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第10話 盗賊を撃退しました

 街から南西方面に伸びる街道をしばらく歩いていき、途中で南の森へと続く草原に出ると、額に一本角を生やしたやや大きめのうさぎが茂みから飛び出してきた。

 あれはホーンラビットと呼ばれる魔物で、初心者向けの常設依頼として掲示板に貼られているを見かけたことがある。


 「ブーッ!」


 「ファイアアロー」


 「ブッ! キュー……」


 弱めに放った火の矢が当たると同時に、ひっくり返って痙攣する半焼けのうさぎ。

 よ、弱い……。弱過ぎる。


 私が呆れてその様子を眺めていると、周りの草むらから数匹のホーンラビットが顔を出してきた。

 どうやら仲間の悲鳴に気がついて助けに来たようだ。


 「その意気やよし。ならば私もそれに応えようではないか!」


 「「ブブー!!」」


 私がクイッと手招きすると、ホーンラビットたちが一斉に襲いかかってきた。




 それから私はホーンラビットたちと激しい戦闘を繰り広げていた。


 この身体での戦いに慣れるために、魔力を使わずに打撃戦を狙う私に対して、ホーンラビットたちは額の角を駆使した突進を仕掛けてくる。


 「ふっ」


 鋭利な角の一撃を危なげなく躱す私であるが、今回はこのホーンラビットという魔物が意外にも油断ならない相手だと思い知らされた。


 そもそもホーンラビット単体の戦闘能力は低く、突出したものもない。だというにもかかわらず、未だに私は攻めへと転じられていない。

 これは、戦闘能力が低いという個の弱点を、連携という集団の利点により補っているからである。

 そしてもう一つが、ホーンラビット自体の学習能力の高さだ。

 突進という単純な攻撃手段しか持たないため、知能が低い魔物と思われがちなのだが、実際のところはそれとは真逆であった。

 単純な行動しか取れないがゆえに、相手の動きを捉える観察眼に優れ、その上で地形を利用してこちらの動きを制限してくるのだ。

 とはいえ、個々の力があまりにも弱いために、ほかの冒険者には力任せに押し切られてしまうのだろう。


 「この戦いは私にとっていい教訓になった。そして、君たちが厳しい生存競争を生き抜くために磨き上げてきたその力は称賛に値するものだ。だが――」


 私は飛び込んできたホーンラビットの首筋に手刀を打ち込む。


 「私も負けてやるわけにはいかないのでね。せめて本気でお相手をしよう」


 そう宣言をして、私は魔力を開放する。

 溢れ出た魔力により、突風が吹き荒れて足元の草が靡く。

 そして、一陣の風が過ぎ去ると、周囲を取り囲むホーンラビットたちがバタバタと倒れ伏していった。




 「ディテクション」


 気絶したうさぎをそのままにして探知の呪文を唱えた私は、街道の近くで横倒しになった馬車とそこへ迫る複数の殺気を捉えた。


 「予想通り馬車を狙ったようですね。ようやく私の出番です」


 意識を少女のものへと切り替えると、歩きながら後ろ目に視線を送る。


 「……次に会うことがあれば、そのときには容赦をしませんので」


 そう言い残し、私は反応のあった街道へと駆け出していった。





 「ケケッ。さあ、観念するんだなァ」


 血に濡れた曲刀を持った男たちが、じりじりと馬車との距離を詰めていく。

 その前に立ちはだかるのは片腕にケガを負った青年だ。


 「くっ、早く逃げてください! ここは僕が食い止めます」


 「で、ですが、ここにはわしらの大事な荷物が――」


 「ハッ、逃がすかよォ!!」


 小太りの商人の背中を、後方に回り込んでいた男の一人が切り裂いた。

 それを引き金に、ほかの商人たちにも男たちの刃が無慈悲に振るわれていく。


 「ぐあああっ!」


 「く、来るなぁああ!!」


 「た、助け――」


 歯噛みする青年に向けてニヤニヤと下卑た笑みを浮かべるのは、襲っている男たちの中でも一際大きな体躯の男だ。


 「いい根性してんじゃねえか。どうだ、オレたちの仲間になる気はないか?」


 「誰がお前たちなんかの仲間になるか!」


 「じゃあ、死ね」


 大男が天高く振り上げた幅広の両刃剣が、青年の頭上に打ち下ろされようかとした瞬間、硬質な音を立てて刃が大きく弾かれる。

 剣を構え直した大男がにらみつけるのは、近くの下っ端から奪った曲刀を片手に持つ私である。


 「てめえ、なにもんだ!?」


 「それをあなたに答えて意味はありますか?」


 「あ、危ない!」


 青年が叫ぶのとほぼ同時に、素早く踏み込んだ大男が再び剣を振りかぶる。

 だが、それは下策だ。

 どうやって剣を弾かれたのかわからなかった時点で、外見が弱そうな相手でも自分より速く動ける可能性を考慮すべきだったのだ。

 私は大男の剣を半身になって躱しつつ、すれ違いざまに曲刀を振るった。


 「……がはっ」


 大男があっさりと倒される様子を唖然と眺めている青年に、私は優しくほほ笑みかけた。


 「間に合ってよかったです。助けにきましたよ」


 そう言って振り向くと、周りで固まっている男たちへ視線を向ける。


 「さて、次はどなたがお相手をしてくれるのでしょうか?」


 私の言葉を聞くなり、男たちは隣の仲間を押しやりながら蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 どうやら、盗賊よりもホーンラビットたちのほうが、仲間思いで度胸もあるようだ。

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