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23 メイド、師匠の雑さを思い知る。

 リムマイアの話を聞き終わった私は、まず自分の剣を抜いた。

 剣先を見つめながら強く念じ、実際に口にも出して唱える。


「〈プラスソード〉!」


 すると剣全体を覆うように、長さ一メートルほどの魔法の刃が出来上がっていた。

 確認した私はゆっくりとリムマイアの方に視線を向ける。


「剣! 伸びるじゃない!」

「伸びる。どうやら伝え忘れていたようだな」

「こんな魔法が宿っているならちゃんと教えておいてくれないと!」

「いや、悪い悪い」

「……ざ、雑か」


 ちなみに、私達はまだ関所のエントランスにいて、用意されている待合席で話しこんでいた。

 受付の中を移動してエリザさんがこちらへ。


「言ったでしょ。リムマイアは雑なのよ」


 これに周りの職員や戦士が、うんうん、と一斉に相槌。

 ……甘く見ていた、リムマイアの雑さを。

 この〈プラスソード〉があれば、昨日も今日も、もっと楽に戦えたよ……。死にそうになることもなかったかも。

 いや、切り換えよう。生きている内に知れただけでもよしとするべきだ。たった今、大型魔獣に通用する魔法が新たに一つ手に入ったと思えばいい。


「さ、魔石の換金も済んだし、ご飯を買って帰ろうか」

「おお、なんか晴れやかだなオルセラ」


 リムマイアと一緒に関所の外に出ると、そこには人だかりが。よく見えないけど、たぶん中心にいるのはタヌセラだ。

 傍に寄っていくと話す声が聞こえてきた。


「このラクーム、すごく可愛いわね」

「でしょ。〈識別〉で分かる通り、オルセラって子の契約獣なの」

「噂の【メイド】よね……。そういえば〈識別〉で見えたんだけど、あなた、レベル16なのね。私はレベル21の【シューター】よ。よかったら、今度一緒に狩りに行かない?」

「格上の遠距離職! すごく助かるわ! ぜひお願い!」

「よろしくね。しっかり援護するから」


 なるほど、ああやってチームを組んだりするんだね。私の噂ってのが気になるけど、タヌセラが皆に好かれていて、その役にも立ってるみたいでよかったよ。


「リムマイア、見た? 私の契約獣がチーム結成に貢献したよ」

「……見た。タヌセラの力で私にも仲間できるだろうか」


 ちょっと待って! リムマイアにチーム組まれたら私が困る!

 彼女は人だかりに向かって腕を組む。


「私はレベル86の【ベルセレス】だ。誰か私とチームを組まないか?」


 静まり返る戦士達。

 その後、ササーと全員が場を離れ始める。


「俺にはもう仲間が……」

「皆に相談しないと……」

「リムマイアはちょっと……」

「リムマイアだしな……」


 そうして狸の魔獣だけが残った。

 ……心配する必要なかった。ほらタヌセラ、帰るよ。


「なんだよ!」


 リムマイアが力任せに地団太を踏むと、グラッと少し地面が揺れた。

 そもそも、どうしてリムマイアはチームを組んでもらえないんだろう? 雑なところはあっても相当頼りになるのに。皆からも嫌われてるような雰囲気じゃない。むしろ好かれてるよね?

 考えているとタヌセラが鼻先で私の脚を突ついてきた。


「キュー。キュー」

(お腹が空きました。早く行きましょう)

「そうだね、行こう。あれ? タヌセラ、また毛並みがよくなってない?」

(皆さんにいっぱい触られたら、体が軽くなりました)


 もふられすぎて血行がよくなったらしい。

 町の大通りに入ると、私はポンと腰の道具入れを叩いた。


「今日は私が支払うね。リムマイアもタヌセラも、食べたいの言って」

「豪気だな、じゃ今日はケーキをホール買いしよう。二万くらいするぞ?」

「大丈夫だよ、稼ぎが百万以上あったの見てたでしょ」

「キュ! キュキュー!」

(肉まん! 肉まん十個買ってくださいオルセラ!)


 はいはい……。

 買い物を終えた私達はリムマイアの家に帰宅。いつも通り二階のテラスで購入した食べ物を広げた。肉まん以外にも、ハンバーガーやホットドッグなど、私の大好きなジャンクフードが並ぶ。

 私も今日は食べたいものばかり買っちゃったよ。美味しそう!


「ほんと、公爵令嬢っぽくないな……。そうだ、その剣と鎧はもうオルセラにやるよ」


 装備を外す私を眺めながらリムマイアが言った。


「いいの?」

「いいよ、持つべき者の元に行った感じだし」

「持つべき者って?」


 尋ねると彼女は紙に、『公爵令嬢→私→公爵令嬢』と書いた。

 ……ああそう。

 さっきちょっとだけ聞いたんだけど、この剣と鎧は、元はミッシェルさんというリムマイアの友人である公爵令嬢の持ち物だったんだって。そのミッシェルさんも今は公爵家の当主となり、国でリムマイアを支えてくれているらしい。

 メルポリーさんについて知った時に思ったのは、戦士の状況は所属する国によって大分違うということ。

 きちんと支援してくれる人がいるのって、やっぱり大事なんだな。

 リムマイアは思い立ったようにまた紙に何かを書き始めていた。


「オルセラの現在の装備を書き出してみた。見ろ、ろくでもないぞ」



『オルセラ 【メイド】レベル8

 装備一覧

 公爵令嬢が金にものをいわせて作った剣

 公爵令嬢が金にものをいわせて作った鎧

 拾得物の銃

 賄賂の腕輪』



 ……私の装備、確かにろくでもない。

 現実から目を背けると、タヌセラが肉まんを咥えて家の中に入っていくのが見えた。


「タヌセラ、それ、どこに持っていくの?」

「モファ、モファファ」

(お腹いっぱいになったので、誰にも見つからない場所に隠しておくんです)


 これをリムマイアに告げるや、彼女は慌てて狸の魔獣を捕まえた。


「やめろ! 絶対に隠したの忘れて腐らせるから!」


 リムマイアにとって、家ってこだわりのある大事な場所なんだよね。

 さすがにそこは雑になれなかったみたいだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] リスが、木の実の隠し場所を忘れるのは、森林再生に役立つけど、加工食品の隠し場所を忘れるのは…… ……良い肥料ができるかもしれない、っていう可能性はわずかにあるかな?(隠し場所周辺が巻き込ま…
[一言] 装備の由来の響きが一歩下がられそうな一覧表示でしかないw 腐らないと思っても腐るのが食べ物です(冬場除いて
[一言] 雑さに定評のある狂犬も、さすがに自分の家で腐海を発生させられるのは嫌だったか
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