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第11話 盗賊の拠点を発見しました

 「き、君は一体……?」


 「初めまして。私はエアル、ガザムスの領主様のもとでお世話になっているしがない冒険者です。どうぞお見知りおきを」


 私がスカートの裾を摘んで軽く頭を下げると、青年は戸惑いながらもお辞儀を返してくれた。


 「あ、はい。ご丁寧にどうも。……って、いやいやそうじゃない! あの君、何か薬か包帯でもいいから持ってないかな?」


 「おや、その人たちはあなたや自分の命よりも商品のほうが大事だと思っているような人間なのに、お助けになるのですか?」


 ちらっと視線を落とすと、倒れている商人たちが苦しそうに呻きを漏らしているのが見える。

 すると、商人の治療を始めた青年が私に向かって怒鳴りつけてきた。


 「僕はどんな人間であっても、人の命は比べられるようなものじゃないと思うよ! それを君が言う権利なんてないし、そうやって比べている時点で君も人を自分の価値だけで判断して見下しているんじゃないのかな?」


 「――ぷっ、ふふ」


 真剣な表情で語る青年に、私は思わず吹き出してしまった。


 「な、何がおかしいんだ!?」


 「これは失礼。いえいえ、あなたは何も間違っていませんよ。若いのにご立派で珍しいな、と感心していたもので」


 そう言いつつ、ポケットから取り出した布の包みを青年に向けて投げる。

 受け取った青年は不思議そうに包みを開いた。


 「……これは?」


 「それは回復薬ですよ。液体のほうは直接傷にかけて、目が覚めたら丸薬を飲ませてあげてください」


 「あ、ありがとう。……でも、どうして急に?」


 「なに、少々お灸を据えてやろうかと思いまして。今回のようなことがきっかけであなたのような人間を失いたくはありませんから」


 笑いかけると、青年はなぜか顔を赤らめながら改めてお礼を伝えてきた。

 私が、まずは自分自身とケガ人の治療をするように促すと、うなずいて回復薬をかけに回っていった。


 「さて、そろそろ頃合いですかね。ディテクション」


 探知の魔法を使うと、散り散りに動いていた複数の反応が一か所に集まっていくのが見える。


 「イアンさん、私は少し用事ができたのでここを離れます。街に戻ったら、衛兵に伝言を頼んでください。領主家の方へ『エアルという冒険者が厄介事を始末したので南門前に応援を寄こしてほしい』と言えばわかるはずです」


 青年もといイアンにそう伝えると、彼は驚いたように目を丸くした。


 「……君は、本当に何者なんだ?」


 「ただのしがない冒険者ですよ。では、あとはお任せしますね」





 盗賊たちが逃げ帰った場所に向かうと、そこは周囲を深い木々に囲まれた洞窟になっていた。

 洞窟の入り口の脇には二人、屈強な見張りが立っている。


 私は入り口付近にほかに人の気配がないのを確認してから、武器を何も持っていない丸腰の状態で見張りの男たちへと近づいていく。


 「おい! 小娘、そこで止まれ!!」


 「ひっ! あ……あの、道に迷ってしまって」


 「道に、迷っただとぉ?」


 私がおどおどしながら声をかけると、見張りの男の一人が首を傾げた。

 すると、奥の男が手前の男に近づいてコソコソと何かを話し始める。


 「どうするよ、このまま追っ払うか?」


 「てめぇはバカか? アジトの近くで姿を見られた以上、生きて返すわけにはいかねぇだろうが」


 「んだと?!」


 どうやら頭の悪い会話を始めて言い争いになってしまったようだ。

 仕方がないので、私のほうから話を進めることにする。


 「その、足が痺れてしまって……もう限界なんです。どこかに座らせてもらってもいいですか?」


 「ちっ、しゃーねーな。今行くからそこで待ってろ」


 演技がうまくいったようだ。

 やはり、相手が小さな体だと警戒心も薄れるのだろう。


 「とりあえず連れてくる。あそこでわめかれても困るし、縛って中に入れときゃいいだろ」


 「おう。よく見りゃ割と可愛い顔してるし、オレがもらうぜ」


 「ったく、勝手にしろ!」


  男たちはひとことふたこと言葉を交わすと、近いほうの一人が周囲を警戒しながら、プルプルと足を震わせている私へと近づいてくる。


 「さあ、おチビさん、案内するから手を出してくれるかな?」


 「仮にも女性に向かって、それはないでしょうがっ!」


 「ブッ!?」


 私はすぐ近くで立ち止まった男の顎に蹴りを食らわせると、すれ違いざまに男の腰から剣を拝借しつつもう一人の男に向けて走り出した。

 入口を護るように陣取ったもう一人の男も剣を抜くと、まっすぐ迫る私へ向けて横薙ぎに振りかかってくる。

 当然、子どもの私より男のほうが間合いは広いが、それはお互いに剣士として対峙したときの話で、私は真っ当に打ち合うつもりはない。


 私は男の剣が当たる寸前で立ち止まり、切っ先が目の前を通り過ぎるのと同時に無詠唱でアイスアローを放つ。

 氷の矢が顔面に直撃した男は大きく仰け反り、そのまま後ろにひっくり返った。


 「まあ、こんなところでしょう。では早速始めるとしますか」

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