第27話 妖精が運ぶ恋の詩
「あたしもよくわからないけど、アフェットとナディアは当事者意識が低いのが問題だと思うの」
「というと?」
「周囲が決めたことであって、自分たちの意識が介在してないということか?」
「そういうことよ! アフェットはナディアに指輪渡したけどその時はどう思ったの?」
「どうといわれましても」
「その時の気持ちはどうだった?ナディアを愛しく思ったの? 他人に取られたくないとか思ったの? なんの気持ちも無く渡したわけではないでしょ」
「メロウのその熱量はなんなんだ?」
「吟遊詩人が愛の歌を歌えないなんて話にならないじゃない!」
「まあ旅をしない自称吟遊詩人も珍しいとは思うが」
「修行中だったからしょうがないじゃない」
「私は殿下を最初から好意的に思っていて、アークデーモンを倒した時にこの方に永遠に側にいてほしいと思っいまして」
「キャー、キャー、そういうことを聞きたいのよ!」
「しかし、殿下はあくまでも政略結婚として受けたのではないかと思ってしまって」
「そんなことないわよ! あの雰囲気は絶対そんなことないわ!」
「まあアフェットが不安になる気持ちもわからないでもないし、政略結婚が決まった後の貴族の子弟に多い症状だ」
「じゃあナディアに直接聞けばいいじゃない」
「殿下はいつも忙しくしてらっしゃるので、中々そういうことを聞くのが難しくて」
「確かに殿下はいつも忙しくしてるな」
「じゃあラブレターを書きましょうよ!」
「一緒に暮らしているのにですか?」
「一緒に暮らしてても忙しくてすれ違うなんてことはよくあるわ、そういう時に思いを込めたラブレターが一番よ!」
「いいアイデアだとは思いますが、少々恥ずかしいですね。それに返事が頂けるか心配です」
「殿下が返事を返さないわけがないのは分かってるはずなのに、そこも信用出来ていない状況なのはよくないな」
「取り合えずラブレターを書くのは決定! まずはアフェットが書きなさい!」
ラブレターなんて書いたこともも貰ったこともないのに書けと言われても困ってしまいます。その日はペンを握ったまま一文字も書けませんでした。
「なに? 一晩も掛けて何も書けなかったわけ?」
「確かにそれは情けないな」
「いざとなると何を書けばいいのかわからなくて」
「飾らなくていいのよ、アフェットの心からあふれる思いを言葉にすればいいのよ」
「アフェット、言い方は悪いが言葉を飾ろうと考えすぎなんじゃないかな」
「言葉を飾らない、心からの言葉を書けばいい」
「そうよー。心からの言葉を綴りましょう」
心からの言葉を飾らないで書いてみる。メロウとミリー様のお陰で書けそうな予感がします。
書き終わった文章を読んでみて思わず顔が真っ赤になってしまいます。これがいわゆる深夜のテンションといういうやつでしょうか。
「アフェット書けた?」
「一応書いてみたのですが、自分ではよく書けているかわかりません」
「直接渡すのも恥ずかしいだろうし、あたしが渡してきてあげる!」
「それではメロウにお願いします」
私からの手紙を受け取ったメロウは早速殿下の元に向かいました。
「たのもぉ!」
「メロウ、どうしたのですか?」
「メロウ便です」
「メロウ便? ああ手紙ですか。送り元はアフェットからですか」
「ちゃんと中身を読んであげて返事を書くこと! 良いわねナディア」
「では今日中に読んで返事を送るとしましょう」
「だめ! 今すぐ読むこと」
「他に執務もあるのですが、わかりました今すぐ読みましょう」
『改めて手紙を書かせていただきました
ナディア殿下とお知り合いになって1年近くたちます。
ナディア殿下といるといつも笑ってばかりで本当に楽しい時間を過ごせています。ありがとうございます。
いつの間にか私にとってナディア殿下の存在がとても大きくなっています。
これからもずっとずっと側で一緒にいてくれると嬉しく思います。
拙い文ですが私の気持ちが少しでも届けばと思います。
アフェット・フローズン・メル』
「ナディア顔真っ赤ねー」
「こんな手紙貰ったのは初めてだったので、嬉しいです」
「じゃあ次はナディアの番よ」
「え、そうですよね。私も返事を書かないといけませんよね」
「じゃあ書き終わったらあたしが届けるから書いたらちょうだいね」
翌日ナディアの元にメロウが手紙を取りに向かうと、明らかに寝不足のナディアがそこにはいた
「苦戦したみたいねー」
「これまで書いた手紙で一番苦戦した手紙です」
「で、書き終わった?」
「何とか書き終わりましたが、自分で読み返すと死にたくなります、しかし執務が忙しく何日も会えない父上に手紙を書いていた頃を思い出しました。」
「じゃあ預かっていくわー」
「中身は見ないでくださいね」
そしてメロウから手紙が私の手に渡されるのでした。
『急なお手紙で少し驚いてしまいました。
私自身もアフェットとのコミュニケーションが不足しているのではと思っていました。
アフェットと話してると周りの雰囲気も明るくなりますし、修行を頑張っている姿にいつも
私も頑張ろうって思います。いつもありがとうございます。
もしよろしければこれからもお手紙を続けれたらと思います
あなたの婚約者 ナディア・フローズン・メル』
そうして私と殿下の文通が始まりました。直接渡し合うのは恥ずかしかったのと何故かメロウがやりたがったのでメロウに届けていただいています。
『アフェットが礼節を守って私を殿下と呼んでいるのは分かっていますが、ナディアと呼び捨てで呼んでいただけませんか』
という手紙でのやり取りがあった為、私は現在ナディアを呼び捨てで呼ぶようになりました。実は呼び捨てをする女性はメロウに次いで二人目になります。そのことを手紙に書いたら
『アフェットの一番最初が貰えなかったのは残念ですが、二番目を貰えたことを嬉しく思います』
と返事が来て嬉しさに悶えてしまいました。ナディアとの距離が確実に縮まりメロウの作戦は大成功に終わりました。
「これなんかどう?」
「ナディアはそういった装身具はもってそうですが」
「アフェットからの贈り物っていうのが大切なんでしょ!」
「そういうものなのでしょうか、いまいち自身がありませんが」
「このバングルなんてナディアに似合いそうなんじゃない?」
「色合いがいいですね。確かに似合いそうです」
「じゃあこれと同じのの妖精用をお願い」
「畏まりました。妖精用のもご会計は一緒でよろしいですか?」
「一緒で、アフェットアドバイス料よ!」
「まあ構いませんが、あまり使いすぎてはいけませんよ」
「アフェットわかってないわね。お金は持ってる人がお金使わない方が悪いのよ。経済を回すってやつよ」
「メロウは難しい事を知っていますね」
「ふふん、あたしだって色々勉強してるのよ」
メロウのアドバイスでお互いに手紙以外に花や小物を送り合うことになり、お互いの趣味趣向を考える時間を作ることになり一層仲が深まりました。
そうしてナディアとの仲を深めていると気付いたのはメロウがナディアの相談にも乗りそちらでも色々買ってもらっているということでした。
「上手い事やってると思ったらついにバレたのか」
「まあ気付かないアフェットとナディアもどうかとは思うぞ、特にアフェットはメロウと同室なのに気付かない方がおかしい」
「まあ悪かったとは思うけど、相談料は必要だとは思うのよね」
「まあ確かに双方から相談を受けていたら双方の好みもわかるだろうしな」
「そそ、需要と供給にあってるのよ」
「メロウに悪知恵を付けすぎた気もするが、アフェットがいつまでもアフェットのままだし、メロウが知恵を付けるのはいいことなのかもな」
「まあ。その辺はどうでもいいが、出発の日にちはいつ頃になりそうなんだ?」
「父上との謁見や有力領主との会見の日程を整えるのが中々に難しくて遅くなってしまい申し訳ございません。大体二週間後に出発になります。来週には詳しい日程が出せますので一応二週間後と考えて予定を開けておいてください」
「じゃあそれくらいを予定として今の借家を解約するか」
「それでしたらアルニスさんも迎賓館に泊まられてはいかがですか?」
「それはありがたいが、ここだと肩が凝りそうだからな、出発の数日前にはお世話になりたいがそれまでは今の家で暮らすさ」
「そうですか」
「それに今の迎賓館はお前と殿下のせいで甘ったるい雰囲気が溢れててな」
「わかるわかる、アフェットとナディアの甘い雰囲気が屋敷中に広まってる感じよねー」
「そんなことないとは思うのですが」
「そんなことあるから困る。メロウは楽しがっているからいいが、私みたいに関係ない立場からすると日に日に甘ったるくなっていく屋敷の空気が辛く感じるわ」
「そうなんでしょうか。私にはわかりませんが」
「まあ当事者は分からない者なんでしょ、あたしは楽しくてしょうがないわ」
「妖精は恋を運ぶなんて話もあるくらいだし、メロウは種族的に恋の話が好きなのだろうな」
ナディアと顔を見合わせ恥ずかしさに二人揃って身を悶えさせてしまいました。しかし私たちの仲が深まっているというのは良いことなのだと思います。
「アフェット、テラスでお茶でもいかがですか」
「ご一緒させていただきます」
こういう時はメロウは空気を読んでどこかに行ってしまいます
「時間の調整等に忙しくて、二人になる時間を作れなかったのは婚約者として失格でしたわ」
「ナディアが私達が安心して旅を出来るために調整してるのを知っています。お気になさらずに」
「ミリー様にも怒られてしまいました。時間は出来るのを待つものではなく作るのもだと」
「私も二人になりたいと伝えていなかったのが原因です。一人で責任を背負い込まないで下さい」
「今後も二人の時間を作るのは当然ですが、手紙の交換は今後も続けませんか?」
「私も同じことを思っていました。言葉では伝えられない気持ちを手紙だと伝えられる気がします」
メロウ達からは屋敷に甘い空気を作ってると言われますが、よくわかりませんでした。今後もナディアとは良好な関係を築いて行きたいと思います。
ちなみに今後ずっと恋文を出し合い続けたので凄い量になってしまいました。