16 メイド、一段階上に行く。
倒れていた残り五頭のレギドランも順次起き上がってきた。
私の方は力が戻ったからといって余裕をかますつもりはない。さすがに囲まれたらまずいかもしれないし。
なので、こっちから攻める!
一頭の竜を標的に定めて駆け出した。
向こうは私の頭にかぶりつこうと大きく口を開ける。
やめて。その危険な牙はしまってろ。
左手で下顎を殴りつけ、口を閉じさせたついでに意識を奪う。即座に右手の剣で喉を裂いて仕留めた。
休まず次のレギドランへ。
今度は相手が攻撃に入る前に一気に距離を詰めた。
こちらも喉元一突きで終わらせる。
……あ、今ので【メイド】レベル7になった。
力が湧いてくるし、体も一段と軽くなった気がするね。
これなら残りも……。
目をやると一頭がタヌセラに向かっていくところだった。
タヌセラも魔石を食べまくってるから美味しそうに見えるのかもしれないけど……、相手は私だよ!
「させるか! 〈サンダーボルト〉ー!」
私の放った雷が、契約獣に襲いかかろうとしていたレギドランを吹き飛ばした。
時間差で感電によってその命を奪う。
うん、魔法も威力が上がったみたいだ。
あっという間に肉体が塵に変わった仲間達を見て、二頭のレギドランはたじろぐ。
「逃げないなら狩るよ、あんた達」
とリムマイアの真似をして言ってみる。
竜達は顔を見合わせたのち、左右に別れて挟みにきた。
む、頭脳的な作戦に。
さっきまでの私なら慌てただろうけど、今なら対応できると思う。
両側からほぼ同時に繰り出される鉤爪。片方はかわし、もう片方は剣で弾いた。
それから、剣を振りつつ体を回転させ、〈サンダーウエポン〉を唱える。
ズババリバリバリバリッ!
一振りで二頭の体を斬ると同時に、傷口から雷を流した。
レギドラン達は大地に崩れるより先に、魔石へと姿を変えていた。
……はぁ、何とかなったね。
ん? タヌセラがキラキラした眼差しを私に。
「キュキューイ!」
(オルセラ! 今のすごくかっこよかったです!)
そ、そう?
(はい、本当に! あ、魔石を拾うの忘れないでください)
……はいはい、お世辞を言わなくてもきちんとするから。
魔石を回収しながら、私は一本の木に視線を向けた。
「もう下りてきたら? 見てないで手伝ってくれればよかったのに」
呼びかけると葉が揺れ、リムマイアがシュタッと着地。
私が気付いたのは途中からだけど、たぶん魔力を呼び寄せたすぐ後くらいにはもうあの場所にいたんじゃないかな。
リムマイアは笑みを浮かべ、上機嫌で私の所へ。まったく、こっちは大変だったんだよ。
「手伝いなんていらなかっただろ? 急に魔力を消費したから、絶対オルセラの仕業だと思った。お前の魔法、マジでやばいな。魔力切れの心配なく狩りができるじゃないか」
「私が必死に、つまり絶体絶命にならなきゃ指定して呼べないから、そんなにうまくはいかないって」
そうか、でも今回私は初めて望んだものを呼び寄せたんだ。これって私が固有魔法を制御しつつあるってことなのかな?
リムマイアも魔石を拾い上げると、私にポーンと投げ渡してくれた。
「まあ、魔法がやばいのは分かっていたことだとして、あとお前の戦闘技術だ。また一段階上がってたぞ」
「あー、なんか戦ってる内に思い出したんだよね。オルディア様とのごっこ遊び」
「……オルセラが聖母とやってたの、絶対に遊びじゃなくて戦闘訓練だと思う」
そんなわけない、と思うけど。
よし、とりあえずこれで全部拾ったね。
私は集めた魔石五つを持ってタヌセラの所へ歩いていく。
狸の魔獣は急かすように尻尾をふりふり。
「すぐにあげるから落ち着いて。また怪我がうずいちゃうよ」
魔石を一つ与えると、タヌセラも私と同じレベル7になった。
「キュウ! キュウ!」
(もっとください! もう全部ください!)
がっつかないで。一気には無理でしょうが。
最後の魔石から魔力を吸いこむと、契約獣のレベルは8に。
……ついに私を抜いたよ、この子。
タヌセラが今日食べた魔石は、ウルガルダ二個とレギドラン七個。金額に換算するとたぶん百万ゼアを超える。
昨日に引き続き今日も百万……。
本当にお金のかかる狸だよ……。
当のタヌセラは満足げな表情。を見せたかと思ったら、私の前できちっとお座りをした。
(オルセラ、私、もっともっと強くなりますから。ちゃんとあなたの役に立てるくらい)
……まったく。その気持ちが分かってるから、私も何とかしてあげたくなっちゃうんだけどね。
それにしても、魔石全部食べたのにタヌセラの怪我は治らなかったな。
するとその傷を見ていたリムマイアが。
「これぐらいなら大丈夫だ。魔力も充分だし、町に着く頃にはほぼ完治してるだろう」
「そっか、よかった。じゃ、レジセネに戻ろう」
「……待った。オルセラ、まだ魔力はかなり残ってるだろ? ついでにモノドラギスと戦っていかないか?」
「…………。いや、もうさすがに帰るよ」









