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集いし乙女に幸あるべしと



 「それではこれより、幼馴染七円卓会議を開催します──」

 暗い室内。冷たい金属製の円卓にはところどころに光の線が走り、弱く明滅してはサイバー感を醸し出している。

 囲む顔ぶれは七人。

 フフフフと怪しい笑い声を漏らしながら微笑を浮かべる栗色の髪の少女、正統派幼馴染。

 えんじ色のジャージに身を包み、飾り気のないゴムバンドで雑にくくった金髪を二房揺らすツンデレ系幼馴染。

 女の子らしさ溢れる甘いファッションで完全武装(コーディネート)し、おどおどした雰囲気のなかにも熟練の風格が混じるおっとり系幼馴染。

 気を使っていない風ながらもスタイリッシュな服装で、長い銀髪を後ろで一つにくくり、静かに席に腰かけているクール系幼馴染。

 普通の服に普通の髪形、少し茶色みを帯びた黒髪の、どこにでもいそうな普通の少女──系統のよくわからない地味な幼馴染。

 数合わせと公言されつつも、完全には実態を把握できていない謎の幼馴染──黒髪の謎系幼馴染。

 そして我らがヒロイン、普通の女の子だったはずなのに鍛えたら生体兵器すら倒せるようになってしまった系幼馴染である炭神綾乃。


 これこそが長き時を経て、ついに完全体へと至った幼馴染七円卓──その全容である。

 正統派幼馴染はひそかに涙ぐんだ。ついに彼女の悲願たる円卓の完成がなったのである。それも無理からぬことであった。

 「さて……今回の議題は、と行きたいところですが……先に紹介しておきましょう。……まあ、ご存じない方は居ないと思いますが」正統派幼馴染は言った。「この度我が円卓幹部として参入されました綾乃さんです。コードネームはG.G.(グローリー・グロース)。皆さんもよろしくお願いしますね」

 「ちょ、ちょっとまってよ。私コードネームとか初めて聞いたわよ?そんなのあったの?みんなにも?」綾乃は慌てた様子でそう言った。 

 「あるわよ?」ツンデレ幼馴染はジャージのポケットに手を突っ込んだままぞんざいに言った。「そういえばあんたにはまだ言ってなかったっけ。普段あんまり使わないから忘れちゃうのよね」

 彼女は片方の手をジャージのポケットから抜き出し、正統派幼馴染を指さす。

 「そこの腹黒いのがA.A.(アナザー・オーサー)。あたしはB.B.(ブレイン・ビット)。そこのぶりっ子がC.C.カースド・キューティー。地味なのがD.D.(ダイン&ダッシュ)。まともな方の無口なのがE.E.(エイト・アース)。黒い方の無口なのがF.F.フレンドリー・ファイア。まあ普段は使わないから忘れていいと思うわ」

 ひとりひとり指さしてそう言うと、ツンデレ系幼馴染は円卓に足を乗せて大あくびをした。

 「……まあ、今彼女が言ったことはだいたい事実です」正統派幼馴染は頷いた。「せめて名乗りくらいは自分でやらせてほしかったところですが」

 「そ、それは別にどうでもいいんだけど……」おっとり系幼馴染はおどおどした口調で正統派幼馴染の未練がましげな主張を切って捨てる。「はやく本題に入ってほしいかな、ってぇ……」

 「そうですね。そうしましょうか」正統派幼馴染が頷く。

 綾乃は一応礼儀として挨拶くらいすべきかと迷い、その旨を告げるべきかと考え、やめておくことにした。面倒だったからだ。

 銀髪の少女も無言で頷いていた。

 黒髪のは机の光る部分をじっと眺めている。


 「さて、それでは今回の議題ですが」正統派幼馴染は仕切り直すように声を張り上げた。「綾乃さん持ち込みのミッションについて、ですね」

 「私の?」綾乃は首をかしげた。「……、ああ!最近忙しくてすっかり忘れてたわ!ビル登りね!」

 「そんなことじゃないかと思ってたわ」金髪の少女(ツンデレ)があきれ顔でそう言った。「あんた目の前のことに集中すると他のこと忘れるんだもの」

 「……それは……」銀髪の少女が口を開いた。「……わたしにも、たまにある」

 「……わからなくはありませんが。それだけ忙しかったのでしょうね」普通の少女もそう言った。

 「はいはい、次に進みますよ?」正統派幼馴染はパンパンと手を打った。「というわけで画面を出します」

 そう言って彼女が何やら机の下で操作すると、超高機能サイバー幼馴染円卓『チクバラウンズ一号』(正式名称である)の真ん中がモーター音を立てながら空く。

 そこから出てきたごちゃごちゃと配線や機械のくっついた球体がパッと光ると、七人の幼馴染たちの目前に半透明の光り輝くボードが現れる。


 《Welcome to O.S.N.Systems》

 《OSN-Pow PATTERN-A》

 《PATTERN-G added》

 《Stand by___》


 素早く切り替わって流れていく文字列に綾乃が目を奪われていると、ツンデレ系幼馴染が溜息を吐いた。

 ん?と思った綾乃が彼女に視線を向けると、見られた金髪の少女は肩をすくめた。

 「あの表示、実のところあんまり意味ないのよ」彼女は小声で言った。

 「そうなの?」綾乃も小声で答える。

 「カッコいいからって理由でやってるみたいですね」普通の少女が小声で言った。

 「その気持ちはとてもよくわかる」クール系幼馴染が小声で同意した。

 「わ、私にはよくわからないけどね……」おっとり系幼馴染がさらなる小声でそう言った。


 金髪(ツンデレ)曰くあまり意味がないらしいシステム通知風の起動画面が終わり、さらに表示が明るくなった画面と共に複数のウィンドウが表示される。綾乃にも見覚えのある標的(ターゲット)の高層マンションの3Dモデルや、これまた見覚えのある間取り図などだ。

 「さて、各自データは見えますね?」正統派幼馴染はそう言って、他の少女たちが頷くのを待ってから再度話し始めた。「……それでは、これよりミッションの概要について解説をしていきましょう」

 「はいはい、ちゃんと聞くわよ」ツンデレ系幼馴染はそう言って足を円卓から降ろす。

 綾乃は無言で頷き、メンバーの顔を見回した。青白い光が頼もしい仲間たちの顔を照らし出す。

 きっと、作戦はうまくいくのだ──彼女はそう思って、視線を画面に戻した。




 数時間後。

 長時間にわたる会議で具体的なプランを練り上げ、満足感と疲労感に包まれた綾乃は秘密結社幼馴染内の通路を歩いていた。

 正統派幼馴染は作戦の詳細がどうたらと言って去っていった。

 ツンデレ幼馴染は明日から仕上げのトレーニングメニューをどうのと言って去っていった。

 その他の幼馴染も各々バラバラに散っていったので、現在綾乃は一人であった。

 ポケットから引っ張り出したOSNのロゴも眩しい支給品の携帯端末で時間を見たところ、既に深夜である。

 さっさとひとっ風呂浴びて寝ましょ、と綾乃は思った。

 どうせ明朝も早いのである。ぐだぐだ起きていても明日に響くだけだ。

 綾乃はすっかり変わってしまった自分の生活スタイルに苦笑した。

 以前の自分は夜更かし上等の趣味人だったはずだが、いつの間にか健康な生活を送っている……

 まあいいか、健康的だし。彼女はそう思って、自室に通じるゲートの電子ロックに自分のパスを当ててゲートを開け、その中へ入っていった。



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