第8話 自家菜園を始めました
依頼内容の薬草を提出して達成報告を終えた私は、クロヴァーラ家の屋敷へと帰ってきた。
「エアル様、お帰りなさいませ。ちょうどお食事の準備ができたところです」
どうやら冒険者組合でごたついている間に、昼時になっていたようだ。
広間に行くとすでにミアが座っており、あれこれと雑談をしているうちに、遅れてルーカスもやって来た。
「おや、待たせてしまったかね?」
「いえ、そんなことはありませんわ。さ、お食事にしましょう」
最近ルーカスは自室に籠っていて、実務に追われているらしい。
領内での魔物の出没頻度や被害件数が以前にも増して急増しており、その対処に頭を悩ませているようだ。
食事をしている間にも秘書の一人がやってきて、ルーカスに耳打ちをしている。
するとルーカスは額に手を当てて、大きくため息をついた。
「――はあ、今度は南の森か」
「お父様、もしや深刻な事態でも起きたのですか?」
「いや、また別件があったらしくてね。ああ、君たちは気にしなくていいよ。これが私の仕事だから」
そう苦笑しつつも、ルーカスの顔には隠し切れない疲労が滲んでいた。
南の森か。
二人には世話になっていることだし、私のほうでも協力できることがあればいいのだけどな。
そう考えつつ、私は私で必要な要件を切り出すことにした。
「そうでしたか、私のほうでも依頼を見かけたら対処しておきます。そんなお忙しい中で言うのは心苦しいのですが、お一つよろしいですか?」
「ん、何かな?」
「以前にお話しした庭の一角をお借りさせていただく件なのですが、使う目処が立ったのでご報告を、と思いまして。もしかしたら、整地のさいに少しだけお屋敷が揺れるかもしれません」
「揺れかい? 聞いていた場所からここまでにはそれなりに距離があるはずだが……いや、君のことだからそういうこともあるんだろうね。もちろん構わないよ」
「ありがとうございます」
これで許可は得られた。
やるのならできるだけ早いほうがいい。
早速作業に取りかかるとしよう。
◇
やって来たのは、広大な敷地面積を持つクロヴァーラ家の土地の中でも、屋敷の裏手側で一番端にある場所だ。
そこで私は地面に手を当てて、魔力を巡らす。
「この辺かな。よし、始めるか」
私はその場で立ち上がると魔力を練って呪文を唱える。
「サイレントヴェール。マジックウォール」
すると、帯状になった半透明の魔力の膜が、私とその周辺の地面を覆い隠すように広がり、やがてゆっくりと周囲の風景に溶け込んで見えなくなる。
サイレントヴェールは防音関連の魔法の中でも上位に位置する魔法だ。単に音を遮断するだけでなく、複数次元に跨る結界を構築することで、三次元レベルの物理的な衝撃さえもある程度なら防げるという代物だ。
さらに周囲の地中をマジックウォールで作った魔力障壁で囲んで隔離をする。
これで、魔力に精通した実力者が近場にいない限り気づかれることはないはずだ。
事前準備はこれくらいでいいだろう。
ここから整地作業に移る。
「インパクト!」
私が再び手を当てた地面が、圧縮された魔力の衝撃を内側から加えられて弾け飛んだ。
舞い上がる土煙に包まれながらも、私はさらに魔法を連発していく。
「インパクト。インパクト。インパクト」
私がいる結界内は、まるで大地震が起きたかのように激しく揺れ、爆発にも似た衝撃が何度も響き渡っている。
本来なら土属性の魔法で整地をしたほうが、時間もかからず魔力の効率的にもいいのだが、残念ながら私に土魔法の適正はない。
しばらく続けていると、初めから生えていた雑草は根こそぎ掘り返され、粉々にすり潰れた状態へと変わっていた。
この段階で土壌にある魔法を加えてから混ぜ合わせることで、植物の生育が早くなるのだ。
「スモールサンクチュアリ。インパクト。インパクト。インパクト」
激しい衝撃に揺らされながら、採ってきた薬草で自作しておいた魔力回復効果のある丸薬を時折口にして作業を続けること数時間。
聖域の加護をたっぷりと含んだ土壌に、今後必要になるだろういくつかの薬草を植え終えた私は、額に流れる汗を拭って一息ついた。
明日になれば、今よりも格段に質の上がった薬草が大量に手に入る予定だ。
薬草から生産できるあれらが使えるようになれば、これからは状況に応じて様々な選択肢を取れるようになることだろう。




