を竦ませる。

 昨日のレギドラン戦の後にレベルが上がっているので、〈狸火〉の威力はさらに増していた。もうこの森最大の魔獣にも通用するほどだ。

 ただのラクームじゃないことは相手にも充分に伝わったらしい。

 モノドラギスは警戒するようにじりじりとタヌセラとの距離を詰めていく。数メートルの所まで近付くと、不意に一角竜は得意の突進攻撃に。


「私もいるんだよ!」


 一匹と一頭の間に〈プラスシールド〉を展開した。

 巨竜の体当たりで魔法の盾は砕け散ったものの、その突撃を遅らせることには成功する。この間に契約獣は易々と回避。

 突進が空を切ったモノドラギスが停止後に振り向く。

 私はすでに、その頭の下で剣を構えていた。

 振り抜くと同時に〈プラスソード〉を発動。伸びた刃が一角竜の首を裂いた。


 巨体が大地に崩れ、程なく塵と化す。

 魔石を拾いながら、私は消費した魔力を確認した。

 ……〈サンダーボルト〉一発分も使ってない。タヌセラと〈プラスソード〉のおかげでずいぶん節約できたね。一気に戦力が増えたみたいだ。これならまだまだ戦えそう。


「タヌセラ、もう一頭、大型のいこうか。次の魔石はあげるよ」

「キューイ! キュキューイ!」

(行きましょう! 今度は私、すごい〈狸火〉出しちゃいますよ!)


 ……テンションが段違いじゃない。気持ちは分かるけど。


「じゃあ、次の魔獣を探しに移動しようか」


 視線を向けるとリムマイアは、メルポリーさんがいるであろう爆発音が聞こえてくる方を見つめていた。


「リムマイア?」

「あ、悪い悪い。えーと、大型魔獣をバッサバッサいっちゃうんだったな」

「言ってないし、雑か。とりあえずもう一頭、って言ったんだよ」


 移動を開始した私達はすぐにウルガルダと遭遇した。こちらも、やる気まんまんのタヌセラと連携して討伐する。

 恍惚とした表情で魔石を食す契約獣を眺めていたら、レギドランの群れが現れたので撃退。

 その後、ゴツゴツした鱗に覆われた体長五メートルほどのドラゴンが二頭で襲いかかってきた。

 剣で斬りつけるも……。


 ギィィン!


「……石を叩いたみたい。なんて硬さだ」


 〈識別〉で見てみると、この魔獣は鎧竜種のブロドトンというらしい。

 ……こんな敵もいるのか。動きは遅いからあまり怖くはないけど、倒すのは骨が折れそう……。

 すると、タヌセラから提言が。


(私の炎が有効かもしれません)


 実際、その通りだった。一頭はタヌセラの〈狸火〉二発で、もう一頭は私の〈サンダーボルト〉で仕留めることができた。

 ブロドトンの魔石の取引価格は十万前後とのこと。魔力の消費量を考えると、ちょっと割に合わない魔獣だと思う。


「鎧竜種は大体硬いから魔法で倒すのが定石なんだよ。その魔石を契約獣に食べさせると体が丈夫になるとかで、それ目的で狩る奴も多いな」


 リムマイアがそう教えてくれたので、ブロドトンの魔石は二つともタヌセラにあげることにした。

 狸は喜々として瞬く間にたいらげる。


(何だか私の毛も丈夫になった気がします)


 ん? 待って、この子の毛がゴワゴワになったりしたら戦士のお姉さん達ががっかりするかもしれない。慌てて毛の中に手をうずめると、いつも通りふんわり柔らかな感触。


「気のせいだよ」


 それにしても、吸収する魔力によって成長が変わってくるなんて面白いね。じゃあ、走竜種の魔石を食べればスピードが上がるってことなのかな? あ、タヌセラはレギドランの魔石を結構食べてるから素早いのか。

 契約獣を育てるって奥が深いな。楽しいと言えなくもない。

 タヌセラはどんどんレベルが上がるし……。

 ついさっき、私の契約獣はレベル10になった。

 先輩方によると私も上がるのは早いらしいけど。やっぱり一般職だから? タヌセラにあまり差をつけられたくないし、私もレベルアップまで頑張ろうかな……。


「オルセラ、今日はもう帰るぞ」


 私は耳を疑った。そう言ったのは、普段は限界まで戦わせようとするリムマイアだったのだから。

 彼女はまたメルポリーさんのいる方角を気にしていた。


「あいつ、荒れまくってる。これは確実に上から来るな。巻きこまれるのもやっぱ面倒だし撤収しよう」

「メルポリーさんは大丈夫なの?」

「やばくなったら自分で逃げるくらいはできるさ。他の奴とは違うから。あいつは戦士になってまだ二年も経ってないんだよ」

「え……? でも確か、レベルは47って」

「そう。つまりメルポリーは通常の戦士の十年以上に二年弱で追いついたってことだ。それだけ素質がある」


 たった二年で英雄クラス目前まで……、大変な才能だ。だったら本当に心配なんてしなくていいのかもしれない。

 だけど、昨日の別れ際のメルポリーさんの様子が気になった。

 ……今、彼女を放っておいたら危ない。


「リムマイア、メルポリーさんの所に行こう」

「私が帰ろうって言ってるのに、どうしてオルセラが行きたがるんだ? 完全にいつもと逆だろ」


 そうなんだけど……。

 私なんかが駆けつけても、何の役にも立たないのは分かってる。でも、幸いここには英雄がいる。

 急いでリムマイアを連れていかないと、取り返しのつかない事態になる気がするんだよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新まったりとお待ちしてますわ~ この呼び水ならぬ呼び音では広範囲から引き寄せそうですね
[一言] オルセラもタヌセラも好きです☺️ 不定期更新、了解です! のんびり&楽しみにお待ちしてます
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