15 メイド、強者の雰囲気を醸し出す。
タヌセラの奮闘に心を打たれ、あとは私が頑張ると誓った。……はずなのに、早速心が折れそうだよ。
私の目の前には、体長二メートルのドラゴン、レギドランが六頭。
ついさっき森の奥から新たに二頭走ってきて、戦っていた四頭と合流した。
……そんなのありなの? やっとの思いで一頭倒したのに二頭増えたよ……。いや、もしかしたら最初から七頭の群れだったのかも。
とにかくこの状況は絶体絶命だ。
「クー……」
背後からタヌセラの不安げな声が聞こえてきた。
この子は怪我のせいでもうまともに動けない。
ここに釘付けの私達は敵との距離を調整することもできなくなった。
レギドラン達も承知しているらしく、焦らずにゆっくりと詰め寄ってくる。
六頭で一斉に飛びかかってくる気だ……!
……結局、またあれに頼るしかなくなったということだね。
私が魔法を使えるのは、〈サンダーボルト〉系か〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉のどれかあと一回だけ。
もちろん一度の雷撃でこの場を切り抜けるのは不可能。
残されたのは、今回も固有魔法の奇跡にすがるって道のみなんだよね……。
私はまだこの魔法を制御できていない。
ほしいものを呼べるわけじゃないし、普通に使えばゴミが出る確率の方が断然高いだろう。
ただ、私が影響を及ぼせる瞬間もある。
それは、必死になった時。だから本当にどうしようもなくなるほど追いこまれるまで使えなかった。
これ以上の状況はないでしょ!
間違いなく私は今、今日一番必死になってる!
これまでと違い、呼び寄せたいものは明確に決まっていた。それの所在もはっきりしている。
リムマイアの中だ。
彼女はさっき確かに、あり余ってる、と言ってた。魔法が呼べたんだから可能なはず。
問題はリムマイアが現在、私から一キロメートル以内にいるかどうか。そこはもう神様にでも祈るしかない。
ついにレギドラン六頭が私のすぐ前で横並びになった。揃って力を溜めるようにググッと屈みこむ。
ダメだ! もう祈ってる時間もない!
やるしかない!
〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉!
キュイィ――――――ン!
…………、……し、失敗した……?
……シュ、
シュオオオオオオオオ!
き! 来たー!
喜びに浸っている猶予はなかった。
レギドラン達が一斉に地面を蹴って空中へ。
こっちも来たー!
私は剣を大きく振りかぶる。
「〈サンダースラッシュ〉!」
横に薙ぐように、前方へ向けて雷の斬撃を放った。
使うのは初めてだけどうまくいった!
致命傷は与えられなかったものの、攻撃を防ぐのには充分だったと言える。
六頭の竜は雷に弾き返され、次々に横たわった。
すぐに起き上がってこないと見て取り、私は自分の中に満たされたものを確認する。
……すごい、空っぽに近かったのに、完全回復した。
私が呼び寄せたのは、魔力だ。
もらった相手はたぶんリムマイアだと思う。彼女にとってはおそらくわずかな量。でも、私にとってはこの窮地を打開する大きな力になる。
よし、サンダー系はあと八発撃てそうだね。
そんなには必要なさそうだけど。
魔力が戻ってから、体にも力が漲ってくる。
きっと今の私なら……。
一早く立ち上がったレギドランの元へ歩みを進めた。
向かい合うも、相手は先ほどのように勢いよく攻撃を仕掛けてはこない。慎重に私を見定めようとしている感じがする。
(……こいつ、……さっきとはまるで別人だ!)
とか思ってたりするのかも。タヌセラじゃないから分からないけど。
何にしろ、来ないならこっちから行くよ。
私が踏み出すと、レギドランも慌てた様子で前脚の爪を繰り出してきた。
横へのステップで私は難なくそれを避ける。
……なぜか攻撃の軌道もよく見えるね。全く当たる気がしないよ。
私はさらに一歩前へ。
剣を突き出すと、刃は竜の胸にスーッと吸いこまれていった。
すぐにレギドランの体は消滅し、私が貫いたであろう心臓辺りに魔石が出現。
今回も地面に落ちる前に回収したそれをじっと見つめる。
魔力が戻ってようやく実感できた。
リムマイアが言ったように、私、本当に戦いが身につき始めてる。
「キュー! キュー!」
お座りをしたタヌセラが嬉しそうな声で鳴いていた。
「もう心配ないよ、タヌセラ。これでも食べて養生していて」
魔石を投げると、契約獣はそれを口でキャッチ。
しかし、体を伸ばした際に傷がうずいたのか、その場にうずくまってしまった。
(……あいたた、いた……、いたれりつくせりです!)
……ああそう。お大事に。