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第2話 目が覚めたら森の中でした

 「……ここ、は?」


 目が覚めた私は、木漏れ日の差す森の中にいた。


 「たしかあのとき、私は黒い甲冑の魔人に殺されて――殺されて?」


 不思議に思って自分の体を見てみれば、魔人から受けた斬り傷はおろか、戦場で負った傷跡もきれいさっぱり消えていた。――どころか、見慣れない衣服を身に纏っていて、手足も少し短いような。


 「ま、まずい。なにか、何か異常なことが起こっている!」


 慌てて辺りを見回した私は、すぐ近くにあった小さな池に駆け寄るなり、水面に顔を近づけた。


 「私ってこんな顔だったっけ? ん? それに、この体は……」


 金髪に碧眼なのは変わらない、だが、丸みのある輪郭には幼さが感じられる。

 グニグニと自分の顔を撫で回していると、水面に映る自分の体と周囲の草木の大きさに違和感を覚えて立ち上がった。

 木に近づいて、枝葉を見上げる形となった私は、そこでようやく違和感の正体に気づいた。


 「そうか、私の体が縮んでいるのか。あの魔人の仕業か……いや、仮にそうだとしても一体なんのために」


 この現象が魔人の仕業だとしても、あの場で殺さない理由がない。

 同じ神族や高位の神のおかげで生き残れた――または、生き返れたのだとしたら、なんらかの要因で副作用が起きてしまい、この姿になったとも考えられないこともない。

 だとしても、未だになんの音沙汰もないなどということがあり得るのだろうか?




 「きゃあああ!!」


 腕を組んで思索に耽っていると、突然若い女性の悲鳴が聞こえてきた。

 私の体は反射的に悲鳴が聞こえてきた方角へと走り出していた。

 走り始めて私はハッと気がついた。


 ――このまま誰とも知れない悲鳴の主を助けに向かっていいのだろうか?


 今は何も情報がない状態だ。

 この場所がどういったところかも知らないし、悲鳴をあげた人物が自分に敵対しない存在なのかもわからない。

 そもそも、悲鳴をあげた人物を襲っている何かに、私は勝てるのだろうか?


 思考に渦巻くそれらの懸念を、私は首を振ることで頭から取っ払った。


 「私は、自分の手の届く場所にいる命を必ず救うのだと、あのとき、そう誓ったではないか」


 言葉にすると、いつの間にか迷いは消えていた。

 私は走る速度を速めて木々の間から飛び出すと、尻もちをついて怯える女性と何かの間に割って入る。


 「ガルルルル」


 唸り声を出しているのは狼型の魔物だった。

 その周囲には、女性の従者や護衛と思わしき人々が倒れている。


 「グルァ!」


 私は飛びかかってきた狼の鋭い爪を避けつつ、手のひらを天に翳した。

 光の粒子とともに現れるのは、聖なる力を宿した光の弓。

 今の身のこなしから察するに、この狼はあまり動きが素早いわけではなさそうなので、ひとまずは様子見と、魔力で形作った矢をつがえて解き放つ。


 「ホーリーショット!」


 「えっ」


 女性が驚きの声をあげるのも当然だった。牽制のつもりで放ったはずの軽めの一撃だけで、狼の頭が吹き飛んでしまったからだ。





 「レッサーウルフがこんな簡単に……」


 「あ、あの、大丈夫ですか?!」


 唖然とした表情で固まる女性に私は慌てた様子で近寄っていく。

 女性に外傷がないのは一目で気づいていたが、だからといってなんの心配もせずに近づいてしまっては、それはそれで不安を煽ることに繋がりかねない。

 これに関しては、以前に部下から注意を受けたため、気をつけているのだ。

 ちなみに、外見が変わっていることを踏まえて口調も変えてある。


 「ええ、助けていただきありがとうございます。……もしかして高名な冒険者の方だったりするのでしょうか?」


 「冒険者……ですか? いえ、違います。たまたま近くを通りかかったときに悲鳴が聞こえてきたもので」


 「そうだったのですね。あなたが来てくれなければ、私はここで命を落としていたかもしれません。本当にありがとうございました」


 そう言って頭を下げて礼を述べた女性は、一言断わりを入れてから倒れている護衛や従者のもとに駆け寄っていった。





 負傷者の治療を一通り終えた女性と私は、彼女の馬車に乗ってガザムスという商業都市に向かっていた。

 女性の名前はミーア・クロヴァーラ。

 ガザムスの領主の一人娘であり、近くの町から帰る途中で運悪くレッサーウルフに出くわしてしまったのだという。


 馬車がまだ使えることがわかったミーアは、お礼もしたいとのことでガザムスまで一緒にどうかと誘ってきたのだ。

 今の状況もわからず行くあてもない私は、とりあえず同行することに決めた。


 「ミーアさん」


 「さっきも言いましたがミアで構いませんよ」


 「……ミアさん、少しお尋ねしたいことがあるのですが、いいですか?」


 「ええ、もちろんです。エアルちゃんは私の命の恩人なのですから、遠慮せずになんでも聞いてください。私が知っていることならなんでもお答えしましょう」


 「……あ、はい。では――」


 食い気味のミーア……もといミアに若干戸惑いながらも、ガザムスという都市の情報を聞き出していく。そこから広げる形で都市の歴史や経済の状況、住民の生活環境や金銭などの一般的な話題へと移していった。


 今の私に必要なのは、この現状が知れるような情報……つまり、人々の歴史や一般的な常識といったものである。

 私はあの森を出てからここに至るまでに、魔法によって周辺一帯の地形や大気を分析していた。それらの情報に基づくと、ここは私の知らない未開の地、または時間の経過により大きく変化した土地という結論に辿り着いたのだ。


 大戦前の私はとある権能により、神族が知るべき下界の情報を頭に刻み込んでいた。その私が知らないという事実が意味するところは一つしかない。


 今いるこの世界は、もはや私の知らない未知の世界だということだ。

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