第26話 作戦を開始しました
魔物たちがガザムスに侵攻するよりも少し前、私たちはガザムスの東側にある妖精たちが住まう森に集まっていた。
ここにいるのは私エアルことエリアルのほかに、盗賊団の頭領であるガヴィーノと各部隊の隊長格が五名、今回の作戦に参加する三種族の妖精たちとその取りまとめ役であるハーフエルフのイアンだ。
イアンに関しては精霊との親和性が著しく高かったので、あれから詳しく調べてみた結果、わずかにエルフの血が混じっていることがわかったのだ。
過去に親族からそのような話をされた覚えはなく、エルフとしての身体的特徴がほとんど出ていないこともあって、当の本人も知らなかったらしい。
それはさておき、わざわざ私がここを訪れたのはほかでもない、これから始まるだろう魔物の大侵攻に備えて、最後の打ち合わせをするためだ。
私は一度咳払いをしてから話の口火を切った。
「それでは各自近況の報告をお願いします。まず、ガヴィーノさんたちの進捗はどうですか?」
「オレらのほうはなんも問題ねぇな。不足してた人員は確保できたし、言われた通りに部隊の配置も終わってるぜ」
「それは重畳ですね。このあとの作戦でも活躍に期待していますよ」
今回の作戦でガヴィーノたちには、妖精たちが分断した集団の陽動と孤立した魔物の殲滅を命じている。
あくまで、経路から外れた魔物の誘導や多過ぎる魔物の数を減らすのが目的であり、敵本隊と接触する予定はないのだ。
「続いて、イアンさんたちの報告をお願いします」
「僕のほうも順調かな。教えてもらった精霊魔法は一通り使えるようになったし、シルが橋渡しになってくれてるから、連携も大丈夫だと思う。あとはこの子たちの気分次第かな」
『大丈夫、大丈夫! オ任セ、アレアレー!』
「うん、がんばろうね!」
イアンに撫でられて、キャッキャとじゃれつきながら妖精の一人が手を挙げた。
妖精たちには、それぞれの区域で代表の一種族を中心に役割を決めて、協力をお願いしている。
まず、魔物本隊が通り道にするだろうと予想される場所では、地の精霊ノームを中心として、悪路や泥道といった行軍が阻害されそうな地形に作り変えるなどの妨害工作を行ってもらう。
それと並行して、一定間隔で定期的に濃霧や感覚異常を引き起こすイタズラを水の精霊ウンディーネと風の精霊シルフに仕掛けてもらい、低位の魔物の撹乱と誘導を狙う。
イタズラにかかった魔物は、ガヴィーノの部隊や各精霊で協力して、あらかじめウンディーネに用意してもらった霧の檻がある区画まで誘き寄せて捕らえておく。
その後、捕らえた魔物はガヴィーノの部隊が適宜処理していく流れとなる。
最終地点である平原には、火の精霊サラマンダーに待機してもらい、ガザムス側で行使された火属性魔法の強化と補助を行ってもらう。
情報伝達と支援はシルフが担当し、統括と指示をイアンがしていくこととなる。
むろん、各種族の妖精たちにはこれ以外の役割もあるのだが、大まかな分担としてはこんなところになるだろう。
「ええ、しっかり頼みますよ。今回の作戦の要は、妖精さんとイアンさんなのですからね。とりあえず妖精さんたちは、強そうな魔物や大型の魔物を引き寄せないようにだけ注意してくださいね。上位の魔物はガヴィーノさんたちの手に負えませんし、下手をすると死んでしまいますので」
「……おいおい。そいつぁ、オレたちをナメ過ぎてるんじゃねぇかあ?」
「おや、ガヴィーノさんは何やら自信がおありのようですが、トロールジェネラルでもけしかけてあげましょうかね?」
「お頭、少し落ち着いてください。エアルの姉さんもあっしらのことを思って言ってくれてるんですし」
「……チッ。勝手にしろ」
今声をあげたのは新しく幹部になった盗賊の男である。
作戦の準備や連携のために、何度か拠点を出入りしているうちに、なぜか盗賊たちに好かれてしまい、いつからか姉さんと呼ばれるようになっていた。
この男は、盗賊たちの中でも私に全幅の信頼を寄せているうちの一人だ。
「ところで、姉さんはこれからどうするんですか? 前に聞いたときは当日までは秘密だって言ってやしたが」
「ああ、私ですか。そうですね、私はみなさんが対処できなそうな魔物を主体に戦力を削いでいきますよ。まあ、あくまで最終目的の魔人にバレないように動くのが基本となるので、ガザムスが落とされない最低限度にはなりますけどね」
私がそう答えると、イアンが真剣な面持ちで聞いてくる。
「魔人か……。本当にいるんだよね?」
「ええ、もちろんです。十中八九いるとみて間違いないでしょうね」
『――イアン、イアン! 魔物ガイッパイ、動イタヨ!!』
シルの報告に、今騒いでいる妖精以外の全員が表情を険しくした。
私はこの場に集まった一人一人と視線を合わせてから、作戦を決行すべく開始の宣言を発する。
「では、みなさん準備はよろしいですか? 今回のスタンピードを起こした主犯であり、安全な場所で一人ふんぞり返っているであろうお山の大将を、私たちの手で表舞台に引きずり出してやりましょう。――それでは、作戦開始です!」




