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第24話 ガザムス防衛戦(side:ミーア)

 side:ミーア



 ガザムス北東の市壁の前でほかの方々と一緒に待ち構えていると、原生林の高木の間を縫うようにして動く巨大な影が見えてきました。

 大きな地鳴りを響かせて姿を現したのは、広大な平原一面を埋め尽くしてしまうほど大量の魔物の集団です。

 それでも、ここから見えているのは、全体の何割にも満たないのでしょう。

 周りにいる魔法使い、兵士や冒険者たちにも緊張が走ります。


 防衛する私たちの陣営にもそれなりの人数がいるはずなのですが、魔物たちは一切臆する様子もなく突撃してきます。

 先陣に立つのはレッサーウルフやゴブリンライダーといった小型で身軽な魔物の集団、それを止めるために立ちはだかる兵士や近接職の冒険者たちによって、戦いの火蓋は切られました。




 第一陣の戦闘は一進一退の攻防となりました。

 相手となるのは下位の魔物たちですが、こちらも戦力を温存するために実力者の方々には後ろで控えてもらっています。

 そのため、戦線は膠着状態に陥ったのです。


 この開戦直後の戦闘で勝負の分かれ目となるのは、魔物側からすればいかに早く第二陣が前線に加わるか、人間側からすればどうにか後陣を寄せつけずに支援を続けて、どれだけ長く前線を保てるかにかかっています。

 そこで重要となるのは、弓隊による援護射撃です。

 今回はあえて先陣は真っ当に迎え撃ち、後続の魔物が近寄れないように牽制する選択を取りました。

 この状態を維持していれば、自ずとやって来る魔物がいるからです。


 先発隊から少し遅れて近づいてきた一団の中には、ほかの小型の魔物以外にもオークやオーガといった中型の魔物がいました。これには中級冒険者が前線に出ることでなんとか抑え込んでいきます。

 そうするうちにも地鳴りがさらに大きくなっていき、前方の木々を押し倒すように巨大な図体を持つ怪物たちが平原へと押し寄せてきました。それは時折高木の間から頭を覗かせていたトロールやサイクロプスといった大型の魔物たちです。


 大型の魔物たちが前線の近くまで来ると、兵士や冒険者たちは次々に戦闘を放棄して市壁のほうへと撤退してきます。

 当然、魔物たちはそのあとを追ってきますが、そこであらかじめ仕掛けていた罠が発動し、あるものは落とし穴へ、またあるものは落とし穴の隙間を埋めるように設置していた魔物だけを感知する特殊な魔道具の爆発に巻き込まれて足止めを食らいます。


 その段になって、ようやく私の周りの魔法使いたちの出番となりました。

 いくつかの小集団に分かれていた彼らは、一斉に杖を構えて詠唱を始めます。


 「「「ファイアストーム!!」」」


 呪文を唱えた瞬間、私の眼前にまさしく地獄とも思える光景が現出しました。


 まるで平原を中央で二分するかのように横一列に複数の炎の大渦が生じると、それぞれの渦の中心がつむじ風のごとく一直線に上空へ伸びていきます。

 やがて天を衝く巨大な火柱を連想させるような大渦は、途方もない規模の極大の火炎竜巻となって、集まっていた魔物たちを文字通り一掃してしまいました。

 分厚い皮膚や脂肪によって刃や矢を通さないトロールの強靭な肉壁も、巨体に加えて素早さと怪力を兼ね備えたサイクロプスの頑強な筋肉の鎧さえも、全身を極熱に晒されて内部をも焼かれてしまえば関係ないのでしょう。




 そうして猛火の内側で次々に魔物たちの影が倒れていく中、ファイアストームの極熱の嵐を突っ切って迫るいくつかの影が見えてきました。

 立ち上る炎の中から姿を現したのは、ゴブリンロードやオークロードといったロードと称される魔物たちです。


 数日前、私がエアルちゃんと原生林で出会った得体の知れない魔物の正体が、ゴブリンロードだったのだとお父様に教えてもらいましたが、これはおそらくエアルちゃんから提供された情報なのでしょう。

 このロードに属する魔物、実は種族の最上位とされているゴブリンキングなどのキング系よりも戦闘能力が高いらしいのです。

 種族全体を統括する役割を持ち、統治や運営などの知能方面に特化したのがキング系。群れがある程度の規模になったときのみにまれに出現し、キング系に代わって領土の一部を管理したり、軍隊を指揮する権限を持っていたりと、軍事や戦闘方面の能力に秀でているのがロード系だと聞いています。

 つまり、今前方に現れた魔物たちこそが、実質各種族で最も強い個体ということになるのです。


 ここで応戦に出るのは、兵士の中でも選りすぐりの精鋭部隊、A級やB級で構成された上位冒険者パーティーの面々です。

 彼らは常に複数人で一つの個体を相手取り、ロード系を相手にしても全く後れを取ることはありません。


 そうして私が様子を見ていると、近くの兵士から声がかかります。


 「ミーア様、十一時の方向をお願いします」


 「わかりましたわ!」


 ロードとの戦闘が始まった時点で魔力を練り終えていた私は、すぐさま濃縮した魔力球体を構えて、こちらに走ってくるオークロードへ狙いを定めます。


 「デュアルマジック・ファイアトルネード!!」


 私が撃ち出した横向きに進む火炎竜巻は、オークロードの巨体をあっという間に呑み込むと大地を大きく抉ってから消えていきました。


 ファイアトルネードは同じ上級魔法であるファイアストームに比べて効果範囲は狭いのですが、単体にもたらす威力が高いのと貫通力にも優れているため、この魔法を単独で使える私に今の役割が与えられたというわけです。

 何より、一般的にほかの魔法使いの方々が使うとされる上級魔法は、複数人で行う儀式魔法と呼ばれる形式が多く、発動速度が遅いので迎撃が間に合わないという理由もあります。


 心なしかいつもよりも火力が増したファイアトルネードにより、体の中心に大穴をあけられたオークロードは片膝をつきます。ところが、それでもまだ倒れる気配を見せません。


 オークロードは怒りの形相を浮かべて咆哮をあげると、たった今魔法が飛んで来た方向にいる私を標的にして、本能のまま一心不乱に駆け出してきます。

 ですが、周りをツワモノの兵士や冒険者に囲まれた状況で理性を失くしてしまうのはいい判断とは言えないでしょう。

 脇目も振らずに猛進していたオークロードは、サッと横側に詰め寄った冒険者に気づかず、そのまま首を刎ねられて倒れ伏したのです。

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