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第20話 目的の場所に着きました

 森の中を歩いていると、道中で冒険者が魔物と戦った痕跡らしきものがいくつか見受けられた。

 私は冒険者たちが踏みしめたと思わしき草や地面の跡を手がかりにして方角を割り出し、行き先を探り当てていく。


 「……本当です。こちらにも戦闘の跡が残っています。こんな技術まで身につけているなんて、エアルちゃんはやっぱりすごいです」


 「まあ、獲物を探すのに必要な能力ですからね。冒険者ならそこまで自慢になる技能でもありませんよ」


 会話をしつつも周囲への警戒を怠らずに歩いていると、頭上から複数の足音が聞こえてきた。

 気取られないように注意してさり気なく流し見ると、弓矢を持ったゴブリンが枝の上を飛び移っているのが確認できた。

 それはゴブリンアーチャーと呼ばれる個体で、ゴブリンの上位種とされている。

 私の予想が正しければ、彼らは偵察として私たちを監視する役割なのだろう。


 わざと横道に逸れた私は、背丈ほどの茂みを掻き分けるのに手間取っているふりをしてミアのそばへと近寄った。


 「ミアさん、顔や目を動かさないようにして落ち着いて聞いてください。私たちは今、数体のゴブリンアーチャーに見張られています」


 「えっ! それでは……私はどうすればいいのですか?」


 「おそらくですが今のところは襲ってこないと思います。なので、しばらくは好きに泳がせておいてください。いざとなれば私が対処します」


 「わかりました。その判断はエアルちゃんにお任せしますわ」


 私は軽くうなずくと、草やツタを短剣で切り裂いて茂みを抜け出していった。




 道なき道を進んでいくと、鬱蒼と生い茂る木々に光が遮られてだんだんと辺りが暗くなってきた。

 足元をわずかに照らす木漏れ日を頼りに歩く私たちを追う偵察者は、日の陰りに比例するかのようにその数を増していった。

 上手く気配を消しているつもりのようだが、これだけの数になると嫌でも気づくというものだ。


 頭上を覆う枝葉が擦れたり軋む音を立てる度にビクついているミアは、不安そうに顔を引きつらせながら尋ねてくる。


 「あの、エアルちゃん。その……疑うわけではないのですが、このままにしておいて――ひっ! だ、大丈夫なんですよね?」


 「ええ、もちろんです。それより、そろそろ目的の場所に着きますよ」


 「……はい! わかりましたわ」


 私の言葉を聞いて、ミアは表情を引きしめた。





 ちょうど死角になりそうな大木を見つけた私は、素早く木の陰へ身を隠すと、距離を取って待機させていたミアを手招きして呼び寄せた。


 「この木の向かい側に背を向けているゴブリンがいます。その向こうの地面に、何人かの人間が倒れています。見えますか?」


 「はい。でも、あの出血量では……」


 「そうですね。そこに倒れている人たちは、今からではどうやっても助かりそうにありません。ですが、奥の――」


 「きゃぁあああ!!」


 私が説明をしている途中で女性の叫び声が聞こえてきた。

 反射的に身を乗り出そうと構えたミアは、言いつけ通りギリギリで踏み留まって私に視線を送ってきた。


 「エアルちゃん!」


 「行きなさい! 援護します!」


 「はい、頼みますわ!」


 ミアは魔法を当てるため、斜めに角度をつけて走りながら詠唱を始める。


 「ダブルマジック・ファイアアロー!」


 前方の数体のゴブリンの間を縫って高速で飛来する二本の火の矢は、女冒険者に棍棒を振り下ろそうとするゴブリンの手首と、取り押さえているゴブリンの頭を正確に撃ち抜いた。

 ミアとともに前方に飛び出した私は、同時に反転して魔法を唱える。


 「エアロブラスト」


 振り向いた私の視界を埋め尽くすように殺到していた矢雨が、エアロブラストの猛烈な風によってあっという間に吹き散らされていく。

 私が跳んだ勢いのまま回転して背後のゴブリンを薙ぎ払うと、その隙に包囲を抜けたミアが女冒険者を庇える立ち位置へと移動した。


 「これ以上、あなたたちの好きにはさせませんわ!」


 「ギ、ギィ……」


 魔法を撃ったあとの隙などないかのように瞬時に魔力を高めて見せたミアを警戒して、ゴブリンたちが後ずさる。

 だが、直後にゴブリンたちを叱咤する怒号が奥から響いてきた。


 「オマエタチ、タカガ人間ノ女相手ニ、何ヲ逃ゲ出ソウトシテイルカッ! 汝ラコソ、誇リ高キゴブリンノ戦士ナルゾ!」


 ひざまずくゴブリンたちの間を通って現れたのは、大型の魔熊か何かと見違うほど巨大な、いかつい体つきで全身武装をしたゴブリンだった。

 その左右には、鉄の鎧に剣を持った大柄のゴブリンが追従している


 「な、なんですかあれは!? あんな大きなゴブリンと兵隊姿のゴブリンなんて……見たことがありませんわ」


 「正面の槍を持った一番大きい個体がゴブリンジェネラルですね。隣にいるのがゴブリンナイトという個体です。これらから察するに、おそらくこの原生林には大規模なゴブリンの軍隊ができつつあるのでしょう」


 「そんな……早くお父様に知らせ――」


 「逃ガスト思ウカッ!」


 「うっ!」


 ゴブリンジェネラルが無造作に直槍を振るう。

 まだそれなりに距離が離れているにもかかわらず、たった一度起こしたその風圧のみで、立っていられないほどの突風が吹き荒れ、ミアと周りのゴブリンたちが膝をつく。


 ゴブリンジェネラルは足元に直槍を突き立てると、腕を組んでこちらを見下ろしてきた。


 「身ノ程モワカラヌ愚カ者メガッ! サア、ドウシタ?! ドコカラデモカカッテ来ルガイイ!! 格ノ違イト言ウモノヲ、思イ知ラセテヤロウ!」

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