第32話 今後について考えました
「――ということで、神性があるとはいっても私は純粋な神ではないわけです。今回は対抗策がうまく働いたので乗り切れましたが、次もみなさんを守りながらというのは難しいと思います」
「なるほど、おおよその事情はわかりました。その、アカシックレコードというのを使えば、さっきのような現象を起こせるわけですね?」
「えっと、ミアさん聞いてました? ですから、みなさんを巻き込むわけには――」
今、私とミアが何を話しているかと言えば、私の前世とこれまでの経緯についてである。それから魔人について大まかな説明をし、私自身は街から離れたほうがいいのだと理解を求めたのだが、どうやらミアの意見は違うようだった。
「エアルちゃんの言う通り、魔人側がエアルちゃんという脅威がここにいないのだとわかれば、再度襲撃されるおそれはないのかもしれません。しかし、魔人がその情報を信じる保障もなければ、逆にそれを好機と考えてつけ狙われる可能性すらあります」
「むぅ、確かにそれは一理あるかもしれませんが」
「それならいっそ、私のお母様が戻られるまではここにいてはいかかでしょうか?」
「ミアさんのお母さん……ですか?」
そういえば、ミアの父であるルーカスとは懇意にさせてもらっているが、ミアの母にはこれまで一度も会ったことがない。
「ええ。お母様は今、遠くの地へ旅に出ているのですが、近々帰ってこられるとお手紙が届いたところなのです。実は、お母様は現代魔術の権威でして、この国でも五指に入ると言われるほどの実力者なのですよ」
「お母さんがいれば、今回のように魔人が襲ってきてもなんとかなると?」
「……断言することはできませんが、おそらくは」
「ふむ」
私はあごに手を当てて思案する。
一番の懸念としてはやはり、この国でも有数の実力者とはいえ、はたして魔人の勢力に対抗できるだろうか、という部分である。だが、魔人や私の力の一端を目の当たりにした今のミアが、双方の実力差を見誤るとも考えづらい。
ただいかんせん、私自身が『魔術』というものを知らないので、判断に迷う内容ではあった。
「いずれにしろ、お母様には一度会っておいて損はないかと」
「……ですか」
「はい」
ミアにこうまで言わしめるのであれば、会わないという選択はないだろう。
だが、そうなると一つ大きな問題が出てくる。
「わかりました。ミアさんのお母さんには一度お会いするとして……あとはどのようにガザムスのみなさんに説明するのか、ですよね。私が魔人を吹き飛ばしてここに向かった姿は、前線付近にいた方々やミアさんの近くにいた魔法使いには当然見られてしまったわけですし――」
「エアルちゃん! それでしたら、私に一つ考えがありますわ」
◇
私とミアが平原に姿を現すと、魔物の残党狩りに奔走していた兵士や冒険者の一部がにわかに騒がしくなった。
向けられるものの多くは、私という存在を不審がるような呟きや訝しげな視線である。
一介の冒険者見習いであった年端もゆかぬ少女が、突然回復薬で名を売って人心を集め、今回の魔物の襲来を予見し、魔人とともに北方へと姿を消した。
その後に起きた地鳴りや燃えるように赤く染まった北の空を目にして、それらの現象と少女を結びつけるのは、ごく自然の流れだと言える。まして、ガザムスとは関係ないほかの地域の人間からしてみれば、なおさら怪しくも見えるだろう。
だからこそ、妙な噂が広まる前に先手を打つ必要があった。
ミアは、シルフに自分の声の拡声を頼んでから一歩前に進み出る。
「みなさま、私はガザムス領主の娘、ミーア・クロヴァーラと申します。この度はみなさまのご助力により、ガザムスの街を、領民を、無事に守り切ることができました。それのみにならず、スタンピードの撃退に加えて元凶である魔人の討伐を成すことができました。みなさまには重ねてお礼を申し上げます。つきましては、今回最大の貢献者であるエアル様のご活躍について、のちほど詳しいご説明をさせていただければと存じます」
これはある種の牽制であり、一部の人間に対する警告だ。
クロヴァーラ家という立場を公に示すことで、「これ以上余計な噂を立てるな」と暗に伝えているのである。
ミアはその場で一礼すると、私の手を取ってにこやかに笑った。
「さあ帰りましょうか、エアル様」
◇
それから約一時間後、中央広場には大勢の人々が集まっていた。
今回の戦いでの戦果報告に加えて、褒賞金の分配や表彰などを執り行うためである。
これほど迅速に事を進めているのは、領地や国に縛られない冒険者組合との共同戦線ゆえなのだろう。
領主であるルーカスが進行役を務め、他領の領主や冒険者組合の各支部長が着々とあいさつを終えていき、やがて私とミアの出番になった。
私たちは揃ってお立ち台に上がると、ミアが一歩前に出る。
「私は領主ルーカスの娘のミーア・クロヴァーラと申します。この度はみなさまのお力添えのおかげで、魔物の侵攻および魔人の討伐を――」
つつがなくあいさつを済ませたミアは一段と表情を引きしめると、透き通る声で高らかに宣言した。
「そして、こちらにいらっしゃるエアル様こそが、今回の作戦立案と魔人の討伐という偉業を成し遂げたその人にございます。……とはいえ、突然のことに疑問や不安をお持ちの方も多いかと存じます。そこで、まずは結論から申し上げます。エアル様は現代で唯一、神のお声を聞き天啓を受けしお方――つまり巫女様なのでございます」
会場が一気にざわめき立つ中、ミアは動ずることなく朗々と語り始めた。
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