第29話 戦いのさなか_上(side:ミーア)
side:ミーア
エアルちゃんらしき人影が飛び去ったあと、一時的に足並みを乱した魔物たちへ兵士や冒険者が一転攻勢に出て、平原中央部を奪還していく様子が見えます。
私は目の前にいるお父様へ疑問を投げかけました。
「今のはエアルちゃんですよね? お父様とエアルちゃんは一体何を狙っているのですか?」
「ミア、すまない。この戦いが終わったらちゃんと説明するよ。だから今は――」
「お父様。でしたら私は、エアルちゃんの加勢に行きますわ!」
「待つんだ!」
私が飛翔の魔法を使って飛び出そうとすると、振り返ったお父様が反魔法の紋をこちらに向けて立ちはだかります。
「今行くのは危険だ。ここはエアルちゃんに任せて――」
「それこそ、なおさらではないでしょうか? エアルちゃんだって、今はガザムスに住む領民であり、私たちの家族同然の間柄でもあるのです。なればこそ、私にもエアルちゃんの隣に立つ責務があると思います!!」
しばらくにらみ合っていると、お父様は根負けしたように、深いため息をついて頭を掻いた。
「はあ。全く、一体誰に似たんだか……。仕方ない、加勢に行くのを許可するよ。ただし、二つ条件がある」
「条件、ですか?」
「そう条件だ。一つは、少しでもエアルちゃんの邪魔になると感じたなら、すぐに逃げること。ガザムス領主の娘として、お荷物になることだけは絶対にあってはならない」
「も、もちろんですわ!」
私が即答すると、お父様は一度うなずいてから表情を引きしめる。
「もう一つは、魔物や魔人以外で何かがあったとしても、決して逃げ出さないと約束すること。しっかりとエアルちゃん自身と向き合って、できれば支えになってあげてほしい」
「は、はい。よくわかりませんが、誓って逃げたりなどしませんわ!」
「よろしい。では、気をつけて行ってきなさい」
「はい、行ってきます! フライ!!」
私は空高く飛び立つと、魔力反応から危険の少なそうな方向を選びつつ、混乱の最中にある敵陣を抜けて原生林の奥地へと向かっていったのです。
平原を抜けてからは、魔力の温存と魔物の脅威から逃れるために地上に降り、なるべく気配を消しながら進んではいたのですが、さすがにそうやすやすと通してくれるはずもありませんでした。
木々の間を走り抜ける私の後ろには、数体のオークが迫ってきています。
「くっ。ツインウィンドアロー!」
振り向きざまに放った風の矢は、真後ろについていた一体には命中したものの、ほかのオークには簡単に避けられてしまいます。
さらに、矢を当てたオークさえも一瞬の足止めにしかならず、すぐに体勢を立て直して追いかけてきます。
「……さすがに、風属性では相性が悪いですよね」
木々が密集している場所であり、ほかの魔物に見つかるリスクもある火属性の魔法を使うわけにもいかず途方に暮れているところに、前方から小さな光の玉が飛んでくるのが見えました。
『人間サン! ドイテ、ドイテ!』
「……え? 今の声はどこから――」
戸惑いながらも姿勢を低くすると、頭上を強風が吹き抜けていくのを感じます。
後ろから悲鳴が聞こえて流し目に見ると、オークたちがひっくり返っているのが見えました。
『コッチダヨ、コッチ。ツイテキテ』
「は、はい!」
周囲を見回すも光の玉しか見当たらず、声がする方向に浮かんでいる光の玉についていくと、その先に一人の男性がいました。
男性は飛んできた光の玉を、両手を広げて迎えてから、こちらに柔らかな笑みを見せます。
「シル、お疲れ様。やあ、君も災難だったね。だけど、もう安心していいよ」
「あの、どなたか存じませんがありがとうございます。助かりました」
私が感謝を伝えると、男性は照れたように笑いながらも、忙しく周囲を飛び交う別の光の玉へ次々に指示を出していきます。
「ここは安全だから、しばらくはここに――」
「いえ。その、私にはどうしても行かなくてはならないところがありまして」
「まだ、この近くに人が残っているのかな? 大体の場所さえ教えてもらえれば僕たちが――」
「エアルちゃんという名前の金髪の少女なのですが、どこかでお見かけしませんでしたでしょうか?」




