第6話 今後の話と邪神について
「私がダースティアにですか?」
「ああ、言い方は悪いがお前はこんな辺境にいるべき人物ではない。冒険者になるにせよ神官になるにせよ。大きな街に行った方がいい。」
「私は、元々邪神と戦うという志を持っていましたので、正直渡りに船なのですが」
「邪神復活の話は俺も知っている。今回倒したゴブリンキングが魔王化しかけていたことからも、その影響の可能性もあるしな。お前のような高位の聖属性を持っているものを鍛えておいた方が良いと思ってな」
「アルニスさんが冒険者として鍛えてくれるということですか?」
「へー。それはいいんじゃない?旅をするにしたって下地は必要だろうし」
「アフェットと共に旅をするならメロウも修行しないとな」
「え! 私も修行するの?」
「邪神討伐の志を持つアフェットと旅をするならそれ相応の強さが必要だろうしな」
「旅には出ようと思っていましたので、アルニスさんのお言葉に甘えさせていただきたく思います」
「ただし勘違いはするなよ、甘やかしたりはしないからな」
「そこは全力で甘やかしてくれてもいいのになぁ」
「ふふ。まあ当座の生活の面倒くらいは見てやる。母譲りなのだろうが聖属性は見事だが他の属性を知らなすぎるから、まずはその辺からだな」
「他の属性は基礎程度しか知らないですしね」
「あたしは太陽を少し知ってるだけ」
話をしているうちに見張り時間も過ぎマントにくるまり就寝しました。
少し大きな声での話合いが聞こえ、眠りから覚めたところアランさんとアルニスさんが口論しているようでした。
「アルニスよ、見張り時間が一緒だったからってアフェットをもっていくのは、ちょいとずるいんじゃないか?」
「確かに抜け駆けをした感は俺も持っている。だがアフェットはまだ幼くて素人も同然だ。俺はアフェットを全くの素人として育てる気だが、お前ら[暴風の斧]は即戦力として使うつもりだろ? それではアフェットの将来を潰しかねない」
「それは否定できないが、あのレベルのヒーラーを即戦力として扱うのはおかしくないだろう。うちのパーティにはヒーラーがいないからな」
「アフェットには邪神討伐の志がある。その志を尊重して鍛えてやりたいと俺は思っている」
「邪神復活なんて御伽噺にすぎないだろ!」
「昨日のゴブリンキングを見てもそう言えるのか?」
「キング級の魔王化は、全く無いというわけではないだろう」
「ローザはどう思う?」
「そもそも魔王自体見たことが無いから何とも言えないが、昨日のゴブリンキングを見たら邪神復活って言葉が全くありえないというわけではない気がする」
「俺たちエルフは普人族と比べると寿命が長い。その分邪神復活についての伝承も多く残っている。俺個人としては邪神は復活すると思っている。その際にアフェットの聖魔術はきっと世界の為になると思う。だからこそ育てたいと思ったんだ。」
「本人も納得してる上に頑固なエルフがここまで言い張るなら、これ以上は何を言っても無理か」
「残念だったねアラン。優秀なヒーラーを手に入れるチャンスだったのにね」
「全くだ。聖属性の使い手は教会が囲ってるから中々手に入らないから残念だよ。アフェットももう寝てる振りは止めていいぞ、話は終わったからな」
「バレバレだったのですか」
「そりゃあ。寝息が普通の呼吸に変わっていたら気づくだろう。邪神復活か、俺ももっと腕を磨いておくか」
「信じる気になったのか?」
「そういうローザはどうなんだ?」
「聖剣なんてものを作ってもらったからね、作り手が邪神が復活するというのなら、その可能性を信じて腕を磨くわよ。というのは建前で聖剣を見てたら腕を磨きたくなって仕方ないわ」
「修行をしたくなる呪いでも付与されてるわけじゃないだろうな」
「ホーリーウェポンに呪いを付与する効果はないのですが」
「まあ、全員起きたことだしそろそろ村まで戻るとするか。援軍の本隊も来てるだろうし、色々説明が必要だろうしな」
「ミランダついでに洞窟を埋めてしまえ。他の魔物が住み着いても困る」
「わかりましたローザさん」
ゴブリンキングの洞窟も埋めたことで、後始末も終わったと実感できました。
村で待っている村長達に朗報を持っていけるのは嬉しく思います。
スタンピートの影響か帰り道はまったく魔物に出会うことはありませんでした。
「援軍本隊が来る前に終わらせていまいましたが、その場合は報酬はどうなるのですが?」
「ギルドの規約とかだと参加費だけの支払いということにはなっているわね」
「しかし、それだと不満がでるから討伐に参加した者と参加できなかった者で魔石等を折半にする。騎士団等が出てきている場合でも同様だな」
「そうしないと、参加しない者が出る可能性があるからな、不満があるかもしれないが我慢しろよ」
「え、私にも報酬が出るのですか?」
「何を当たり前のことを言っているんだ。全ての戦える者が冒険者や騎士団に属しているわけではない」
「ちなみに戦った村人やアフェットや非戦闘員を護衛していた村人にも出る」
「今回みたいなことは分配が難しいからね、回収した全ての魔石や回収した物を一旦ギルドに集めてから再分配ってことになる。」
「アフェットは聖剣を作るという決定打になる働きをしたからな、かなりの報酬が期待できるぞ」
「まさか無報酬だと思っていたなんて信じられない」
「その辺もアルニスの今後の教育ってことかしらね」
「私はもしかして世間知らずなのですか?」
「かなり」「箱入りの神官みたい」「喪中はどうやって生きていたのか謎」「実力と経験があってない」「まあ、修行ばかりしすぎなんじゃないか」
ボロボロの評価でした。
魔物が出ないことから帰村も早く済みました。
「アフェットに冒険者の方々よく無事にお戻りで」
「ジュールさんただいま戻りました」
「早速だが対策本部はすでに設置されているか?」
「村の集会所に既に設置済みだ、ギルドと騎士団が合同で立ち上げている」
「では、我々はそちらに向かうとします」
「わしはしばらく警戒にあたっている、アフェット集会所に案内しなさい」
「ではご案内します。ついてきて下さい」
「ああ、頼む」
案内と言いましても集会所は村の中心にあるのでわかりやすいです。歩いて数分なのですが、村の馬借には収まりきらなかったのか無数の軍馬が繋がれていて、大勢の人が出入りしていました。
普段とのあまりの違い物々しい雰囲気に一瞬惚けてしまっているうちに、アルニスさん達冒険者の方々は気にせず中に入っていきました。
「おう、アルニスに[暴風の斧]に[六華の絆]か、強行軍ご苦労だったな。アルニスは更に大変だったろうによく頑張ったな」
顔に大きな古傷があり身長も2m近い偉丈夫がアルニスさん達に声を掛けました。私は余りの威圧感に思わず体が石化してしまったみたいに固まってしまいました。
「お嬢さんは知らん顔だな、俺はダースティアの冒険者ギルドマスターのバルドルだ」
「バルドルの陰に隠れて見えていないようだが私はダースティア騎士団の副団長エーギルだ」
バルトルさんの陰から出てきた騎士様も凄まじい威圧感の持ち主でした。
副団長のエーギル様もバルドルさんに負けず劣らずの偉丈夫で私は更に硬直してしまいました。
「バルドルお前の顔が怖すぎて硬直していまっているぞ」
「顔の怖さならエーギルも負けんだろう。それより、アルニスこのお嬢さんを連れてきたのはなんでだ?」
「彼の名前はアフェット。今回の討伐で活躍した村人です、ついでですが彼は男性です」
「ほう。そこまで腕がありそうには見えないが一体何をしたんだ。取り敢えず村を出てからの詳しい話を聞かせてくれ」
「ええ、見ていただきたい物もあるので手短に報告させていただきます」
「頼んだぜ」
それからゴブリンキング討伐までの話の流れをアルニスさんが代表して説明しました。
「魔王化に聖剣に邪気を放つ魔石か。ちょいと情報量が多いな」
「魔王化は聞かない話ではないし、この規模のスタンピートなら魔王化していてもおかしくはないな」
「しかし、魔王化した魔物を倒しても邪気を放つ魔石が出てきたことなどない」
「邪神復活が近い影響が考えられるか?」
「まだ4年もあるのにもう影響がでるのか?」
「邪神が復活したことがないのだからその辺はわからん」
「国や魔術ギルドや教会にも連絡を入れる必要があるな」
「各国とも連携が重要になる、この魔石の取り扱いは慎重にしなければ」
エーギル様とバルドルさんは二人で色々相談し始めてしまいました。私たちは置いてけぼりにされてしまい困惑していると、その空気を破る勇者が現れました。邪神復活を信じていないアランさんです。
「ちょ、ちょっと待ってくれエーギル様にマスター。まるで邪神が復活するのが確定しているかのようじゃないか」
「各国や教会に各ギルドの上層部は事実だと思って動いている」
「いたずらに混乱を生ませないために一般には知らされてはいないがな」
「冒険者だとAランク以上のものには知らせている」
「しかしもっと広げてくれれば強くなろうと努力する奴も増えるんじゃないか?」
「それ以上に世界が滅びるかもという厭世観が広がり治安が悪化する可能性が高い」
「Aランク以上にしてるのは、世界が滅びるなら強くなる努力をしなくなる者が増えることを懸念してだな。すでにAランクまで言ってるような連中はむしろ邪神との戦いを楽しみにしてるような頭のネジが外れた連中だ」
「アフェット君といったな、先ほどは失礼したな。そろそろ喋れるかい?」
「は、はい失礼しました。レネット村のアフェットです」
「最初に聞いておきたいが何で俺たちを見て固まってたんだ?」
「威圧感と言いますか覇気と言いますか、そういったものが目に見えて凄まじくて思わず固まってしまいました」
「威圧感に覇気か」
「たまにそういった物が目に見える者がいるようだな。魔眼の一種だな、敵の強さを見定めるのには使えるが、強敵と遭遇した時に動けなくなったら話にならんから慣らしておいた方がいいぞ」
「そうなんですね。教えていただきありがとうございます」
「つまり俺たちには覇気がないってことか」
「ち、違いますよ、ええと何と言いますか」
「戦闘中の高揚感の中と全てが終わってホッとしてる状態じゃまた違うだろうさ」
「そ、そうそれです!」
「軽い冗談に慌てすぎだ。それに俺たちも副団長やマスターにかなうとは思ってはないなしな」
肝心の話が進んでいないのは気のせいでしょうか。
何を聞かれるか緊張していた私を和ませようとしていたアランさんの冗談だと気付いたのは寝る前でした。