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サブタイって何?

 

 1


 数分に及ぶブンブンも終わり、美味しい料理と飲み物に舌鼓を打ちながら俺達は今後の予定を話し合っていた。


「とりあえずは故郷に帰りたいな」


 初めに口を開いたのは、俺であった。


「ただ、このまま世界を見て回りたい気持ちもある」

「アルベロに帰るには、トラディもしくはファカルドのどちらかを経由するか、世界の臍を突っ切るしか無いですね」


 ファカルドとは火の国、世界の臍は四国の間ーーーこの世界の中心に位置する巨大な山“モンターニャ”の別名である。


「モンターニャは入る事もできない。おっきい亀裂がある」


 アカリの言うように、モンターニャの周りには底の見えぬ巨大な亀裂が入っており、とてもじゃないが人間の超えられる穴ではない。

 更に加え、モンターニャ自体も険しい岩盤に覆われており普通には歩けそうにもない所である。

 よって真ん中を突っ切って帰ることは不可能と言えよう。


「そうですね。だからどっちかの国を経由する事になるのですが、世界を回りたいならファカルド一択ですよね」


 今はトラディに近付きたくないですし、とレジスタは続けた。


「決まりだな。出来れば今すぐにでも出発したいけど、夜には凶獣ベスティアがでるし出発は明日だな」


 俺の言葉にアカリだけが頷き応えた。

 レジスタは目を閉じ何やら唸り声を上げている。


「どうしたんだレジスタ?」

「いえ・・・どうしても分からないんですけど、その・・・」


 どうも歯切れの悪い言い方をするレジスタに「何でも聞いてくれ」と言葉をかける。


「えっとぉ・・・べすてぃあーーーって、何ですか?」

「・・・あぁ・・・そっか。周りに森の無いトラディには居ないのかもしれないな」


 それならばレジスタが知らないのも当然の事だろう。

 俺は凶獣について知ってる限りの事をレジスタに教えた。

 相槌を挟みながら聞いていたレジスタは、話しを聞き終わると「怖いですけどワンコちゃんは可愛い」とアルベロに帰った際にはワンコに会わせてくれと頼んできた。

 アカリは何やら浮かない顔をしていたが、その頼みに俺は快く了承し、残りの料理に箸を伸ばした。


「あ!そう言えば出発の事なんですけどっ」

「ん?」

「明日じゃなくて明後日にしませんか?」

「明日だと都合が悪いのか?」

「いえ、そう言う訳では無いんですけどね。ただ、リーヴァでは明日、祭りが開かれるらしいんですよ!折角リーヴァに居るのでそれを見ていきたいなー、なんて・・・駄目ですか?」


 祭りの事は話好きの店主から聞いたらしい。

 何でも明日はリーヴァとファカルドが同盟を結んで二周忌になるらしく、毎年ーーーと言ってもまだ二回目だが、その日はリーヴァとファカルドの合同で祭典を開くのだとか。

 去年はファカルドで開いたから今年はリーヴァでやるとの事。

 出店と呼ばれる店に置かれる料理も普段のメニューとは違い、皆が腕によりを掛けて作るオリジナル限定メニューが出るみたいだ。

 と言うかどんだけ話したがりなんだよあのおっさん。


「それに、その時にファカルドの方に同行を頼んだら一緒に連れて行ってくれるかもしれないですよ!」


 確かに歩きではなく何か乗り物に乗って来ると考えられるから、それに同乗させてもらえれば歩くよりも断然速くしかも疲れないだろう。

 それは良い案だ、と珍しく頭の冴えたレジスタを撫でてやる事にした。


「そうでしょ〜、えへへ〜」


 にへら笑いで誇らしげなレジスタを更に撫でてやると、隣に座っていたアカリに太腿を鷲掴みにされてしまった。


「・・・もう、良いんじゃない?」

「そ、そうだな」


 ちょっと今のは行儀が悪かったな。

 食べることに関して礼儀を重んじるアカリの前ではしたない真似をしてしまった事に、反省。

 俺はレジスタの頭に乗せていた腕を引っ込め、アカリに謝罪の言葉を送った。


「謝らなくて良いから。ーーーんっ」


 下を向き頭を差し出してくるアカリ。

 俺はアカリの行動の意味が分からず、今まで出した事のないような変な声を漏らしてしまった。


「はぇ?」

「んっ」


 自分から私の頭に顔面を当てに来いと言いたいのだろうか?

 所謂、セルフ頭突きをここでやれと?

 どんだけ俺はエムなんだよ!そしてアカリはドエスだな!


「多分、アカリちゃんは撫でてほしいんですよ。と、思いますよ?」


 心の中で突っ込み入れる俺に、レジスタがボソッとそんな耳打ちしてきた。

 本当かよ・・・。


「もし違ったら俺、明日の祭りに出られなくなるんだが?」


 大丈夫です。と自信満々にレジスタは答えた。


「んっ!」


 アカリの声から苛立ちを感じる。

 冷や汗が止まらない。

 もちろん俺だってアカリのキューティクルをこの掌で優しく包み込んでワシャワシャしたいけどもしそうじゃなくてセルフ頭突きの方を要求しているのだとしたら俺の明日はベッドの中で祭りで賑わう街の様子を耳オンリーで聞かなくちゃいけなくなる訳だからそりゃ俺だって祭りを体と目でも楽しみたいし何よりアカリと一緒に出店とやらで売られている料理を食べさせ合いっこしたりレジスタに隠れて手を繋いでみたり祭りの余韻に浸りながら夜空を見上げて思い出を語ってどちらからともなくキスしてみたりって何それ最高じゃん!


「んっ!」


 頭を撫でず祭りに参加して先の妄想に胸を膨らませるか、頭を撫でて少しの間だけでもその幸せに浸るか。


「んんっ!」


 まだ答えを出しきれていない俺に頭をグイグイと押し出しながらアカリが急かしてくる。


「ええーい!なるがままよッ!!」


 俺は覚悟を決め、アカリの頭に掌を置いた。

 そして髪の毛を傷めないようになるべく優しく動かしていく。


 あ・・・柔らかい・・・・・・サラサラだぁ・・・。


 掌でなびく幸せの波。

 俺の頬は、緩む以外の選択肢を除外された。


「・・・」


 アカリは何も言わない。微動だにしない。

 そんなアカリを俺は撫で続ける。

 もう死んでも良い。思い残す事は無い。このまま死ぬ迄、撫でていよう。

 そこで、俺の意識は途切れた。



 2



 何はともあれ。

 今日は火と水の祭典、その当日である。

 真っ暗な世界に、棒状の何かで床を叩く音が聞こえる。

 リズミカルなその音に、心地よさを覚える。

 俺はゆっくりと目を開け、周囲を見渡す。

 昨日の目覚めと同じ景色。違うのはベッドの位置だけだろうか。

 そこで、俺は昨日と同じ宿屋にいるのだと理解した。

 ベッドの横に置かれた椅子に腰掛ける女性を視界に捉える。

 彼女はトレードマークである杖でリズム良く床を鳴らしては、その音に合わせ鼻歌を歌っていた。

 目の覚めた俺に、彼女が気付く。


「あっ、おはようございます。時間までに起きれて良かったですね。アカリちゃんはもう下で待ってますよ」


 レジスタは笑顔で言った。


「あー・・・分かったよ」


 俺はベッドから起き上がり、レジスタに連れられるように部屋を後にした。

 階段を降りながら昨夜の事をレジスタに聞いたところ、どうやら頭を撫でながらいきなり俺が倒れてしまったらしい。

 どうも俺の中の幸せメーターが振り切ってしまい、限界を超えてしまったみたいだ。

 ・・・ふぅ、あと一歩の所で死会わせとなってしまう所であった。

 まさかアカリの髪の毛が人を殺せる兵器だとは思わなかった。

 レジスタとはまた違う髪質で、常時ハッピーパウダーを振り撒いているのは知っていたがまさかあそこまで強力だとは。

 もしかしたら、世界平和とはアカリの髪の毛から始まるんじゃなかろうか?

 アカリの存在によって世界に愛と平和が訪れる。

 そんな気がしてならない今日この頃の俺だ。


 閑話休題。


「おはよう。昨日はごめんな?」

「おはよ。良いよ、別に」


 街はざわつきと怒号にも似た声が飛び交っていた。

 慌ただしく動き回る人々の顔からは笑顔が消え、所狭しと街中と出店の鉄板の上を駆け回っている。

 中には見慣れない服装の人もチラホラと見える。


「火の民は、もう何人か来てるみたい」


 宿屋の前に居たアカリと朝の挨拶を交わした後、そう言われた。

 昨日の酒場にもそれらしき格好の人間を見たので、恐らく出店を構える人は前乗りしていたんだろう。


「良いね。この雰囲気、嫌いじゃない」

「昔から賑やかなの好きだよね」

「そうなんですか?」

「祭りが行われるのも平和な証拠だからな。それに皆が楽しそうにしてるのを見るだけでこっちまで楽しくなってくるし」

「あー、それは何となく分かります」

「心踊る、的な」

「アカリは楽しんでるのかどうか分かり難いけどな」


 俺の言葉に対して、アカリは親指を立てキラキラと目を輝かせながら応えた。


「食べ物は別腹」

「食べ物の話しはしてません」


 意味はよく分からないが、アカリはアカリなりにこの祭りを楽しむつもりみたいだ。


「でも、腹減らないか?二人共、まだ何も食べてないだろ?俺腹減ってるからさ、祭りが始まるまでに少し食べておきたいんだけど」


 昨日は中途半端にしか食べられなかったから腹が減って仕方がない。

 腹の虫を聞かれないように右手で押さえてみたが、相当に空腹なのだろう―――腸を揺らす程の大きな音が鳴り響いた。

 二人共その音に気付いたらしく、口に手を当て小さく肩を揺らしている。


「それは良い提案」

「そうですね。まだ時間もあるでしょうし、何処か開いてる所で食べましょう」

「そうしてくれると助かるわ」


 ガッツリじゃなくても良いんだ。

 腹の虫さえ黙らせる事が出来ればそれでいい。

 そもそも、祭りが始まれば出店を回ってレジスタの金で食いまくる予定だしな、その為にもある程度は腹を空かせていないと。


「でも、何処も開いてそうにないですね」


 レジスタの言う通り、皆出店の準備で忙しいのか、目に見える飯屋はCLOSEと書かれた看板を引っ提げている状況だ。

 昨日お世話になった水の精霊も閉まっていた。


「しょうがない」


 俺は店前に置かれていた鉢植えから雑草を抜き、


「これ食うか」


 口に運んだ。


「え、えぇぇえええええええええ!?」


 レジスタは意外と良いリアクションをする。


「そうだね」


 アカリも適当な雑草を抜き取ると、それを口へと運んだ。

 もちろんお互い食べるフリをしているだけである。

 しかしそれを知らないレジスタはまたもや同じリアクションを取り「こ、これが森の民・・・なんですね」と驚愕していた。

 プルプルと震える彼女の姿は滑稽だった。


「どうしたんだ、レジスタ?早く食べないと無くなっちゃうぞ?」

「えっ?いやいや、えっ?」


 レジスタが戸惑う間にも、俺とアカリは次から次へと雑草を抜いては食べるフリを続けている。

 そんな俺達を見て覚悟を決めたのか、震える手で一番短い雑草をその手に掴んだ。


「うぅ〜・・・これが仲間になった者への洗礼なのですね・・・」


 そんな訳無いだろ・・・。

 ただのイジメじゃねーか。

 しかしこのまま食べさせては本当のイジメになってしまうので、レジスタが本当に口へと入れてしまう前に止めてあげようと思う。

 流石に雑草は食べられないもんな。


「hahaha、嘘だよレジスタ。そんな物食べなくてもレジスタは俺達の仲間だZEッ!」


 と、言おうとしたのだが、一文字目を言うか言わまいかの時にはもう、引き抜かれた雑草はレジスタの口へと放り込まれてしまっていた。


「うぇー・・・苦いですぅ・・・」


 何この子、度胸が凄い。


「それが良い」


 あれ、アカリさん?まだ続けますか?


「緑を感じる」


 アカリの口から緑色の物体が顔を出している。

 もしやと思ったが、どうやらアカリは本当に雑草を食べていたらしい。


「こ、これが巷で噂の草食系ってヤツなのかっ!?」


 最近の女の子事情に理解が追い付かない。

 思わず後退りをしてしまったそんな俺を、アカリは口をもぐもぐさせながらじぃーと見つめていた。


「私達が食べたのに・・・」


 アカリのジト目が俺を襲う。


「まさか、自分だけ逃げようなんて―――まさかね」


「お、おう・・・当たり前じゃん?ダイイチオレクサスキーダシ?モリノタミダシ?クサハトモダチ!」


 悪ノリが過ぎたのか。

 これはきっと、悪事を行なった俺に神が与えた罰なのだろう。

 俺は震える手で残り少なくなった雑草を摘み取ると、そのまま口元へと近付けていった。

 なぜ、知らない土地で草を食べなければならないのか、それが分からない。

 雑草が口内に進入しようとしたその時、


「あれ?昨日のお客さんじゃないですかー。こんな所で何してるんです?」


 女神が降臨なさった。


「もしかして植木の手入れをしてくれていたんですか?」


 ありがとうございますとシャルロットさんは頭を下げた。

 その後ろから、ひょこん、と気品があり整った顔を持つ女性が俺達を覗き込んできた。


「お知り合い?」

「昨日、うちに食べに来てくださったんです」

「あー!」


 女性は軽く手を叩き、


「お金の落とし子さんね!」


 笑顔で言った。


「・・・その言い方は失礼ですよ?」


 半目のシャルロットさんに対し、特に悪びれた様子もなく女性は言葉を続けた。


「よく分からないけどごめんなさいね?名前も知らないのに失礼な事を言ってしまったわ」


 謝ってはいるがやはり悪びれた様子はない。


「私はツィオーネ。宜しくね」


 発音が難しい。

 そんな馬鹿みたいな事を思いながら、差し出された手を握る俺達であった。

 女性の掌が恐ろしいくらいに荒れているのは触った瞬間に分かった。




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