14 メイド、契約獣の奮闘に心を打たれる。
茂みから出た私とタヌセラの前には、五頭のレギドラン。
……このドラゴン、走竜種というだけあってスピードはかなりのものだ。逃げ切れる相手じゃない。
戦うしかないんだけど、これだけの数は……。それに、私の魔力はもう……。
いや! 弱気になってる場合じゃない! 今は助けてくれるリムマイアもいないんだから、本当に命の懸かった戦いだ! やるしかない!
「タヌセラ、私から離れちゃダメだよ」
「ギャウ!」
契約獣にも私の覚悟が伝わったらしい。捕食者達に向かって威嚇を放った。
一方のレギドラン達も後脚で立ち、前脚の鋭い爪を見せつけて私達を威嚇してくる。
少しずつ距離を詰めようと、じりじりと前へ。
それに合わせて私達は、じりじりと後ろへ。
……囲まれるのだけは絶対に避けないと。あと、一斉に飛びかかってこられるのも避けたい。
一頭一頭との距離はバラバラに保つのがいいね。
ちょっとでも時間差があれば……、来る!
痺れを切らしたように、先頭の竜が駆け出してきた。
私は前脚の攻撃をかわして横に回りこむ。すかさず剣を振り抜いた。
シュッ!
私の一撃は剣先がわずかに敵の胴をかすっただけだった。
今のは向こうに読まれてた……。それに、私の方も体が重くて思ったように動けてない。魔力が残り少ないせいだ……。
状況を確認している間に、もう一頭レギドランが迫ってきていた。
まずい! 回避できない!
そう思った瞬間、竜の頭部を火の玉が直撃。
ボワッ!
言葉通り、面食らった相手は動きを止めた。
隙を逃さず、こちらも胴を斬りつける。
「グガァッ!」
ドラゴンの悲鳴。先ほどの個体より深手を負わせることができた。
さっきのはタヌセラの〈狸火〉だ!
そうだ、小さな炎でも顔を狙えば敵を驚かせるくらいはできる。そしてナイスコントロール!
「よくやったよ! タヌセラ!」
「キュキューン!」
(私だって役に立ちます!)
「ほんとだね! 〈狸火〉はあと何発撃てそう?」
(……すみません、もう二回しか使えません。私も魔力の大半を消費してしまっています)
「ご飯の時に無駄遣いしたからだよ!」
「…………、キュ」
まあ、タヌセラもまさか自分が戦わなきゃいけない事態になるとは思ってなかったよね……。
でも、今は頑張ってもらうしかない。
私達の連携に怯んでいたレギドラン達だが、態勢を立て直しつつあった。
今度は二頭同時に襲いくる。
私も前へと駆け出し、一頭の脚に斬撃を浴びせた。
もう片方は、タヌセラ頼んだよ!
心得ていた契約獣は敵の顔を狙って〈狸火〉を発射。
しかし、標的の竜は頭をクイッと下げてこれをかわした。
避けられた! ……狙われる箇所が分かってたから備えてたんだ。やっぱり魔獣って知能が高い。
なんて感心してる場合じゃない!
私が危ないっ!
剣を振った直後で体勢の悪い私に、火の玉を回避したレギドランの鋭い爪が。
「ギャルルルル!」
唸り声と共にタヌセラが飛びかかっていた。
だが短い爪は届かず、私の代わりに攻撃を受けることに。
タ! タヌセラー!
「ク、キュ……、キュー!」
弾き飛ばされながらも、狸の魔獣は最後の〈狸火〉を放った。
至近距離からの魔法は、今度はしっかり竜の顔面を捉える。
このチャンスは絶対無駄にしちゃダメだ!
私は剣を強く握り直し、レギドランの懐に入る。全身の力を使って首元に深く剣を突き刺した。
竜の目から光が消え、すぐにその体も塵に。
出現した魔石が地面に落ちるより早く、私はそれを空中で掴んでいた。
即座にタヌセラの元へ。見ると腹部にひどい傷を負っている。
やっぱり! 思った通りかなり深い! あとで自分が重傷になりそうな時も助けにきちゃダメって言わないと! でも本当にありがとう!
「タヌセラ! 早くこれを食べて!」
手に入れたばかりの魔石を口に咥えさせる。
砕けて溢れた魔力が喉の奥に吸いこまれていった。
「クー……」
(……新鮮な魔力、激ウマ、です……)
言ってる場合じゃないでしょ! のん気なの!
いや、けど流れ続けていた血が止まった。
まだ動くのは無理そうだけど、とりあえずは大丈夫そうだね。
レギドラン達に視線を向けると、あちらは互いに顔を見合わせて何か相談でもしている様子。
やがて揃って私達の方に振り返った。
……どうやら、まだ戦う気みたいだ。
「心配しないで、タヌセラ。絶対に私が守ってあげるから」
この子がこんなに奮闘したんだから、あとは私が頑張らないと!