21 メイド、爆撃される。
目の前に並んだ六つの魔石を眺め、タヌセラは至福の表情を浮かべていた。
嬉しい気持ちは分かるけど、怪我の治療が先だよ。
最後のレギドランとの戦闘で無茶をしたこの子は、かなりの反撃を受けてしまった。傷の具合は決して浅くない。
私は取り出したヒールストーンをタヌセラの頭に乗っけた。
すぐに柔らかな光が契約獣を包みこむ。怪我は見る見る完治し、なぜか全身の毛並みも艶やかになった。
(すごいです! あっという間に傷が! あと体調もすこぶるよくなりました!)
証明するようにピョンと跳ねるタヌセラ。
そういえば、軽い病気ならヒールストーン一個で治せるって聞いたことがある。さすが十万ゼアの小石だ。
タヌセラは改めて魔石の前に座り直した。
「キュキュッ。キューイ?」
(健康になったらがぜん食欲が湧いてきました。食べていいですか?)
「どうぞ、召し上がれ」
一気にたいらげるかと思いきや、タヌセラは一個一個ゆっくり食べていく。
(自分の力で手に入れた魔石は格別です!)
確かに一匹で倒すのは初めてだもんね。存分に味わうといいよ。
意気揚々と食べていたタヌセラだが、途中でその口が止まった。突然、目から涙を溢れさせる。
「ど! どうしたの!」
(……私は、気付いたらこの姿で森の中にいました。そして自分の立場を理解した時に訪れたのは、絶望。私はただ他の魔獣の糧になるためだけの存在なのかと……。でも、あなたと出会って運命は変わりました。こんな日が来るなんて思いもしませんでした。……オルセラ、私なんかと契約してくれて、本当にありがとう)
……この子が私を必死に守ろうとしたり、とにかく強くなろうとするのは、私に恩返しをしたいからなのかな……?
おや? タヌセラの頭から湯気が。
「……照れるなら言わなきゃいいのに」
「クキュー……」
(思ったより恥ずかしかったです……)
お礼を言うべきなのは私の方かもしれない。すごくいい魔獣と巡り会えた気がする。
と思っていると、魔石を食べていたタヌセラのレベルが9に上がった。
(また私が先に行ってしまってすみません。オルセラ、早く私に追いついてくださいね)
…………。お礼はいいや。
先ほどのレギドランとの戦闘で、私はレベル7から8になった。
そうそう、それでリムマイアに確認したいことがあったんだ。とっくに戦いは終わってるのに、どうして出てこないんだろ?
振り返ると彼女はすぐそこに立っていた。微笑ましいものでも見るような眼差し。
「なんか、邪魔しちゃ悪い気がして」
「気配まで絶ってお気遣いどうも……。教えてほしいんだけど、もしかして契約獣が倒した敵の経験値って私にも入ったりするの?」
「というより、オルセラにしか入らない。魔獣がレベルを上げる手段は魔石を食べる以外にないから」
「そうだったんだ、じゃあちゃんと魔石あげないといけないね」
「お前はちゃんとあげてると思うぞ。むしろあげすぎだ」
リムマイアは魔石を完食したタヌセラの元へ。その毛に手を埋める。
「おお……、ヒールストーンのおかげでつやつやのふわふわだな。触ってて気持ちいい。私の契約獣もこんなにもふもふだったらよかったのに」
「え、リムマイアってもう契約獣いるの? 一度も見てないけど」
「ちょっと面倒な奴だからあまり呼ばないようにしてるんだ。あいつと解約して私も毛のあるのと契約し直そうかな」
そう言って彼女はタヌセラを撫でる速度を一層上げる。
ふーん、契約獣って必要に応じて呼べたりもするんだ。それにしても、ちょっと面倒っていったいどんな魔獣なんだろ。
私もタヌセラの頭を撫でながら。
「リムマイアももふもふの契約獣がほしくなったってさ」
(でしたらぜひラクームを! 私の仲間を増やしてください!)
「いやいや、さすがにラクームはない。最弱だし」
「……だってさ」
「…………、クッ!」
それならもう触らせません! と言うように契約獣は後ろに跳んだ。
この後、私はさらにモノドラギスとウルガルダを一頭ずつ狩った。
百万以上稼いだところで町への帰路に。
帰り道、リムマイアはずっと口を尖らせていた。
「まだ魔力には余裕があるだろ。もうちょっと頑張らないか?」
「充分頑張ったよ。……余裕のある時に引き上げないとどうなるか、私は昨日身に沁みた」
レジセネの町に着くと、まずは魔石を換金するために関所へと向かった。
しかし、建物に入る前に昨日の戦士達から呼び止められ、可愛がられる羽目に。もちろん言葉通りの意味で、タヌセラが、だよ。
「この子! 今日一匹でレギドランの群れを討伐したんだって!」
お姉さん達にモフられる狸の魔獣。
「私もマジでラクームと契約しようかな」
「私はマジでタヌセラと契約したいわ」
「ヒールストーンで上質の毛並みに……」
「オルセラ、ヒールストーンを一個使っちゃったんでしょ? 私のを分けてあげる」
「い、いいんですか? ありがとうございます」
治癒の魔法道具は補充され、再び十個になった。
タヌセラもよかったね。本当に仲間が増えそうじゃない?
お姉さん達がタヌセラの魔力(魅力)の虜になっているので、とりあえず魔石を換金しにいくことにした。
関所の入口に足を向けたその時だった。
突然、私の横の壁が内側から押されるように膨らむ。
ドンッ!
空気を震わせる凄まじい爆発。
爆風で吹き飛ばされた私を、回りこんだリムマイアがキャッチしてくれた。
「なななな何事! 私どうして爆撃されたの!」
「いや、巻きこまれただけだろ」
二人で新たにできた入口から中の様子を窺った。
どうやらやったのは受付に詰め寄っている女の子らしい。かなりの美少女で、髪を両サイドで二つにくくっている。そして、物々しい重装備。背中に大きなボウガンを二つも背負っていた。
彼女を見たリムマイアが、やっぱりな、といった感じで呟く。
「あいつの名はメルポリー、人間兵器と呼ばれてる奴だ」
に、人間兵器……?









