第10話 到着
アフェットは見習い神官なので神官の服装をしています。
ローザさん無双から1日、遠目にも大きな城壁が見えてきました。レネット村から出たとこが無い私には初めて見る巨大建造物に圧倒されました。
「何あれ、でかーい!」
「あれがオースティアだ。流石にあの城壁には圧倒されているようだな」
「あれだけ大きな城壁だと今回のスタンピートも楽に乗り切れるのでしょうか」
「そうともいえないな、充分な戦力がないと城壁の下にたまる死体を処理しきれず城壁を超えられることもある」
「オースティア伯があれだけの戦力をレネット村に送ったのも、スタンピートをそこで食い止めたかったからだ」
「これほどの大都市でもスタンピートは危険ということですね」
「大都市ほど防衛戦力が必要だし、籠城戦になるとダースティアは人口が10万人もいるから食料の確保も問題になる。レネット村の被害の少なさは奇跡的と言っていい」
入場門に並んでいると、ほどなくして私たちの番になりました。
「一応馬車を検めさせてもらうぞ」
「入場のチェックも同時にさせてもらう」
アルニスさんやアランさん達はギルド証を見せることで入場していきます。
「君は冒険者ではないのかい?」
「はい、レネット村のアフェットと申します。冒険者にはこれからなろうと思っております」
「村出身だと身分証もないだろう。入場税は取らないが神殿なりギルドに登録次第報告に来るようにしなさい」
「はい、親切に教えていただきありがとうございます」
「よし、じゃあ行っていいぞ」
その言葉とともに馬車を進めようと思い、ふと思いました
「アルニスさん、どこに馬車を向かわせればいいのでしょう?」
「ギルドの馬車だからギルドに向かえばいいのだが場所を知らないか、ここからは俺が御者をやろう」
「よろしくお願いします」
「ところでアフェットはギルドってどんなイメージもっている?」
「物語で読んだ限りだと、登録しようとすると絡まれて、昼間から酒場でお酒を飲んでいて受付嬢に絡んでる感じです」
「ふふ、やはりそんなイメージか」
「一体いつの時代のイメージなんだよ」
「ということは全然違うイメージなのですか?」
「じゃあ、ついてからのお楽しみだ」
「がっかりさせそうだな」
「あたしも、冒険者達がお酒飲みながら自分の武勇伝を語ってるイメージだったわ」
冒険者ギルドが一体どういうイメージなのか全くわからなくなってしまいました。
アランさんがまさに冒険者らしい冒険者なのでギルドも想像通りだと思っていたのですがどうも違うようです。
冒険者ギルドに到着した私とメロウは予想外に綺麗な外見に驚きました。ドアが両手で開けるドアだったのが唯一のギルドらしさといえるでしょう。
「ドアが未だにウェスタンドアなのは急いでギルドに入ってくる必要のある人がいたりするからだな」
「緊急依頼とかですか?」
「そうだ、今回もそんな感じだったらしいぞ」
「駆け込んできた男を受け止めたのが俺だったしな」
「まあ見ていてもしょうがないし馬車を返却したら中に入るぞ」
馬から馬車を外したら馬は勝手に厩舎に入っていきました。
「馬はあそこが自分の家ってわかってるのね。賢いわ」
「目もキラキラしてて可愛いですよね」
「アフェット旅する時は馬連れて行きましょうよ」
「戦闘時には足手まといになってしまうぞ、それより中に入るぞ」
「はい、ちょっと楽しみですね」
「まあ見て見ればいいさ」
ウェスタンドアを開けると簡素な空間が広がっていました。
「え、えっとここがギルドなんですか?」
「昔はお前が想像してるような酒屋を併設したようなごみごみした場所だったらしいんだが、普通に考えて邪魔だし導線をきちんとしたいということでこうなった」
「えええええ、これじゃああたしは何処で歌えばいいのよ!」
「そりゃあ酒場だ」
ギルドの間取りとしては入口付近には何もなく奥の壁の方に依頼書を張る掲示板があり逆側にカウンターがあり、それ以外は上に行く階段とドアがいくつかある感じでした。
「左奥が登録カウンターだ、いくぞ」
「閑散としてますね」
「最近でかい仕事があったばかりだしな。そもそも馬車を使っていた俺達と違ってまだ帰ってきてない冒険者が大勢いるだろうからな」
「あたしも冒険者デビューか、あたし自身が英雄になったりして」
「冒険者ギルドにようこそ、本日は登録ですか?」
「ああ、この二人の登録を頼む」
「アルニスさんがそう言った面倒をみるなんて珍しいですね」
「まあ共に戦った仲だしな」
「それではお嬢さんと妖精さんはこちらに記入をお願いします」
「あの、一応は男のつもりです」
「それは大変失礼いたしました。きっと神様が性別を取り違えたのでしょうね」
「そのような表現は初めてされました」
私とメロウは記入を終えて受付嬢さんにお渡ししました。
「アフェットったらなっていないわねー、こういう時はさりげなく名前を聞いて印象付けないと」
「何の印象付けかわかりませんが、確かにお名前を聞いていないのは失礼でしたね。受付嬢さんお名前を聞いてもよろしいでしょうか」
「あら、ちょっとキュンとしちゃったわ、私は受付嬢のサフランと申します。これからよろしくお願いしますね」
サフランさんからメロウと一緒にギルドの規約を細かく説明していただきました。ちなみに酒場は近くにはあるようですが併設はやめたそうです。収益よりトラブルが多かったようです。
「じゃあ俺たちはここでお別れだな」
「私たちもね」
「そ、そうでしたね。ずっと一緒だったのでこれからも一緒の感覚でした」
「冒険者なんて一期一会だ、それに同じ街の冒険者だから会う機会なんていくらでもあるさ、今度飲みにでもいこうぜ」
「アランさん。ミルクでよければ付き合いますよ」
「私はあなたに貰った聖剣を使いこなして見せるわ。次に会う時にはAランクにはなってみせるからね」
「ローザさんにもお世話になりました。キング討伐の攻撃は素晴らしかったです」
「じゃあな」「また会おうぜ」「いい子でいる限りは味方してあげるわよ」「アフェットちゃんと別れるのはつらいわね」
ここまで一緒に旅をしてきた[暴風の斧]と[六華の絆]の皆さんとお別れしました、ここまで一緒に旅を続けてきたのでやはり寂しく思います。
「寂しいのはわかるがいつまでもここにいてもしょうがない。移動するぞ」
「はい、アルニスさんはこれからも改めてよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ。取り敢えず宿についてだが俺が借りている借家の部屋が空いているから暫くはそこで暮らせ」
「アルニスさんにお世話になりっぱなしな気がするのですが」
「外に宿を取ると無駄に金がかかり合流するのにも時間がかかる、邪神復活まで4年しかないのだから潰せる無駄は潰すべきだと思うぞ」
「神殿に寄りたいと思うのですがよろしいでしょうか」
「もう昼過ぎだし後日にと言いたいが神官の登録簿に記帳しておくことは大切か」
「まだ、見習いなので登録自体はすぐ終わりますよ」
「それ、あたし知ってるよ。フラグって言うんだよね?」
「怖いことを言わないで下さい」
街の中心街に教会はありました。
「そういえば旅の汚れを落としてから来た方が失礼はないのでしょうか」
「登録簿に記載するのが目的ならそのままでも構うまい」
「シスター様。レネット村のフィリスが弟子アフェットと申します。登録簿への記帳をお願いしたいのですが、どちらに向かえばよろしいでしょうか」
「これはご丁寧な挨拶を登録簿への記載でしたら私がご案内いたしましょう」
「シスター様ありがとうございます」
「私は司祭のテレーザと申します。フィリスさんは穏やかに逝けましたか?」
「司祭様だったのですね失礼いたしました。母上は最後には苦しみもなく微笑みながら逝けました」
「それはなによりです。フィリスさんには若いころ面倒を見ていただきましてね」
「話に割りこんで済まないが、おれはアルムの森のアルニスという。ジェファーソン司教と面会の予約を頼みたい」
「司教にですか?まあアルニス殿ほどの名声があれば会って下さるでしょうが。今はダースティアから出ていましてね」
「わかった。戻り次第でいいので面会の予約を頼む」
「了解いたしました。さて、この帳簿に記帳をお願いします。先ほどの名乗りと一緒で出身村と師の名前と自分の名前を記載してくだされば結構です」
「はい。記帳もおわりました。テレーザ様丁寧なご案内ありがとうございました」
「フィリス様に受けた恩を考えればこの程度なんともありませんわ。何か困ったことがあったらいつでも相談してくださいませ」
テレーザ司祭のおかげでスムーズに記帳も終わり、いよいよアルニスさんの家に向かいます。
「ここが俺の借りてる家だなギルドにも教会にも近いし表通りから外れているから静かで中々いいぞ」
「わあ、家に蔦が絡まって良い雰囲気よね」
「俺達みたいなエルフはこういう家を好むからな、大きい街だとそれなりの数が用意されている」
新しく暮らす家を見ながら、これからの生活がどのようになるのかに思いを馳せ、家の中に向かいます。
シスターと呼びはしますが男女の区別なく役職につけます。女性の聖職者はシスターと呼ぶ慣習があると思っていただけましたら