第4話 歓迎されました
「我が愛しい娘の無事と、そのミアの命の恩人であり、勇敢で可愛らしい新たな友人を歓迎して――乾杯!」
「「乾杯」」
ルーカスがグラスを掲げるのに合わせて、私たちもグラスを上げた。
掲げたグラスを口元に寄せて軽く傾けると、芳醇な香りが漂ってくる。
「いい香りですね。――よく熟成されていて深いコクを感じられます。それでいて喉越しもいいので、とても飲みやすいです」
「おや? ……君、もしかしていける口かね? まあそれは冗談だが、なかなかわかっているじゃないか。成長したらいい飲み仲間になれそうだ」
などと言って、気分よさげに笑うルーカス。
もちろん、私が飲んでいるのはアルコールの入っていないただの葡萄ジュースだ。神族時代はあまり贅沢をしたことはないが、このジュースがとてもいい品だということぐらいはわかる。
それにまだ、この体に酒は早い。
私がグラスを置いた大きなテーブルの上には、様々な料理が所狭しと並べられている。
ここガザムスは商業都市というだけあって、各地の特産品が色々と集まっているのだろう。
「私はこれが好きですわ! エアルちゃんも食べてみてください」
ミアが手に取ったのは、黄緑の甲羅の器にホワイトソースを詰めた料理だ。
この甲羅は見たことのないものなので、私としても興味がある。
ここしばらくは戦いの日々が続いていたのだ。
久々においしい料理をしっかりと食べて、精をつけるとしよう。
「ところで、ミアに同行した従者から聞いたんだが、エアルちゃんはずいぶんと腕が立つようだね」
私が食事を堪能していると、ルーカスが質問をしてきた。
「ええまあ、そこそこ程度には動けると思いますが」
「そこそこなんてものじゃないですのよ! あのレッサーウルフをものともせず、かすり傷一つ負わずに倒してしまったんですもの。それに、それに! 見たこともない魔法を使って、たったの一撃でですのよ! ああ、今思い出すだけでも惚れ惚れしてしまいます」
恍惚とした表情で大げさに活躍を語るミアの様子に、私もルーカスも苦笑する。
何かよからぬ感性に目覚めてしまったのではないだろうか?
頬に手を添えながら身をよじるミアを横に置いてルーカスは話を続ける。
「とまあ、そのような話を聞いたわけでね。ぜひ君に頼みたいことがあるんだ」
「えーと、私にできることなら、やらせてもらいますけど」
「そんなに身構えなくていいよ。頼みというのはね、もしよければ、時間が空いているときにでもミアに魔法を教えてもらえないかということなんだ」
「魔法……ですか」
なるほど、と私が考えていると、現実に戻ってきたらしいミアが「お父様、ナイスアイデアですわ!」と叫んでいたが、無視することにする。
「実は、これでも私は魔術師の端くれでね。ミアに魔法を教えてあげたいのは山々なんだが、今はなかなか時間が取れないんだ。先のレッサーウルフの件もあるし、できるだけ早いうちに、ミアに自分を護る術を身につけてもらいたくてね」
「確かにああいった魔物が多いと、そういう不安は出てきますよね」
「いや、まあ、この辺はそんな頻繁に被害があるわけじゃないんだ。でも最近はいろんな地域で魔物の出没件数が増えてるみたいでね」
「魔物の出没件数が? ……それは、物騒ですね」
突然魔物が多く現れるようになったということは、何かの予兆だったりするのかもしれない。だとすれば、しっかりと調査して備えをする必要が出てくるだろう。
馬車に同乗していたときや、先程部屋で休んでいたときに調べていたのだが、今の私の身体能力や魔力量は、おそらくこの肉体と同年代である平均的な人間のそれと、そう変わらないのではないかと推測している。
そして、魔物が増えている原因が魔族だった場合、今の私の能力では太刀打ちできない可能性が高い。
つまり、すぐにでも調査を始めて、なんらかの手段を講じる必要があるわけだ。
「そういうわけでお願いしたいんだが、引き受けてくれるかね?」
「わかりました。お嬢さんを立派な魔法使いにしてご覧に入れましょう」
「はははっ、これは大きく出たね。よし、決まりだ。期待して待っているとしよう」
これまでの短い会話の中でも、この世界を知らない私にとって重要な情報がいくつもあった。しばらくの間はここで彼らにお世話になって、この世界の見識を広げていくのも悪くないだろう。
そして、私は妥協はしない主義だ。やるからには、ミアをまともな戦力に数えられるぐらいの実力になるまで、とことん育てるつもりである。
「ああそれと、確か、エアルちゃんは記憶を失っているということだったね。今回のお礼というわけではないんだが、うちの屋敷にある部屋は自由に使ってもらって構わないよ。書庫にそれなりの数の蔵書があるはずだから、記憶を取り戻す助けになるかもしれない」
「本当ですか! ありがとうございます、とても助かります。……その、もう一つ、ご厚意に甘えるようで申しわけないのですが、使わせていただきたい場所がありまして」
「ん、場所かね? 話の流れからして、屋敷の中というわけではないのだろう? そうだな、私の権限が届く範囲であれば用意させてもらうが、どういったところが必要なのかな?」
「いえ、特別な施設や場所ではなく、庭の一角をお借りできればと」
「ああ、それなら好きにしてもらって構わないよ。あとで使用人に伝えておくよ」
「はい、ありがとうございます」
これで必要な環境は整った。
あとは使える手札を増やしていくとしよう。




