第27話 罠にかけました
眼下の獣道沿いで、大勢のノームとほかの妖精が集まって作業している様子が見える。
基本的にはノームが地形や土の強度を調整しているが、時折出す指示にほかの妖精たちが従っている形だ。
地中の水分量の調節はウンディーネが担当し、地盤を固めるときにはサラマンダーやシルフと共同して行っている。
今のところは大きな問題もなく、円滑に進んでいるようだった。
「――ええまあ、少し心配だったんですよ。偏屈なノームさんも、今回はちゃんとほかの妖精さんと協力できてるみたいで一安心です」
枝から枝へ飛び移って移動していくと、前方に魔物の集団が見えてきた。
進路付近の高木に身を潜めつつ、枝葉の間から様子を窺うことにした。
「おっ、来ましたね。……やはり先鋒は小型の魔物ですか。これが定石ですし仕方ないですけど、まだ少し時間がかかりそうですね。まあ、私はゆっくり待たせてもらうとしますよ」
気配を消して少しばかり待機していると、地面に響く振動が徐々に大きくなり、隠れていた高木がグラグラと揺れ始めた。
私が葉の隙間からそっと覗き込むと、ちょうど手前側にトロールらしき太い首筋が見えた。
「――ようやく出番が来たようなので失礼しますね。ええ、予想通り魔人が出たら教えてください」
私は精霊魔法の通信を切ったあと、肩に留まっている半透明の光の玉を撫でながら短剣を取り出した。
「さて……と、派手にはいけないので、サクッと終わらせますか。――マジックエンチャント」
短剣に魔法を施してから跳躍し、向かい側の木の幹まで一気に飛び移る。
再度跳躍して元いた高木の根元近くの茂みに降り立った直後、ドスンと大きな音を立ててトロールとオークジェネラルが崩れ落ちた。
「あとは、あちらのほうですかね」
これだけ大規模で多種多様な魔物がいると、いくら魔人の統制下にあろうとも、仲間同士の小競り合いというのは往々にしてあるものだ。
なので、これに乗じる形で厄介な魔物が固まらないように数を減らしていくというわけである。
◇
それから一時間以上が経過し、大きな反応が動き出したのを察知してガザムス方面に向かっていると、一人のシルフがこちらに飛んできた。
『魔人ガ来ルヨ! 魔人ガ来ルヨ!』
「ああ、やはり今のは魔人でしたか。魔人は私が対処しますので、イアンさんに上位の魔物の足止めと、できる範囲での隔離を頼んでもらっていいですか?」
『ワカッタ、ワカッタ。伝エルヨ』
「お願いします。あなたもお疲れ様でした。もう、行ってもらって大丈夫ですよ」
私が労いの言葉をかけると、肩に乗っていた光の玉がふわりと浮かんでシルフの姿に変わっていく。
『オ疲レ、オ疲レ。女神サマ、気ヲツケル?』
「ええ、ありがとうございます。あなた方も気をつけてくださいね」
じゃれ合いながら飛んでいくシルフたちを見送りつつ、ガザムスに向けて木々の間を駆け抜けていく。
「はてさて、ルーカスさんはうまく時間を稼げるでしょうか」
私が平原に到着すると、ルーカスが魔人と思わしき者へ雷撃を打ち込んでいる光景が見えてきた。
見たことのない魔法で興味をそそられるが、今はそれどころではないだろう。
ルーカスの雷撃が止む頃合い見計らって、踏み込んだ足裏に無詠唱でインパクトの魔法を込めて一気に加速する。
「――ツインヘルファイア」
黒炎が放たれる間際に魔人の懐へと飛び込んだ私は、掌底を突き上げながら練り上げておいた魔法を叩き込む。
「チャージインパクト」
「がっ!?」
大気を揺らすほどの衝撃を受けて、魔人の体が勢いよく上空へと打ち上がっていく。
私は両足に複数のインパクトを込めて跳び上がることで一瞬にして追いつくと、両手のひらを重ねるようにして魔人の胸にかざした。
「この――」
「リパルション」
呪文を唱えるとともに、不可視の力によって魔人の体が後方へ弾き飛ばされていく。
咄嗟に魔力障壁を張って防御しようとしたようだが、この魔法の強制力は即席の魔力障壁程度では防ぎようがないものだ。
「スカイウォーク」
魔人が飛んでいった方向へ空中歩行とインパクトを組み合わせて進んでいると、地平線の向こうにある原生林の奥地で土煙が空高く上がるのが視認できた。
加速して一気に距離を縮めつつ、魔人の索敵範囲に入る手前で魔力回復薬を一本飲み干すと、そのまま速度を落とさずに急降下しながら着地する。
反射的に飛び退いて振り向く魔人に、私は短剣の切っ先を向けた。
「さあ、降伏するなら今のうちですよ? 魔人さん」




