第46話 聖人の威厳
ニルギスの正体が冒険者エルニスと判明したことで各国の上層部や各ギルドに通達されました。冒険者ギルドでも出頭命令を出しましたが当然それに応じて出頭はしてきませんでしたので冒険者ギルドでは賞金を懸けて探すことになりました。
「聖人はやはり厄介ね」
「デーモンロードが殺せればよかったのですが」
「あれで無理なら、暗殺するのも難しそうね」
「ニルギスに今死なれると困る。一旦姿を隠しておくのだ」
「わかりました。大教祖様」
「帝国を中心として我らへの攻撃が激しくなっている。邪神復活までまだ数年あるのに滅ぼされるわけにはいかん。例の件にはこれ以上関わらずに一旦闇に潜る」
「了解です。大教祖様」
「聖人がここまで厄介だとはな」
「二人も聖人がいるというのが厄介さを倍増させているな」
「ペンテシアにはこれ以上の援軍は出さずに信者を増やすことを優先する」
「承知いたしました」
そんな話がどこかで行われていることは知らず帝都では皇太子とゼンゼ特務隊長とラッシュによる話し合いが行われていました。
「つまりラッシュはこれ以上探すのは無駄だということか?」
「邪神教徒にプレッシャーを与える意味で探すことは無駄ではないでしょうがニルギスとエルニスが同一人物ということが分かった今姿を隠すでしょうからな」
「私もラッシュ殿の意見に賛成です。邪神教徒は恐らく闇に潜るでしょう。支部を探すことに意義はあるでしょうが幹部を捕らえるのは難しいでしょうな」
「ふむ、ラッシュのみならずゼンゼもそう言うか。ならば邪神教徒の支部捜索は騎士団に押し付けて特務部隊は騎士団を弱体化させてた貴族の内部調査の続きを行ってもらう」
「じゃあ、俺はお役御免かな?」
「いや、法王台下の就任式に行く護衛を頼みたい。聖都までの片道でかまわんぞ」
「それはありがたいな。アフェットの仲間達の面倒をみてやりたいしな」
「ナディア王女とリーシェ辺境伯子か、聖下のパーティーに帝国人も入れたいところだが」
「まあ入れるのは無理でしょうな。それに丁度いい貴族も冒険者もいませんしな」
「やむを得んか、聖下達との面会で帝国に好印象を抱いていただけるように頑張るとしよう」
「では、本日はこれにて。出発する時に合流させていただきます」
「うむ。ご苦労だったラッシュ」
法王の就任式が近づいてくるにしたがって各国から要人が集まってきています。私も各国の要人と面会をしたりと色々忙しい日々が続いています。帝国を始めとする各国で邪神教徒の支部を討伐している報告が上がって来ていたのですがここ最近は全く報告が上がってこなくなりました。
「最近は邪神教徒の動きが聞こえてきませんが、どうなったのでしょうか」
「単純に戦力不足になり地下に潜ったのでしょうね。我々聖国には地下に潜った者を捜索するような組織がないので探しようがないですね」
「他の国にはあるのですか?」
「普通に考えて暗部のような組織は各国ともあるでしょうね」
「ふーん、じゃあさ邪教徒の殲滅に失敗したってことかな?」
「確かに、そう言われればその通りですな」
「しかもニルギスも逃がしたってことだもんね」
「でも、皆さん精いっぱい頑張った結果ですし」
「アフェット甘いわ、甘すぎて虫歯通り越して歯が抜けるわ。一応あたしとアフェットはこの世界の頂点にいるのよ? ニルギスの討伐も邪神教徒の殲滅も失敗してるなんて作戦は失敗してるってことなのよ。それなのに失敗していることを褒めるなんてあっては駄目よ」
「メ、メロウどうしたのですか? まるで政治家のようです」
「どうせアフェットは現場の人は頑張ってるしとか思っているのでしょう。だったらミリーに相談してみましょうよ、きっとミリーもあたしと同じ意見よ」
確かにメロウの言っていることにも一理あったと思いましたので、ミリー様にも意見を聞いてみることにしました。
「そうだな、メロウの言うことが正しい」
「そうでしょうか」
「アフェットは甘すぎるのだ、アフェットとメロウが神託をしてまで敵の正体を判明させたというのにニルギスの討伐に失敗したのだ神々に代わりアフェットとメロウが各国の代表にしっかりと意見を言うことが大切だ」
「なるほど、確かに神々にお力をお借りしたというのに結果を出せなかったということに対する意見は伝えなくてはいけませんね」
「その通りだ。アフェットとメロウは何といっても聖人なのだからな」
不幸にもそのような話をした翌日に帝国の皇太子であるジュリアン・レールゲン・ゲルマニアが面会に訪れました。
「両聖下に拝褐の栄を賜りましたこと感謝いたします。ランドリア帝国が皇太子ジュリアン・レールゲン・ゲルマニアと申します」
「月の女神が御子アフェット・フローズン・メルです」
「太陽の女神の御子メロウ・フローズン・メルよ」
「ところで帝国は邪神教徒との戦いに力を入れて下さっていると聞いていますが」
「は、我が国の特務部隊を使い邪神教徒共の支部を大量に潰しました」
「私とメロウが神託を使うことで得た情報を渡したのに、ニムギスは捕らえることも殺すこともできなかったとも聞いていますが」
「特務部隊も力を尽くしたのですが見つけることが出来ずに」
「邪伸教徒のトップも捕まえてないわよね」
「ざ、残念ながら見つけることが出来ておりません」
「ジュリアン殿。私の考えが間違いなのかも知れませんが、支部をいくら潰しても邪神教徒のトップやニムギスを捕えないと意味がないのではないのでしょうか?」
「それは確かにその通りです」
「じゃあ何で支部潰したくらいで戦果上げたみたいな事言ってるの?」
「帝国は邪神教徒との戦いには余り力を入れる気は無いということでしょうか?」
「そ、そんなことは決してありません。帝国の全力を尽くしニムギスと邪神教徒のリーダーを捕まえて見せましょう」
「そのお言葉が聞けて満足です。ジュリアン殿の活躍と無事を神にお祈り捧げさせていただきます」
「ラッシュにも釘刺した方が良さそうね。友達としての私達と聖人としての私達を同様に見られては神の威信にかかわるわね」
「それでは早速部下に指示を出したいと思いますので失礼いたします」
「はい、ジュリアン殿神は全てを見ていますよ」
「気を付けて帰ってね」
ジュリアン殿が立ち去った後に隠れていたミリー様が姿を現しました。
「うぅ、こんな感じでいいのでしょうか」
「もう少し強く言ってもいい気もするが二人の性格的にはこれが限界だろう。邪神教徒が地下に潜り各国とも気が緩んでいるから二人でしっかりと引き締めるんだ」
「あたしもそれは賛成なんだけど、虐めているみたいでちょっと嫌だなー」
「まあ今くらいの当たりだったら外交ではよくあることだ、心配することはないさ」
一方二人の前を下がったジュリアンは正直焦っていた。ラッシュから二人の性格を聞いてもいたし邪神教徒の支部を潰したことも成果として見て貰えると思っていたからです。しかし冷静に考えてみれば聖人自らが神託によって得たニムギスの情報を手に入れながらも成果をしめせていなかったのも事実だったのです。
「殿下ご面会はいかがでしたか?」
「両聖下は帝国にお怒りだ! 正直生きた心地がしなかったぞ」
「そんな、邪神教徒に対しても成果を上げているではないですか」
「支部を潰した位でいい気になっていたのが失敗だった。本部も潰せていないしリーダーも殺せていない。更にはニムギスの情報を聖下が広げたのに関わらず何の成果も得ていない。支部を潰した位で調子に乗ってたら激怒されて当然だな」
「聖下には私には何も言っていなかったのですが」
「ただの大使に言っても意味が無いと思われていたのだろうよ」
「私が聖下と近しい人物からもっと話を聞いていれば違ったのでしょうが」
「もうそれはいい、確かに私も聖下に言われるまで連中の危険度を低く見積もっていた。もしかしたらニムギスの術に掛かっていたのかもしれん」
「殿下、アフェットとメロウから激怒されたと聞いたのですが」
「ああ、邪神教徒への対応について叱責されたよ、メロウ聖下が言っていたぞ友人としての自分達と聖人としての自分達を一緒に考えるなってな」
「確かにそれは俺の考え違いでしたね、聖人として各国要人と会っているのですから普段の二人ではないですわな」
「それより仕事の依頼をしたい」
「おや、暫くは聖都に入れると思いましたが」
「のんびりしている訳にはいかん。父上宛とゼンゼ宛の書状をを用意するから運んでくれ」
「そんな急ぎなんですか?」
「仮に国内に邪神教徒のリーダーとニムギスがいるのに逃がしたとあらば神敵は無いにしろ帝国内の式典に聖下達を招けなくなってしまいかねん」
「聖人がいる現状法王を招けても二人が呼べないと格落ちですしな」
「じゃあラッシュ頼んだぞ」
「承知いたしました。仕事は完遂しますよ」
その後も各国の要人と面会ではメロウと一緒にちょっと強めの言葉を伝えることにしました。ただロンデリア王国とヴラウ獣王国は聖都奪還の戦功があるので語気は弱めて引き続き邪神教徒への対応を迫るにとどめました。
「各国の要人が恐れていたので何を言われるのかと心配していましたよ」
「だって、どこの国もニムギス捕らえないんだもん」
「確かにニムギスが危険だと分かっているはずなのに警戒が薄れてしまっていましたな」
「ヴラウ獣王国は聖都奪還の戦功があるので強く言わないということにしています」
「儂が直接動いて良かったですな、お二人が威厳を示しているのは悪いことではないですぞ。アフェット聖下もメロウ聖下も神々を冒とくしない限りは温厚な方と有名でしたからな。悪い言い方をしますと舐めているものもいた可能性がありますしな」
「それにしてもガモン王はフットワーク軽いよねー」
「内政に関しては息子に任せていますからな、むしろ国内にいても邪魔だから外交に行って来いと言われる始末ですわ」
「優秀な後継者に恵まれていて何よりですね」
「獣王国は安泰ね!」
メロウが安泰と言った途端に悪い予感に襲われましたが気のせいでしょうか。気心のしれたガモン王との会見は慣れないことをしていた私とメロウにとって気が休まりました。