不安だよ
初めはコスプレかと思った。だけど、その羽は、どこからどう見ても、付けているとはいえなかった。
それは、生えているものだった。
「少年、見ちゃったね」
彼女のその言葉で、俺は不安に覆われた。
俺は、これからどうなるんだろう。正体がバレたから、みたいなやつで殺されるんだろうか。実は、完成度の高いコスプレでした、みたいな感じで、大きなカメラを持った人とかが出て来るんじゃないんだろうか。できるだけ落ち着けるよう、たくさんの答えを用意したが、落ち着くことは出来なかった。
とにかく、この状況を理解できていなかった俺だったが、この後の展開に対し、恐怖を感じることだけはできていた。
「あ、あの…」
その場しのぎの嘘でもいいから、何かしらの言葉を口に出そうとした。
だが、俺の口から、続きの言葉が出てくることはなかった。俺は、俺が思っている以上に、機転の利かない人間だったらしい。当然のことではあった。俺は、ただの普通の人だから。こんな、普通じゃない状況に対応できるはずもなかった。そのまま、俺は、何も出ることの無い口を、ただ静かに閉じてしまった。
それから、俺が特に何も言うことも無く、この静寂とした空間に若干の気まづさが生まれようとした、その時、彼女が口を開いた。
「まあ、その、なんだ」
その一瞬で、答えが出る、そう感じた俺は、身を固くして、グッと唾を飲んだ。
そして、彼女は答えを出した。
「バレてしまったものは、仕方がないな」
それは、俺が考えていたパターンの中にはない答えだった。
「…え。いやいや、 俺が言うのもなんですが、なんか、ダメでしょ!」
「そりゃあ、あんまりバレるのはよくないがな、バレてしまった以上、どうすることもできんじゃろ」
「確かに、そうですけど…」
明確な"驚き呆れる"を体験したのは、これが初めてだった。俺に危険が及ばないことが分かって、少し安心はしたものの、本当に"仕方がない"で済ましていいものか、とても心配になってしまった。
「だがまあ、確かに、万が一を考えて、お主をこのまま放って置くというのは、流石にまずいか」
そう言うと彼女は、眉間に皺を寄せ、右手の人差し指で、こめかみをトントンとつつきながら、考えている表情に変わっていった。まあ、俺でも、もう一度考え直すべきだとは思った。
少し沈黙が続いた。その沈黙は、俺の心を埋めかけていた安心を、段々と不安へと戻そうとしていった。そうして、不安が四割を占めようとした、その時、彼女は、万遍の笑みで、こちらに顔を向けた。まるで、名案を思いついたかのように。
「よし、決まった。行くぞ!」
「えっと、どこにですか」
「今日から我は、お主の家に住むことに決めたのじゃ!」
俺の心は、不安で埋め尽くされた。