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第14話 頭領は負けを認めました

 「……ああ、オレの負けだ」


 「賢明な判断です」


 尻もちをついたガヴィーノが無抵抗を示すために両手を上げる。

 喉元に突きつけていた切っ先を引いた私は、ガヴィーノから離れるとその辺に剣を放り捨てた。


 「まさかないとは思いますが、不意を突こうなどとは思われないことですね。私は構いませんが、あなた方の身の安全は保障しかねますので」


 「わぁてるよ。……こんだけ完璧に打ち負かされたんだ。今更オメェに逆らおうなんざ、考える気もしねぇ」


 「――くっ、ふふふ」


 「な、なんだ?」


 突然笑い始めた私に、ガヴィーノが戸惑いと恐怖の入り混じった声をあげる。

 だが、それも仕方ないだろう。

 こんなにおかしなことはそうそうないのだから。


 「ふふ。ガヴィーノさんはいつまで、その下手っぴなエセ盗賊言葉を使うつもりですか?」


 「……なんの話だ?」


 「だって、ガヴィーノさんたちは騎士崩れの盗賊なのでしょう?」


 私がそう口にした途端、ガヴィーノがもの凄い殺気を飛ばしてきた。

 それを受けて、私はまた漏れそうになった笑いを必死に堪える。


 「……いつ、気づいた?」


 「今更そんな怖い顔をしても無駄ですよ。先程私に三人がかりでボコボコされたばかりの人間が、一体何をするっていうんです?」


 「くそっ!」


 悔しそうに吐き捨てるガヴィーノを横目に、私はそばで倒れている盗賊のほうへ歩いていく。


 「まあそうですね、言わないというのもかわいそうなので説明しておきましょうか。一つにはあなたの話し方に若干の無理が感じられた点。そしてもう一つが――」


 盗賊が持っていた剣を拾い、ガヴィーノに見せつける。


 「見てください。剣士なら誰でもわかると思いますが、長年使われた形跡があるにもかかわらず刃こぼれが全くないんです。この状態をまともな剣術や手入れの技術を持たない者が維持するなどあり得るでしょうか? まあ、盗賊なのですから仮に奪ったばかりだと考えられなくもないですが、最近拾ったにしては妙に使い慣れた感じでした。……変だと思いません?」


 驚いた表情を浮かべるガヴィーノに、私は確信を得るのに必要となった要素をいくつか挙げていく。


 「ほかにもいろいろありますよ。その防具に使っている繋ぎの部分は、お三方とも同じ製法で作られたものですね? 各地からさまざまなものが集まるこの街でも見かけたことのない珍しい品ではありますが、形状や材料から見るに量産品だと窺えます。あと、お三方の動きや気配の消し方は非常に洗練されたものでした。我流はおろかその辺の冒険者程度で身につけられるものではないでしょう。ただ私が確信するに至った一番の理由は――」


 そこで立ち止まった私は、ガヴィーノをまっすぐに見つめる。


 「騎士たるに相応しい、剣士を語るあなたの気迫にです。見事なものでしたよ。それにあなたの剣は今も死んでいません、私が保障しましょう」


 それからしばらくあった沈黙の間、ガヴィーノが何を思っていたのかは私には知る由もない。

 ただ、そのあとに一言「そうか」と呟いた彼の表情は、憑き物が落ちたかのような晴れやかなものだった。





 「それで、これからどうするつもりだ? 部下たちを起こして、あいつら全員引きずっていくか?」


 「それには及びません。あなたが来る前にこのアジトで頭領だった人はいますか? もしここにいるのなら案内してもらいたいのですが」


 「ああ、それならこっちだ」


 私はガヴィーノのあとに付いて部屋から出る。


 「ところで、ガヴィーノさんはどうして盗賊をすることになったのですか?」


 「ん? そうだな、いろいろあったが簡潔に言うと祖国を魔物に滅ぼされたんだ。それで、この国に流れ着いてからは、奴らに復讐するための戦力を集めていた」


 「――やはりそうでしたか。いえ、私なりに推測を立てていたもので……。ふむ、でしたらどうでしょう? 私と組んでみる気はありませんか?」


 我ながら妙案を思いついたものだと、歩いているガヴィーノの正面へ自信満々に躍り出る私であったが、意外なことに当の本人は浮かない表情をしていた。

 ガヴィーノは私の姿を見て深くため息をつく。


 「エアル殿と、か? あいにくだが、オレは化け物と組む気はなくてな」


 「――っ! 言うに事欠いて『化け物』とはなんですか?! 化け物とはっ?! 出会った当初から思ってましたが、失礼じゃありませんか?!」


 「お、おう。すまん、気にしてたのか……」


 怒りをあらわにする私に、気まずそうに謝ってくるガヴィーノ。


 とはいえ、そう簡単に許すつもりはない。

 彼が何を勘違いしているのかは知らないが、化け物とは悪の性質を持つ魔物や魔族を指す言葉だ。

 一方で私は化け物とは対極にある善性の神族なのだ。

 甚だ心外である。


 「はあ、気にするに決まってるじゃないですか」




 そうこうしているうちに、目的地に着いたので話はいったん中断だ。

 私はパラライズミストの効果で倒れている人物の横にしゃがむと、その頭部に手で触れた。

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