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第15話 頭領を言いくるめました

 「マインドスキャン」


 私の手が触れている箇所が淡い光を発し、やがて薄れて消えていった。

 狭い部屋だったのでガヴィーノは入り口近くで待っていたのだが、光が収まったのを見て作業が終わったと判断したのか、近寄り覗き込んできた。

 ちなみに今私が魔法を使った相手は、パラライズミストで元から気を失っているだけなので、何か変化があるわけではない。


 「何をしたんだ?」


 「いえいえ、そんな大したことではありませんよ。この人がよくない隠しごとをしているらしいので、少し暴いてやろうかと思いまして」


 「そんなことまでできるのか……」


 呆気に取られた様子のガヴィーノに私はニヤリと笑みを見せる。


 「おや? いくら数が多いからって、手下の動きぐらいはちゃんと把握されてないと困りますよ、頭領さん」


 「おい、もしかしてまだ根に持ってるのか?!」


 「まあまあ、そんなことより付いて来てください」


 私が近くにあるベットをどかしてそこの床を強く蹴ると、床板が外れて更に下へ続く穴とはしごが現れた。

 はしごを下りると、いくつもの横穴を鉄格子で区切られた大きめの空間に出た。

 横穴の中に何人か人間がいることから察するに、どうやらこの隠し部屋は牢屋として使われているようだった。


 隣で言葉を失っているガヴィーノに、私は止めの台詞を言い放つ。


 「ほら、だから先程も言ったじゃありませんか。手下の統制がしっかり取れてないからこういうことになるんですよ」


 「……本当にすまん」


 よし、これで面目は保たれたな。

 そんな風に私が頭の中で勝利に浮かれていると、ガヴィーノが深刻そうな顔で聞いてきた。


 「だがこうなってくると、この拠点にいる手下全員にさっきのと同じ魔法を使わなきゃならないんじゃないのか? オレがエアル殿にそこまで頼めるような立場じゃないのは重々承知しているが、もしかしてやってくれるのか?」


 「心配ご無用ですよ。マインドサーチ。――はい、終わりました。あとは先程の元頭領さんとこれから私が指示する人たちを縛って、衛兵に引き渡せばめでたく解決ですね。あー、よかったよかった」


 私の言葉を聞いたガヴィーノは、唖然としたままその場で固まっている。

 しばらくしてようやく整理がついたのか、絞り出すような声で尋ねてきた。


 「……まさか、オレたちを、見逃すって言うのか」


 「見逃す、というよりは交換条件ですね。先程も言ったじゃないですか。簡単に言うと、あなたが私に手を貸すので、そのお返しに私があなたを助けてあげますよ、とまあそういうことです」


 ふふん、と得意げに鼻を鳴らす私に、しかしガヴィーノは首を横に振る。

 そして、真剣な表情でこちらを見返してきた。


 「そういうことじゃないんだ。どうしてエアル殿がそこまで自信を持っているのかは知らんが、オレにはエアル殿と協力できないわけがある。さっきも言ったがオレの国は魔物に滅ぼされて――」


 「あー、それはもう聞きましたよ。……いいですか? あなたは根本的なところを勘違いされているんです。私は善性の神族。魔族や魔物の宿敵にして、化け物と対極に位置する存在。――つまり、あなたと目的を同じくする同志なのです!」


 ビシッと決めた私がしたり顔を向けると、ガヴィーノはなぜか胡散臭いものでも見るかのような目でこちらを眺めていた。

 ……なぜだ、おかしい。


 そんな風に戸惑っている私に、何かを一人で納得したらしいガヴィーノが優しい声音で慰めてくる。


 「いや、充分に伝わったよ。エアル殿は化け物ではないんだな。しかしだな、人の趣味にとやかく言う筋合いはないが、せめて人前でそういうのは止めたほうが」


 「――っ! ええい、やかましい! かくなる上はこれを見よ!!」


 やけになった私は、自らのうちに封印していた神性を解き放ち、聖属性の魔力を開放する。

 すると、私の体が淡く輝き出し、周囲の地面からは無数の光の粒子がゆらゆらと上方へ舞い上がっていく幻想的な空間へと様変わりした。


 一方で、突然の出来事に慌てて周りをきょろきょろと見回していたガヴィーノは、やがて諦めたように両手を上げて私のほうに向き直った。


 「あー参った。降参だ、降参! 会う前から常識の範疇に収まらない存在だとは思ってたが、まさか本当に神様だったとはな」


 「くっ! 誤解を解いて私の主張の正しさを証明できたはずなのに……これでは締まらないではないですかっ!」


 「……その姿になっても、そこは変わらんのか?」




 納得してもらえたようなので、魔力を抑えて神性を封印し直す。

 コホン、と一度咳払いをした私は、背筋を伸ばしてガヴィーノを指差した。


 「とまあ、そういうわけなので、ガヴィーノさんは私の誘いを断る理由がなくなったということで構いませんよね?」


 「あ、ああ、その通りではあるんだが……。その、なんだ。どうしてエアル殿は、盗賊に堕ちたオレなんかにそこまで肩入れするんだ?」


 「え? ああなるほど、そこに引っかかりを覚えたんですね。まあ、そうですね。盗賊とはいえ、あなたは曲がりなりにも彼らをまとめ上げて組織的に管理していたことになります。そう考えれば、個人個人が暴走して被害が出るようなことを最小限に抑えていた、とも考えられないでしょうか?」


 「詭弁だな」


 「ええ、全くその通りです。言うなれば、『必要悪』というやつですよ。ほら、物語の神様だって間違ったことをしないわけではないですし、人が反省したら許すことだってあるでしょう? 要はそれと同じです。私はあなたが必要だと考え、あなたは自らの過ちを反省している。そして、善性の神族たる私があなたに正しい償いの道を提示し、あなたはそれに乗っかった。そのあとにまだ罪の意識を感じるのであれば、ご自身の意思でまた罪を償っていけばよろしい。それで問題ないのではないでしょうか?」


 「むぅ、エアル殿と話していると頭がこんがらがってくるな」


 「言いくるめようとしているのは否定しないでおきます」


 私が笑って答えると、ガヴィーノは額を押さえてため息をついた。


 「まあ、オレが捕まったことで今までの罪が消えるかと言えば、そういうわけでもないしな。わかった、エアル殿の案に乗るとしよう」


 「はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。ついでと言ってはなんですが、一つお聞きしてもよろしいですか?」


 「ああ、なんだ?」


 「私と対峙したときに見知ったような圧を感じたりはしませんでしたか? あなたの国にあるかは知りませんが、教会に行ったときとかに感じる、こう厳かというか神聖な雰囲気といいますか」


 「いや、エアル殿に限ってそれはない」


 「むっ!? それはまた失礼では――」


 「と、言いたいところだが、エアル殿が言いたいのはそういうことではないんだろう?」


 私がうなずくと、ガヴィーノは衝撃の事実を口にした。


 「エアル殿の予想通り、あれだけ規格外の魔法を使っていたエアル殿の正体をオレが最初に信じられなかったのにはちゃんとした理由がある。オレの祖国……いや、この世界でほとんどの人間が信じる伝承ではこう伝えられてきた。『我々は神々の庇護から離れ、代わりに自由を得た』と、そして王族や一部の人間のみが知る書物には史実としてこう綴られている。『最後の神は魔王との戦いの果てに、ともに滅び去った』とな」

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