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終章② 誓い

 アトラスガーデン東部の最果て。

 外装が焼け焦げて骨格だけ残された建物や、時間の経過に耐え切れず崩れてしまった民家、そして草木一つとしてない荒れ果てた大地がそこに広がっていた。


 イツキとルシアの生まれ故郷である。

 かつて『ウロボロス』が引き起こしたテロ事件から、八年という月日が過ぎ去ったわけだが、この場所はいまだに復興の手が届いておらず、まるで時間が止まっているようだった。


 荒んだ景色に胸を痛めながら、四人の少年少女は歩みを進めていた。


「……結局、工房なくなっちゃたわねえ~」

「……マティ、その話はしないって、そう言ったじゃないですか」


 ため息交じりに紡がれたマティアナの言葉に、すぐさまアガットはむうっと頬を膨らませた。

 ごめんごめん、と言いながらもマティアナの表情は優れない。ここしばらく古代式錬金術で遊べなくて禁断症状が出そうだとかなんとか。一応、他の工房術師団の釜を借りることなども提案したが、マティアナは「ルシアの工房じゃなきゃいやなのよ」とのことらしい。

 どうやら他の工房術師団は対価なしに他人に釜を貸してくれないし、貸してくれたところで爆発が起きたとき一緒に怒られたり、片付けしたりしてくれないらしい。むしろ当然の反応であることはこの際黙っておこう。


 なにはともあれ、工房対抗戦はミシュアたちの勝利に終わり、ルシアの工房は解散となった。


「でも、あれ最初からルシアとイツキがいたら、絶対あたしら勝ってたでしょ」

「はい! そりゃあもう当然じゃないですかっ! 私とルシアちゃんのコンビネーションに、マティの徹底したサポートも加わって敵なしなんですから!」


 感情が昂ったのかマティアナの言葉に同調して豪語するアガット。

 直後、あっ、と彼女は申し訳なさそうにイツキを見た。


「……えーっと、その、オリハラくんは、だから……」

「あはは、いいよ気を遣わなくて。俺は実際大したことできないから」


 気にすることはないと返したイツキに、傍らを歩いていたルシアがうんうんと頷いた。


「そうそう。イツキくんのことなんて肉壁程度に思っておけばいいのよ」

「そうそう、って肉壁はひどいだろ!? いや、まあそのとおりだし、俺もそれくらいしか役に立てないとは思ってるけどさ……」


 がっくりと肩を落としたイツキ。

 そうこうしているうちに目的地が見えてきた。

 そこは、イツキとルシアが子供だった頃、約束を交わした公園だった。

 奇跡的とでも言うべきだろうか。その最果ての公園だけは炎の魔手から逃れていたらしく、多少寂れてこそいるものの八年前と変わらぬ姿をしていた。


「こんなことも、あるのね……」


 感慨深そうにルシアが呟いた。

 イツキもおなじ思いを抱きながら息を呑んでいた。


「正直、ここも焼け野原になってると思ってたんだけど、驚いた」


 大陸の果てにある公園の端まで歩みを進めると、雲海が見渡す限りの一面に広がっていた。

 夕焼けに照らされながら、きらきらと茜色に輝いた雲の大海原を瞳に映すと、無意識にいつかの日のことを思い出してしまう。


 それはきっとルシアも同じだったのだろう。

 どちらからともなく、二人は手を触れ合わせ、そして指を絡めて繋げるのだった。


 また二人揃ってこの景色に辿り着けたことを確かめるように。

 しばらく、マティアナもアガットも含めて、朱色の雲海を眺めていた。


「さて、それじゃあ気を取り直すとしますか」

「はい。私たちはたとえ工房がなくても一緒です!」


 マティアナとアガットがそれぞれ拳を出した。

 イツキとルシアも一度顔を見合わせ、頷き合って、それから二人に倣った。


「でも絶対に取り戻そう。俺たちを繋ぎ合わせてくれた場所だから」

「わたしはみんなと一緒に正式な工房術師団を目指す! そして今度こそ必ずミシュアたちに勝ってみせるわ!」


 こつん、と四つの拳が重なるように触れ合った。

 それは、かつての二人の約束から八年を経て、新たに四人の誓いが交わされた瞬間である。


 空の大陸・アトラスガーデン。

 その最果ての地で、夕陽に照らされた若き錬金術師たちは、誓い合った。

 これまでに繋げてきたものをより深く結び、ここから始まる新たな未来を紡いでいくことを――。




                                    (おわり)

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