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第13話 抗う意志(side:ガヴィーノ)

 side:ガヴィーノ



 かつて王国に仕え、とある魔族の策略によって国とともに魔物の波に呑まれた一人の忠実な騎士がいた。

 圧倒的な数と力を誇る恐るべき魔物の軍勢を前にして、人の軍隊はあまりにも無力だった。

 ガヴィーノ・ラウロという騎士の人生は、そうしてあっけなく幕を下ろした。


 だが、オレは生きていた。

 生き残ってしまった。


 生き残ったのはオレのほかに五人だけだった。

 オレは彼らとともに当てもなく旅をした。

 魔物の脅威に怯え、安泰な地を求めて彷徨い続けた。




 いくつもの砂漠を越え、荒れ狂う海を渡り、仲間の屍を越えてようやく辿り着いた土地は、人と人とが争う醜い世界だった。

 そうしてオレたちは平和な世の闇に身を落としたのだ。


 生き残るためならなんでもした。

 金を奪い、人を殺し、ときには依頼人にさえ刃を向けてきた。




 ――そんなオレたちにも二つ、犯してはならないルールがある。


 一つは命を弄ばないこと。

 あくまでオレたちが他者の命を奪うのは最低限であり、要はオレたちが生きるのに必要な場合だけに限るというものだ。

 もう一つは魔物を商売にする輩を利用しない。

 そして見つけ次第、皆殺しにするのだ。


 オレたちは魔族の奴らも、同じように魔物を悪用する奴らも絶対に許しはしない。

 いずれ報いを受けさせる。

 そんな強い復讐心で勢力を広げてきた。


 いくつもの盗賊団を潰し、取り込みながら急速に力をつけていった。

 口調や振る舞いもそれらしいものに変え、逆らう奴らは力で押さえつけた。

 騎士として剣技は封印して、あくまで盗賊として刃を振るい、威光を示し続けた。




 そして、いつしか『血濡れのガヴィーノ』として悪名を馳せるようにもなっていた。


 もう後戻りはできない。

 ――だが、もう少しだ。

 あと少しで復讐に手が届くほどの強大な勢力を築くことができる!!




 そう、それまでは順調だった。

 すべては順調に進んでいたはずだったんだ。


 だが、ガザムスという商業都市の近くに拠点を移しておよそ半月が過ぎようかというころ、その化け物が姿を現した。


 その化け物は、オレが復讐のためにかき集めた屈強な兵士をたった一つの魔法で全滅して見せた。

 そのときオレは悟った。


 こいつには絶対に勝てない。

 人が手を出せる領域の存在じゃないと。




 部屋で待っていると、その化け物は姿を見せた。

 意外にも幼い少女の外見をしていたが、こいつの正体が人と隔絶した化け物であることをオレは知っている。

 二人の部下に手を出さないように指示しながら、オレは自分でも驚くほど冷静に盗賊の頭領として振舞いながら声をかけた。


 「よお、ずいぶん好き勝手してくれたじゃあねぇかぁ」


 「あなたが頭領のガヴィーノさんですか?」


 化け物はオレが話しかけるとそう応じた。

 どうやら、言葉が通じるようなのでひとまず会話を続けようとすると、思いもよらないことを口にしてきた。


 「いえ、最近あなた方が暴れ過ぎのようなので懲らしめにきました。もし投降してくれるなら、命まで取るつもりはないので、一緒に来ていただけませんか?」


 なんと、殺しにきたでも奪いにきたでもなく、懲らしめにきたと言うのだ。

 さらに、この化け物はやろうと思えば、オレや仲間を殺すことも、命令することも自由にできるはずなのに、投降しないかと提案をしてきたのだ。

 これにはさすがのオレも呆気に取られて、思わず笑いがこぼれてしまった。


 こうして話していると、かつての人間らしさを思い出すかのように感じる。

 最近はほかの盗賊たちには恐れられ、同郷の部下とも必要のない会話はしていない気がする。


 だが、それも一時の気の迷いに過ぎない。

 オレが迷いを吹っ切るようにもう一度殺気を飛ばすも、目の前の化け物はのほほんとした顔でこちらを見てくるだけだった。

 当然だ。この化け物はオレを脅威ともなんとも思っていないのだから。


 その事実を改めて認識したとき、オレの胸の中に燃え滾るような懐かしい想いが込み上げてくるのを感じた。


 ――この化け物を見返してやりたい。

 手痛い一発をかまして、その余裕をこいた顔に一泡吹かせてやりたい。

 騎士ガヴィーノ・ラウロは、ここに健在であると知らしめようじゃないかと。


 その衝動を止めることはできなかった。

 どうせ、これまで築き上げてきたすべてを壊されてしまうのなら、いっそ今ここでこの化け物にすべてをぶつけて挑み、その末に果ててしまってもいいのではないかと。


 気がかりなのは巻き込んでしまう部下たちのことだったが、そんな心配は無用のようだ。

 なぜなら、部下たちの瞳にも強い闘志が宿っていたからだ。


 よし、ならオレたちで人間の力というものを見せつけて、このナメくさった態度の化け物の鼻を明かしてやろうじゃないかっ!


 覚悟を決めたオレたちは、目の前で呑気に佇む化け物へと無謀な戦いを挑むのだった。

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