第5話 魔法の授業を始めました
普段は街の衛兵たちが使っている訓練場。
その一つを借りて、私とミアは向かい合っていた。
「はぁあ、今からエアルちゃんに魔法を教えてもらえるのですね。昨日からそわそわしてあまり眠れなかったのですわ」
「ミアさん、睡眠は魔法使いにも重要な要素の一つですよ? 高度な魔法を使うときのみならず、質の高い魔力を維持するにも体調管理は必須なのですから」
「はうぅ、ごめんなさい。初日からカッコ悪いところを見せてしまいましたわ……」
うーむ、そこまで落ち込むことだろうか?
膝をついてひどく落ち込んでいるミアに発破をかけようと、私は人差し指をピンと立てる。
「それと、気持ちの切り替えの早さも重要ですね。これも高位の魔法使いなら身につけるべき技術の一つです」
「はい、エアル先生っ! 私、めげずにがんばりますわ!!」
やる気があるようで何よりである。
まずは、魔法の技術水準を確かめるとしよう。
「さて、授業を始める前にミアさんの実力を確認させてもらいましょうか。なにぶん私は以前の記憶がありませんので、ミアさんが現在使える魔法を実演しながら説明してもらえますか?」
「わかりましたわ!」
元気よく返事をしたミアは、右手を前に出して手のひらを上に向けた。
「まずは初級魔法のプチファイア! さらにその応用である下級魔法のファイアですわ!」
手のひらからやや上の位置に現れた小石ほどの小さな火の玉が、次の瞬間にはこぶし大の大きさとなって膨れ上がった。
この二つの魔法は私も見知ったものではあるのだが、どうやら認識に少し違いがあるようだ。
「私にできるのはここまでですけど、この前エアルちゃんが使った魔力の矢を作り出すアロー系の魔法は中級に位置するものですわ。そのほかに上級魔法ではファイアストームなどが有名どころでしょうか」
「ありがとうございます。今のでミアさんの実力は大体わかりました。一つ確認をしたいのですが、初級魔法と下級魔法というのはどういった区分けになっているのでしょうか?」
そもそも私が知っている魔法に初級と下級などという区別は存在しない。
あえて言うのなら、初級魔法とは別に生活魔法と呼ばれる種類のものはあったが、あれは厳密には初級魔法の中でも下位に位置するものを便宜上生活魔法と言っていたに過ぎないのだ。
さらに言えば、形態変化のアロー系は初級の上位で、複合属性のストーム系が中級魔法だったはずである。
「区分け、ですか? そうですね。一言で言えば、初級魔法が初めて習う魔法、下級魔法がある程度魔力の扱いに習熟してきたころに教わる魔法でしょうか」
「なるほど。つまり、ミアさんはそれなりに魔力に扱いには慣れているということですね」
「ええ、そうですの。褒めてくれてもいいのですよ?」
ドヤ顔をするミアの頭を撫でて、ふにゃりと表情が崩れたところで私は思案する。
それは、私が懸念するところが当たっている可能性が高いということだ。
ミアはこれでも貴族のご令嬢であることから、今聞いた情報が間違っているということはないだろう。
「さて、それでは講義を始めるとしましょう。まずミアさんには、二重詠唱を覚えてもらいます」
「にじゅう詠唱……ですか?」
「同じ魔法を二つ同時に発動することを言います。やり方は非常に簡単で、魔法をすぐに発動しないようにその場に留めながら、同じ詠唱を二度繰り返すことで二重詠唱にすることができます」
「えっ!? 詠唱破棄で詠唱しなくていいものをわざわざ二回も詠唱して、それで同じ魔法がたった二回発動するだけですの? 意味がわかりませんわ!」
詠唱破棄が使えるのに二重詠唱を知らないのか。
確かに、二重詠唱を初めて聞いたのだとしたら、こういった反応になるのも仕方ないだろう。
「まあまあ、ミアさん落ち着いてください。二重詠唱というのはですね、同じ魔法が全く同じタイミングで二つ同時に使えるというところがミソなんですよ。例えば、相手が剣士で、一度剣を振るとファイアアローを一度防げるとします。その剣士に対して頭と足めがけて同時にファイアアローを飛ばせるとしたらどうでしょう」
「はっ! 頭を防ごうとすれば足に矢が刺さってしまい、足を防ごうとすれば頭が射貫かれてしまいますわ!」
「そういうことです。二重詠唱にも詠唱を短くする方法はありますし、下級魔法であっても二重詠唱を覚えるだけで戦術の幅が大きく広がります。下手な魔法を覚えるよりよっぽど役に立つと思いますよ」
「やっぱりエアルちゃんは天才です! それにこれは世紀の大発見ですわ!! 可愛らしいだけでなくて、頭もいいなんて反則ですの!」
「わかってもらえたところで、早速二重詠唱の特訓を始めましょう。まずは普通に詠唱をして、慣れてきたところで詠唱を短縮していきましょう」
「はいですわ! 久しぶりに燃えてきましたの。エアルちゃん直々にご指導をしてもらえますし、これはやりがいがありますわ!!」
世紀の大発見かどうかの真偽はともかく、二重詠唱が役立つ技術であることは紛れもない事実だ。
ミアにはこれからみっしりと練習させて、しっかり身につけてもらうとしよう。




