24 メイド、休みたくても休めない。
転送されてから四日目の朝を迎えた。
森に入る前に、今日もまず買い物をしていくことに。
昨日、私の剣には〈プラスソード〉の魔法が宿っていると分かった。ほしかった大型魔獣にも通用する魔法は手に入ったわけだけど、他にも必要なものがある。
何と言っても、空になっているリボルバーの銃弾だ。この魔法武器は私の魔力を必要としないので、いざという時の生命線になる。
というわけで、マジックな銃器を扱っているお店へ。
並ぶ商品の価格を見た私は驚きを隠せなかった。
魔法が付与された銃弾は、安いものでも一発二万ゼアする。やっぱり魔力を消費せずに使えるのでものすごく高価みたい……。
ちなみに、私のリボルバーに最初から入っていた弾はとてもいいものだった。しばらく継続して燃える〈カースファイア〉なる魔法が宿っていて、値段はなんと一発八十万。
そりゃそうだよね……、一発でウルガルダやモノドラギスを仕留めちゃうんだもん……。
さすがに〈カースファイア〉弾は買えないので、私は二万の銃弾を十発と十万のちょっとお高めのやつを二発購入した。それと練習用の通常弾ね。森の中で試し撃ちして腕を磨くことにしたよ。
「……本当に、戦士ってお金がかかる」
銃器店を出ながら私がそう言うと、隣でリムマイアが笑った。
「一番金を使うのは、銃をメイン武器にしてる【シューター】だ。確かに強いんだけど、下手したら赤字になる。やってるのはかっこつけな奴ばかりだな、はは」
ふーん、ロマンって感じなのかな。私は節約したいし、緊急用にしよう。
装備の買い物は銃弾だけで、あとはいつも通り食べ物の調達だ。
飲食店の並ぶ通りに足を向けると、前を歩いていたタヌセラが振り返った。
(オルセラに一つ言っておくことがあります)
急にどうしたの?
何だか凛々しい空気を纏ってるし、もしかして強くなってきて戦力としての自覚が芽生え始めたのかも。
「キュ、キュキュー」
(肉まんだけは、買い忘れないように気を付けてください)
……気のせいだった。
この狸、昨日あんなに食べたのに飽きないんだね。
リムマイアによって肉まんの取り置きを禁止されたタヌセラは、結局一匹で十個全てをたいらげた。
まあ飽きないのなら買ってあげるけど。肉まんの他、適当に美味しそうなものを見繕った。
あ、ハンバーガーは外せないよね。
じっと私の顔を見つめるリムマイア。
「オルセラ、昨日あんなにハンバーガー食べてたのに飽きないんだな」
「……うん、飽きない」
必要なものを買い揃えた私達はゲートへと向かった。
その森との境界に到着してみるとやけに騒がしい。関所から職員の皆さんが出てきて、戦士達に何かを呼びかけていた。
私達の所にもエリザさんが駆けてくる。
「今日はサフィドナの森に入らない方がいいわよ」
「どうしたんですか?」
「ついさっきメルポリーが、魔獣に復讐する、って行っちゃったのよ……」
それって、普通に魔獣を狩るということでは? どうしてそれで立入禁止になるんだろ。
と思っていると、リムマイアが「まずいな」と言った。
「何がまずいの?」
「メルポリーの狩りはとにかく派手だ」
「固有魔法が〈放ったものが爆発する〉だからね。でも、さすがに人を巻きこんだりはしないでしょ?(私は巻きこまれたけど)」
「あいつだって平常心の時はそれくらいの分別はある。まずいのは、そのせいで余計な奴を呼ぶかもしれないってことだ」
「余計な奴?」
「飛竜種、あるいは、鳥竜種な」
この言葉を受けてエリザさんが補足の説明をする。
「サフィドナの森で派手に立ち回ったり大きな魔力を使ったりするとね、上空を飛行中の、もしくは台地の上にいるのがちょっかいをかけてくることがあるのよ」
話によると、サフィドナの森ではレベル10台後半、20台の戦士達も狩りをするらしい。
そんなベテランでも気を付けなければならないことが二つある。一つが魔獣の密集するデッドゾーン。そしてもう一つが、件の突然襲いくる飛竜種や鳥竜種だ。これらの魔獣はとても巨大で基本的に高レベルなので、ベテランのチームでも全滅の危険があるんだとか。
そもそも当のメルポリーさんはたった一人で大丈夫なんだろうか……。
森に目をやると、ちょうど遠くの方で爆発が起こった。
それを見ていた戦士のお姉さん達がくるりと踵を返す。
「今日は無理だわ。お休みにしましょ」
「そうね。あら、タヌセラがいるわ」
狩りを断念した戦士達は気を紛らわせるようにタヌセラをもふり出した。
……こんなベテランの人達でも中止にするんだから、私達もやめておくべきだよね。
「じゃあ、私達も今日はお休みに」
「何言ってんだ。行くぞ」
私の意見を即却下してリムマイアはずんずんゲートに歩いていく。
「…………。……行くの?」
「行く。心配すんな、もし上から襲ってきても私が対処するから」
……うっかり雑になって、私やタヌセラが食べられたり、しないよね?









