第1話 戦いに駆り出されたら、死んでしまいました
「ホーリーレイッ!」
遥か上空より放たれた一条の光が、地上より押し寄せる黒き軍勢を瞬く間に焼き払う。
天界を守護する神族の戦士として選ばれた私は、仲間の天使を率いて天界に攻め入ろうとする悪鬼の軍勢を追い払っていた。
眼下を埋め尽くすのは、禍々しい姿をした黒き化け物どもだ。
私は疲弊した兵士を鼓舞するため、神の加護を宿した光り輝く聖剣を高らかに掲げた。
「魔王軍なぞ何するものぞ! 所詮は烏合の衆、我ら神兵の敵ではない!!」
言うや否や、素早く剣を振るうとそこに無数の魔法陣が浮かび上がる。
「ブリリアント・ホーリーレインッ!!」
魔法陣から打ち出されるは、千を超える光の柱。
巨大な光に呑まれた悪鬼は悲鳴をあげることすらできずに跡形もなく消え去り、そこに道が開かれた。
「行くぞ。私に続けぇ!」
私は配下の天使とともに、魔王軍の中枢めがけて駆け抜けていった。
◇
戦いは熾烈を極めた。
一進一退の攻防が続き、一人また一人と配下の仲間が倒れていく。
五日間にも及ぶ激闘の末、私の部隊では側近の天使と私だけがなんとか生き残っていた。
一時撤退を試みる私たちであったが、疲弊した私たちだけではどうにもならない相手が目の前に立ち塞がっていた。
「アブソリュート・ゼロ」
青白い冷気が辺りを包み込み、世界が凍っていく。
異変に気付いて、一瞬早く飛び退いた私の前で側近の天使が氷像と化した。
「エリアル様。お逃げく、だ――」
今際の言葉が最後まで私に届くことはない。
彼は優秀な側近だった。
戦場をともに戦い、政治などに疎い私を助け、最後の最期まで私を想い散っていった戦友だ。何者にも代え難い大切な親友だ。
そんな彼を失って、私はとても冷静ではいられなかった。
「おのれぇ!」
一閃。
視界に映る赤い飛沫とともに、私の身体がぐらりと傾いた。
地に伏した私を見下ろすのは、血に濡れた赤い魔剣を片手に持ち、漆黒の甲冑を身に着けた一人の魔人だった。
「お前は一体……」
「死にゆく貴様に告げる名などない」
「ま、待て!」
血振りして立ち去る魔人の背中をにらみつけて、私はこぶしを握りしめた。
「くそっ! くそっ、くそっ、くそぉっ!」
刻一刻と戦況が変化する戦場で、たった一人の敵にかけている時間などない。
そんなこと理屈としてはわかっている。だが、言いようのない悔しさが込み上げてくる。
『――エリアル様はお優しいですから』
それは昔、感情に流されて失敗を犯してしまった私に彼が言った言葉だ。
ほほ笑む彼の顔が、言葉が脳裏に思い浮かぶ。
そうじゃない、私は弱いんだ。
だからまた、同じ過ちを――。
薄れゆく意識の中、私は誓った。
もし、もしも次があるならば、今度こそ――。