第58話 ペンテシアの足掻きと獣王との再会
聖国と帝国がペンテシア王国軍との本格的な戦闘に入った頃獣王国軍の陣地では攻撃に向けての会議を開いていました。
「タイミング的にはそろそろ聖国と帝国が動く頃か」
「聖国はペンテシアから泣きつかれて講和に入るということはないでしょうか?」
「両聖下だけなら白紙和平も受けたかもしれんが、聖下の側近たちがそれを止めるだろうよ」
「聖国は聖都をボロボロにされた恨みがあるでしょうしね」
「神敵指定されているいる以上ノーライフキングに勝てるとは思えん。前方の敵を潰したとしても多方面からの敵に襲われるなんてことはないだろう。故に魚鱗陣形にて敵陣を突破し一気に壊滅させるぞ」
「我らは敵より数で勝てておりますし問題ないかと思います」
「儂が先駆けをして敵の陣形を破壊してやるわ」
「遅れないようについていきますよ」
「ふっ、来れるならな来るといい」
獣王国軍は魚鱗陣形を取り、防御陣形である方円陣形を組むペンテシア軍に襲い掛かりました。防御を固めていたペンテシア軍の陣形を獣王率いる精鋭部隊が中央突破し一気に壊走状態に持っていくことに成功して早々に掃討戦移行しました。この一連の会戦を戦場となった地名を取り、ラガーラ平原の戦いと言われることになりました。
「いつ頃軍を動かせるか?」
「敵の捕虜もいますので、補給部隊が到着してからになるかと」
「捕虜は補給部隊に後送してもらうというわけか」
「流石に捕虜を連れて進軍は出来ませんので」
「戦争がここ数百年無かったことは素晴らしいことだが、戦争に関するノウハウが失われているのは痛いな」
「昔は捕虜はどうしていたのでしょうかね」
「捕虜を殺していたということは無いとは思うが、一回戦うたびに足を止めないといけないとは面倒なことこの上ないことよの」
「取り敢えずは補給部隊待ちですね」
「ノーライフキングの魔王に儂らだけで挑むのは面倒だし、聖下と早々に合流したいものだな」
捕虜の後送を終えた聖国軍が進撃を開始しようとしたところでラッシュが到着し帝国軍の現状を報告しました。
「なるほど。帝国軍は動けそうには無いということですね」
「そうなるな。だから獣王国軍と合流してペンテシアの王都を狙うか、ノーライフキングを狙うかだな」
「聖国軍でノーライフキングと当たって、獣王国軍でペンテシアの王都を落としてもらおうと思ういますがどうでしょう?」
「獣王が負けているとは思わんが、獣王国軍の現状が分からない以上憶測で動くべきでは無いな。どうせ通り道になるのだから獣王国軍と一度合流するべきだと思うぞ」
「確かにその通りですね。聖国軍は獣王国軍と合流するためにラガーラ平原に向かいます。行軍はダグラス将軍にお任せしますね」
聖国軍の総大将はアフェットとメロウなのですが、二人とも軍事に関しては素人なので方針のみをミリーとダグラスの助言を元に決定し、実際の軍事行動はダグラス将軍に委任しているという形式を取っています。
「承知いたしました。ラガーラ平原にいると思われる獣王国軍との合流を目指します」
「お願いします。ラッシュはこのまま合流してくれるのですか?」
「ああ。そのつもりだノーライフキングまでの道は作るさ」
「それは頼もしいですね。それでは将軍進軍をお願いします」
「はい、進軍開始。目標はラガーラ平原だ!」
獣王国軍との合流を目指して聖国軍は動き出しました。その頃ペンテシア王都でも王都民を徴兵していました。
「やや強引に徴兵をしたところ9万兵を集めました」
「王都民の3割か9万の兵力といえば聞こえはいいが所詮は民兵の上に武器も防具も指揮官もいないのではな」
「現在全力で弓と矢を生産させています」
「その結果として貯蓄用の薪も使っていると聞くが、籠城戦が冬まで長引けばどうするつもりか」
「それ以前に和平を結ぶほかないと思いますが」
「見た目だけの兵士に貯蓄を切り崩して作る弓矢、更には敵が早期講和に応じてくれるといいなという推測ばかりではないか!」
「しかし、ギルバート将軍が推測で戦争を進めるべきではないと進言されたのを退けて殺したのは陛下ではございませんか」
「何だと貴様!」
「どうやら私も宰相代理の任に相応しくない様子ですな、私は自邸にて謹慎したいと思います」
「勝手にしろ! 内務卿代わりに宰相代理をやれ」
「私も持病の癪が酷くなってしまったようで、この病身では相応しくないと思います」
「貴様等どういうつもりだ!」
「まあ誰しも敗戦の責任は取りたくないということですね」
「ふざけるな! なんのための貴族だ」
「陛下も王族としての責任を取り、聖下にご自身の処遇を任せてみてはいかがですか?」
「儂は白紙和平以外認めんぞ」
「レッテンを滅ぼした時点で白紙和平などありえないことはお分かりでしょう?」
「レッテンを滅ぼしたのは邪神教徒のニムギスではないか、儂の責任ではない」
「その邪神教徒を聖国から手配されていたのに匿っていた事実は動きません。更に聖都襲撃も我が国が邪神教徒と共謀した上でのことだと思われているようです。せめて邪神教徒の大主教を捕らえていればまだ交渉のしようもあったのでしょうが」
「くっ、もういい。誰でもいいから防衛戦の指揮をとれ!」
「指揮が取れそうな将軍はラッテル将軍以外にはいないでしょう」
「ではラッテルに指揮を取らせろ、それと宰相代理は貴様がやれ!」
「やむを得ません。王国貴族としての義務を果たさせていただきます」
「くそ、アフェットとメロウが出て来てから何もかもが上手くいかんわ」
「(聖人を敬わないからこうなっているのだよ)」
ペンテシア最後の宰相代理としてモルゲン侯爵が就任したことにより、ペンテシアの命運が少し伸びることになりました。
聖国軍はダグラス将軍の指揮でラガーラ平原まで到着し、補給部隊を待っていた獣王国軍と何事もなく合流することに成功しました。
「聖下。合流していただきありがとうございます」
「今後の行動について獣王と話をすべきかと思いまして」
「捕虜の処遇などもあり動けなかった為各地に斥候を放っております。どうもペンテシアの本隊はレーニシア平原にてノーライフキングと戦い壊滅した模様です。更にペンテシアの王都では民衆を徴兵して9万程の兵力で立て籠もっているようです」
「レッテン王国を滅ぼしたノーライフキングが何でレーニシア平原に来たのでしょう? ルーテシア王国の方が近そうですが」
「レッテン王国とルーテシア王国とポリシア公国の3ヶ国連合軍がペンテシア王国の補給路を断つために3カ国合同で騎兵隊を結成していたのですが、その騎兵隊が命を懸けてペンテシアまで誘導したとのことです」
「その勇士達は列福させるように法王に口添えしましょう」
「彼らも命を懸けた甲斐があったといえましょう」
「私は正直寿命死以外で列福してほしくはないですが」
「騎士として兵として生きることを自ら決めたのです、例え志半ばでの戦死だったのだとしても騎士として兵士としての誓いを守り死んだのです。残された我らにはその死を称えるしかないのではないでしょうか?」
「そうなのでしょうか、私に何か出来ることがあればいいのですが」
「あまり思いつめない方が良いと思いますぞ、今回の場合はペンテシアと邪神教徒という分かりやすい敵がいます。まずはそれを倒した上で死んだ者にしてあげれることが無いか考えましょう」
「そうですね、わかりました。それにしてもペンテシアはまだ9万も兵力がいるのですね」
「9万といっても訓練もしていない民兵ですからな。数は厄介ですが落とすことは難しくないでしょう」
「9万の兵に弓で武装されたら厄介なのでは?」
「聖下は弓を使わないですからな、アルニス殿ならわかるでしょうが徴兵された兵が弓を持ったとして脅威ですかな?」
「それはないでしょうね。正確に的を射貫けるようになるまでにはそれなりの期間が必要になりますし9万人が潤沢に使う量の矢を集められるとは思えないですね」
「そうですか、それではノーライフキングがどれだけのアンデットを引き連れているかわかりますか?」
「レッテン王国の死者をアンデット化して最初は数十万いたみたいでしたが、ペンテシアが頑張ったみたいで現在は数万といったところですかな」
「数万ですか、アンデットの種類にもよるでしょうが、私達の聖国軍だけで対処できそうですね。獣王にはペンテシア王都をお願いしたいと思いますが」
「個人的にはノーライフキングを叩き潰したいですが、軍だけをペンテシアの王都へ向かわせるわけにはいきませんな。承知しました儂が王都を担当しましょう。ペンテシア軍5万を壊滅させた相手ですが、1万程度の兵力で大丈夫ですか?」
「私達のパーティーにラッシュ達[彷徨の剣]にローゼさん達の[六華の絆]がいますので多分軍への損耗は最小限で済むと思いますよ」
「ところで聖下達のパーティーには名前が付いていないのですね」
「つけるタイミングを失ったまま、聖下のパーティーと呼ばれるようになってしまって」
「はは、間違ってはいないですな」
「私は何でもいいのですが、メロウが納得いかないようで」
「当たり前じゃないのよ、世界を救うパーティーには格好いい名前が必要よ!」
「逆に無いのも恰好よくないですか?」
「確かに敢えて付けないのもありかもしれませんな」
「名もなき冒険者達によって世界が救われたって感じにするのもありかなー」
「まあ名がある人ばかりですが、では私達も補給を受け次第ノーライフキング討伐に向かいます」
「我らは攻城兵器を待ってる間に周辺貴族領でも攻略するとしましょう」
「ではペンテシアの王都グラットセンで会いましょう」
私達聖国軍はノーライフキング討伐に向かい獣王はペンテシア王国領攻略に向かうことにして別れました。