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第30話 戦いのさなか_下(side:ミーア)

 side:ミーア



 エアルちゃんの名前を聞くと、男性はきょとんとした様子で動きを止めてから、私の顔を見つめてきます。


 「――君、もしかしてミアさん、だったりするのかな?」


 「え……ええ、私はミアですが」


 「やっぱり! ちょっと待ってて、すぐに案内させるから」


 「は、はい」


 男性は肩に乗っている光の玉に何かぼそぼそとささやいたあと、勢いよく右手を上げました。


 「みんな聞こえてるかなー? ここにいるミアさんと一緒に、エアルちゃんの捜索をしてくれる優しい子はいないかなー? それぞれ、先着一名限りだよー!」


 『ハイハーイ! 行ク行クー!』


 すぐに返事をしたのは、近くを飛んでいた光の玉です。

 私のほうに漂ってくる間に、ただの光にしか見えなかったものが次第にくっきりとした輪郭を持ち、子どもの手と同じくらいの身長で羽の生えた小人の姿に変化しました。


 『ワタシも協力しようかしら。よろしくね、お姉さん』


 続いて、驚く私の肩の上に現れたのは、青色を基調としたドレスに身を包んだ透き通るような肌の小さな女性です。


 「わっ! えっと……もしかして、あなた方は妖精なのでしょうか?」


 『そうじゃぜ。あっしはノームってんだ。よろしゅうのう、嬢さんや』


 『ワタシハ、サラマンダー、です』


 いつの間にか私の足元に集まっていた妖精は、白いひげを蓄えた老人と炎を纏ったトカゲでした。トカゲは後ろ足で立ち上がると小さな女性へと姿を変えて、おじぎをしてくれます。


 「私はミーアと申します。みなさん、よろしくお願いしますね」


 一通りあいさつを終えると、男性がパンと手を鳴らします。


 「よし。それじゃあみんな、役割を言うよ。シルフは道案内、ノームは道を作ってあげてほしいな。サラマンダーとウィンディーネは護衛をお願いできるかな?」


 『フフ、いいわよ。任せてちょうだい』


 『コッチダヨ、コッチ! ツイテキテ!』


 『全くせっかちじゃのう。おい、シルフのっ! ジャマなもんどかすから、ちょいと待っとれ!』


 シルフが指し示した先にノームが手を動かせば、地面が平たくならされていき、まるで木々が道を作ってくれるように枝葉をどかしてくれました。

 肩のウィンディーネは優しくほほ笑み、サラマンダーが手を引いてくれます。


 『いきましょう。ここから先の障害は、私たちが払い退けます』


 「みなさん……はい、ありがとうございます! エアルちゃん、すぐに行きます。待っててくださいね!」





 それは、妖精たちと合流してから、原生林の奥地へ向かっていた途中のことでした。


 妙な感じを覚えた私は、ふと空を見上げました。

 高木の間から差し込む光が赤く染まったかと思った直後、大気を震わす轟音とともに強烈な熱波が押し寄せてきたのです。

 幸い、いち早く危険を察知して飛び出したサラマンダーが熱波の軌道を逸らし、ウィンディーネが熱気を和らげてくれたおかげで無事にすみましたが、あと一歩でも遅れていようものなら、周りの木々と同じく私たちも瞬く間に消し炭にされていたことでしょう。


 それから少し進むと、木々が途切れて開けた場所に出ました。

 切り取られたように窪んだ広い空間は、真っ白な蒸気に満たされていています。

 ウィンディーネに視界を確保してもらうと、その一帯が元は池や湖だったのだとわかりました。


 「一体、何が起きて……」


 前方では、対峙する二つの魔力のうち、計り知れないほど巨大な魔力がさらに大きく膨れ上がり、もう一つの魔力が消滅しました。

 そこではきっと、私の想像も及ばない何かが起きているのでしょう。


 「あ、ああ……」


 思わず漏れてしまった声を自覚して、今更ながら現実を思い知らされます。


 今も肌に残る、地形さえも変えてしまうほどの強大な力の衝突。

 さっきの熱波にしても、今も妖精に守ってもらえてなければ、死んでいただろうという事実。


 それらを実感してしまえば、次第に恐怖と不安が込み上げてきて、震え始める体に鞭を打って私は必死に走り出しました。




 ――私はただ、怖かったのです。


 これからあの場所に行くのだと理解するのが怖くて、夢中で足を動かしました。

 どちらかの魔力がエアルちゃんだったとして、これまでと同様に接せられるのかと思うと……考えてしまうのが怖くて、ひたすらに走り続けました。




 そうして気がついたとき、私の視界には焦土と化した大地だけが、見渡す限り一面に広がっていました。


 その黒い大地で、ポツンと膝をついたエアルちゃんがこちらを振り返ります。


 「ミア、さん? どうして、ここに……」


 そのとき私は――。

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