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第18話 実戦で試しました

 「エアルちゃん、やっぱり似合ってますわよ! とても可愛らしいです」


 新しい服を着た私を見て、ミアが興奮気味に目を輝かせる。


 「あのですね、ミアさん。私は別に可愛らしさを目指しているわけではないのですが」


 「すまない、エアルちゃん。服の仕立てをお願いする場面を、偶然通りかかったミアに見られてしまってね」


 「いえ、ルーカスさんのせいではないので……」


 「エアルちゃん、この服のポイントはですね――」


 終わりを見せないミアの暴走に、私は深くため息をつくのだった。


 今は何をしているのかというと、以前ルーカスに頼んでいた回復薬を持ち歩きしやすいようにした服ができたというので受け取りに来ていた。

 ところが、取りに行った先にはなぜかミアがいて、そのまま新服のお披露目会になってしまったわけだ。


 ちなみに、ミアの長い説明はどんなものかというと――。


 「白を基調とした下地で清潔感を出すことで、エアルちゃんの清楚なイメージを残しつつ、服の端に青のラインを入れることでアクセントにしました。そう、それはまるで可憐な少女が大人な女性に憧れて、たまにはちょっと背伸びしてオシャレなお洋服を着たいという乙女心を――」


 全く、余計なお世話である。

 ほとほと困り果てていた私が心を無にして待っていると、頭にちょこんと小さめの帽子が乗せられる。


 「えーっと、ミアさん? このワンピースのように下がスカート状になっていたり、帽子があったりすると動きづらいのですが」


 「いいですかエアルちゃん。女性たるもの、どんなときでもオシャレを欠かしてはならないのですよ?」


 「あ、はい。わかりました」


 言い返してまた長くなるのも困るので、私はミアの言う通りにすることに決めた。

 とはいえ、思い返せば前世では似たような服装で戦った経験が多いので、この体であっても戦闘に支障はないはずだ。





 その日の午後、私とミアは冒険者組合に向かっていた。

 今日はミアが簡易詠唱の練習を始めてからちょうど一週間が経ったこともあり、授業の成果を実戦で試してみたいとミアから要望があったのである。


 入り口を入ってすぐのところで、何かを囲うように人溜まりができているのを見てミアが首をかしげる。


 「あれは一体なんの集まりでしょうか? 私が以前来たときにはなかったのですけど」


 「ああ、あれは――」


 答えようとする私に、人混みの中にいた組合職員の一人が気づいて声をかけてきた。


 「おっ、ちょうどいいとこに来てくれた! エアルちゃん、そろそろ在庫が切れそうだから補充を頼む!!」


 「わかりました! はいはい、ちょっとどいてくださいねー」


 私が人混みに割って入っていくと、いち早く気づいた人たちが道を空けてくれる。

 遠巻きに見ている人たちの中には、複数で膝をついて拝んでくる人もいた。


 「エアルちゃんが来たぞ! おいお前ら、さっさと道空けろー!」


 「聖女様、いつも本当に助かっております! ありがとうございます!!」


 「ほ、本物だ! 噂通りの美少女じゃないかっ!」


 私が持ってきていた回復薬が入った袋を職員に渡して戻ってくると、なぜかミアが呆れたような視線を向けてきた。


 「エアルちゃん、なんの袋を持っているのかと思ったら、怪しい薬を売る商売でも始めたのですか?」


 「失礼なっ、あれは普通の回復薬ですよ! 少し前までは希望した人に手渡しで売っていたんですが、あまりにも人が増えてしまったためにギルドのほうから待ったがかかりましてね。ただ、非常に多くの冒険者からの要望と回復薬の普及により死亡率が下がっていたことから、正式にギルド内に売り場を設けることになったんです」


 「そうだったのですか。……なんとなくですが、この調子でいくと一大事業にでもなってしまいそうですわね」


 どこか遠い目をしてミアが呟いた。




 低級ではあるもののミアが冒険者の資格を有していることもあり、手頃なゴブリンの討伐依頼を受けてから北の大平原に来た。

 平原の奥には豊かな原生林が広がっており、そこには危険な魔物が多数生息しているらしく、付近に冒険者の姿は見当たらない。


 探知魔法を使うとゴブリンの反応があったため、二人でその方向へと向かう。


 「こちらのほうにゴブリンがいるのですか?」


 「ええ、そろそろミアさんにも見える距離になってきましたよ」


 「ほんとですわ。……それよりも、なんだか少し数が多いような気がしますけど」


 平原で周りに遮るものがないので、遠くにいるゴブリンの姿がポツポツと見えてきた。

 ざっと見たところ、十体以上はいるだろうか。


 そうして私たちが近づいていくとゴブリンもこちらに気がついたようで、雄たけびをあげながら駆け出してきた。


 「ミアさんは魔法の準備をお願いします。私は数を減らしておきましょう」


 「は、はい! では、いきますわ」


 隣で魔力制御に集中しているミアを横目に見た私は腰に吊るした短剣を抜くと、そのまま遠方から迫るゴブリン目がけて横に薙いだ。


 「ウィンドエッジ」


 すると切っ先の延長線上にあるゴブリンの首が一斉に宙を舞い、残るは右端にいるゴブリンの二体だけとなった。

 残った二体のゴブリンは先陣を切って先頭にいたためか、自分たちの後ろで起きた異変に気づく様子もなく走り続けている。

 そこに準備を終えたミアが魔法を打ち込む。


 「ダブルマジック・ファイアアロー」


 火の矢は二本とも見事にゴブリンたちの小さな額に命中し、二体を同時に倒すことに成功した。


 「やりましたねミアさん! 完璧な二重詠唱でした。これなら実戦でも十分に通用しますよ!」


 そう褒める私であるが、不思議とミアは難しい顔をしてこちらを見てくる。

 本人が納得できない仕上がりなのに、私が褒めてしまったからだろうか?


 そんな風に悩んでいると、ようやくミアが口を開いた。


 「なんですか今の魔法は……? やっとの思いで簡易詠唱を覚えて少し得意になっていた自分が恥ずかしくなるではありませんか?!」


 どうやら心配していたこととは違う理由のようだった。

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