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22 メイド、それぞれの事情に思いを馳せる。

 私とリムマイアは受付にいるメルポリーさんの元へ。

 少し距離を置いて様子を窺う。

 受付は対応していた職員の人からエリザさんに代わっていた。なだめるように彼女は手をパタパタさせる。


「メ、メルポリー、冷静に。爆発させちゃダメよ」

「だから、しっかり探してと言ってる。彼の名前がないわけない!」


 とメルポリーさんは怒りのままに手元にあったペンを投げた。

 ペンはまっすぐ私に向かって飛んでくる。

 な、何かやばい気がする! あのペンから危険な魔力を感じるような……。……そうだ、さっきエリザさんは確かに言った。爆発させちゃダメって!

 〈プラスシールド〉発動!


 ボンッ!


 慌てて出した魔法の盾に触れるや、ペンは突然爆発を起こした。

 ほんとに爆発した! 危なかったー!

 隣のリムマイアが興奮気味に。


「すごいぞオルセラ! よく防いだ!」

「……あの人の力、何なの?」

「メルポリーのクラスは【シューター】、レベルは47な。その固有魔法は、〈放ったものが爆発する〉だ」

「…………。まるで悪魔みたいな能力だね」


 人間兵器って呼ばれるわけだ……。

 あの背中にある大量の矢も全て爆発させるってことでしょ。大変な火力じゃない……。すごく可愛い子なのに、何とも恐ろしい固有魔法に目覚めたものだ。

 私同様、リムマイアも困った人を見るような目で彼女を眺めていた。


「あいつな、怒ると物を手当たり次第に投げる癖があるんだ……。そして、怒るとつい固有魔法を使ってしまう癖がある……」


 イコール、怒ると手当たり次第に周囲を爆破する癖がある、と。

 間違いない。メルポリーさんはとても困った人だ。

 それで、どうして彼女はそんなに怒ってるんだろう?


「もう一回見て! 絶対あるから!」


 メルポリーさんが今度はペン入れ(十本ほどペンが入ってるよ)に手を伸ばす。

 阻止するべくエリザさんもペン入れを掴んだ。


「これはやめて! 建物が崩壊する! 探したけど本当にないのよ!」

「そんなはずない! 手紙には二日前に転送されると書いてあった!」

「だとしたら、残念だけど……」

「…………、そんなはず、ない!」


 ……二日前?

 私が転送されてきたのと同じ日だ。

 その時、メルポリーさんが首につけているペンダントが目に入った。

 あ、これと一緒……。

 私はポケットからチェーン紐のペンダントを取り出した。リボルバーが出て来た後、〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉を連発していて現れたあれだよ。捨てるわけにもいかず、ずっと持っていたんだよね……。


 メルポリーさんはそれまでと一転して押し黙ってしまっていた。

 私はゆっくりと彼女の隣へ。


「あの、もしかしてこれ……、ご存知じゃないですか?」

「それ! どこでそのペンダントを!」

「これは私の魔法で」


 言いかけると、即座にリムマイアが「待った」をかけた。


「エリザ、部屋を貸してくれ」

「いいけど、爆破しないようにちゃんと見張っててよ……」


 リムマイアの機転で、私達は関所の個室に移動することになった。

 部屋に入るなり、早速リムマイアが尋ねる。


「メルポリー、そのペンダントは何なんだ?」

「これは私達兄弟の証」

「兄弟って、孤児院のか?」

「そう、全員が同じ物を持ってる」

「……そういうことか。お前の言いつけを破って志願した奴がいたんだな?」

「うん、一番年の近い弟が私に黙って……」


 今のでリムマイアは事情が分かったらしい。改めて私にも説明してくれた。

 孤児院で育ったメルポリーさんは、経営の苦しい院を支えるために戦士となったそうだ。幸いにも彼女は戦闘の才と固有魔法に恵まれ、かなりの収入を得られるようになった。

 孤児院は潤い、教育など充分な支援を受けられるようになった他の子供達は、各々好きな道に進むことが可能になったそう。


「だけど、戦士にだけはならないように言ってる。私はたまたま運がよかっただけで、この世界で生き残るのがどれほど大変か知ってるから」


 メルポリーさんはしみじみと呟いた。私の手からペンダントを受け取ると、それを見つめながら。


「二日前に到着するはずだった弟は、ずっと私と一緒に戦いたいと言っていた。ついに私には内緒で事を進めたみたい。私の事情は分かったはず。どうしてあなたがこのペンダントを持ってるのか教えて」


 私が視線を向けるとリムマイアは、仕方ないだろ、といった顔を返してきた。

 私は、自分の固有魔法のことから、ウルガルダと戦闘中のチームに遭遇したことまで、全てを話した。そして、おそらく大事なものであるそのペンダントが私の所に来たということは、もう持ち主はこの世を去っているだろうということも。


「……そう。…………。……オルセラ、といったか、ペンダントを持っていてくれてありがとう」


 メルポリーさんは無理矢理に自分を納得させたみたいに見えた。それから、ペンダントに語りかけるように小さく「バカ……」と。

 その後、彼女はエリザさん達に謝って帰っていった。


 固有魔法〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉は、私の意思だけじゃなく、元の所有者の意思も介在する余地があると思う。

 ……もしかしたら、あのペンダント、メルポリーさんに届けてほしかったのかな?

 魔石を換金してもらいながら、ふとそんな気がした。

 今更ながら、戦士それぞれに抱えているものがあるのだと実感する。


「弟さん、メルポリーさん一人を戦いにいかせてることが申し訳なくて、何とか力になりたかったんだね、きっと」


 私の言葉にリムマイアは「それだけじゃない気がするがな」と言った。


「まあ、オルセラにはまだ早いか」

「どういうこと? 私達、同い年でしょ……。そういえば、リムマイアも孤児院で育ったんだよね?」

「私のとこはメルポリーの孤児院とは大分違うが。まあ、その内話してやる。オルセラの使ってるその剣と鎧にも関係することだし」

「まさかこの装備、すごい物だったりするの?」

「ああ、すごい。私の国の公爵令嬢が金にものを言わせて作った武具だからな」


 なんか、ろくでもない感じがする……。

 リムマイアは時折、とても同い年に見えない時がある。ただの経験の差、だけなのかな。

 見つめていると、彼女は何かを思い出したように「あ」と。


「オルセラ、もしかしたら私、その剣に付与されてる魔法、教えてないかも……」


 ……何だって?

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