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第六話 帰還

「もう小賢しい手札も尽き果てましたか、マティアナ=テェルリッシュ?」

「そう、ね……もう鞄に仕込んでおいた道具も、ゼロ……」


 マティアナは悔しげに項垂れた。

 その一方でミシュアとその取り巻きたちは涼しい顔をしている。もうかれこれ三〇分以上は彼女たちの包囲網から逃げ続けていただろう。追う者と追われる者は関係を一切崩すことなく、大逆転劇があるわけでもない停滞した試合模様がしきりに続いていたのだ。さすがに集まった観客たちも飽きたのか観覧席の人影は当初の半分以下にまで減っている。

 それどころか、観覧席で雑談に盛り上がったり、そのまま寝ている者までいる始末だ。


「……アガット、もう打つ手ないんだけど、どうする?」

「……そうですね。もうどうしようもないけど、それでも降参だけは、したくありません」

「オーケー。それなら最後に一暴れしちゃう?」

「もちろん! マティの治療のおかげで、私も少しは回復しましたから、やれます!」


 荒地エリアの高い崖を背にして肩を組んだマティアナとアガットは、もうこれ以上は無理だと誰もが理解しているなかで、それでも諦めることだけはしなかった。


 たとえ、負けるとわかっていても、諦めてしまったら帰ってきたルシアに顔向けできない。

 こつん、とお互いの健闘を祈るように拳を突き合わせて、二人はミシュアの工房術師団へと懸命に立ち向かっていった。


 だが、がむしゃらに駆ける二人に向けて、ミシュアの取り巻きたちは容赦なく攻撃を放つ。

 勝利を掴み取るための止めどない波状攻撃が二人に襲い掛かる。


 そのときだった。


「イツキくん、わたしを全力で二人のところまで飛ばして!」

「ああ! ルシアちゃん、あとは任せたぜ!」


 観覧席の柵を飛び越えて戦場に乱入する影が二つ。

 イツキは、抱きかかえたルシアを力いっぱいに放り投げながら、荒地エリアと隣接している湿原エリアの泥沼へと落ちていく。

 まるで使い捨ての射出台のような役割だったが、本人は満足そうにサムズアップしていた。


 そして、


「……わたし抜きの間に随分と楽しんでいたようね、ミシュア=アルラナフィ!」


 ルシアは全身から冷気を射出する。

 それらは即座に氷槍と変じて激しく降り注ぎ、荒地エリアを凍土へと変貌させる。

 ミシュアの取り巻きが放った錬金術の波状攻撃が、ことごとく氷槍に貫かれて凍てついた。


 ――まだまだ、こんなもんじゃない……はやく、もっと強固で、強く……!


 脳裏に焼き付けた担任教師の錬金術はこの程度ではない。

 ルシアは自分自身をそう叱咤しながら、大切な工房の仲間たち――満身創痍のマティアナとアガットと肩を並べるように、ようやく戦場へと降り立った。


 その瞬間、観覧席は僅かの間静寂に包まれて、それから大歓声が沸き上がる。

 ミシュアは、戦場に立った紅髪の少女を瞳に捉え、このときを待っていたと言わんばかりに、今日一番に高らかな声をあげるのだった。


「ようやく来ましたわね、ルシア=サルタトール!」

「ええ、少々お花を摘んでいたもので、待たせてしまったわね」


 学院最強と称される天才と、学院最強を自称する努力家(?)が、ここに対峙した。

 誰もが待ち望み、誰もが期待していた、両雄の激突がいまここに始まる。

 ここからが工房対抗戦の本当の開幕だった――

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