第九話「暗躍」
加泰帝国に限った事ではないが王や皇帝の親族と言うのは年月を重ねるごとに増加する。それこそ何か理由でもない限り半世紀で倍に膨れ上がる事だってあるだろう。それゆえに親族による裏切りや謀反は皇帝やその継承者にとって気を付けなければならない事だ。相手は自分たちと同じ血を持つのなら血筋による継承は有効と判断されかねないからだ。
真律蓮怒もその例にもれず常に一族の謀反に怯えていた。自分の息子ですら信用する事は出来ず、常に何かに怯えるように日々を過ごしていた。
「それは誠か?」
「ハッ! 間違いございません」
部下からの報告を聞いた蓮怒は目を閉じて思案する。一族を信用できない蓮怒だが一族ではない部下には一定の信頼を寄せている者が居り目の前の男もその一人であった。それゆえに彼からもたらされた情報は無視することが出来なかった。
“真律霊石による貧民街の子供の登用”
これだけを見れば別に何の問題はない。貧民街の人間を登用したというのは歴史的に見てあり得ない話ではないしそこから這い上がって来た者もいる。目の前の部下からの報告で中れば蓮怒も特に気にする事は無かっただろう。相手は10歳程度の子供という事もあったかもしれない。
「この歳で貧民街の人間を登用するという事自体が異常です。加えて、子供が共を一人だけ連れている時点で何か別の目的があった可能性もあります。真律風苑様は優秀であり血統的にも加泰帝国建国者である祖帝の末子の一族と問題はありません。最悪の場合皇帝の座を狙っていると言われても可笑しくはありません」
「確かにそうだ」
蓮怒は部下の言葉に同意する。真律風苑は官僚として優秀であり一族を問わずに親しい存在が多く何かと対立しがちな武官にも顔が利く。彼がその気になれば官僚と武官たちは一斉に彼の下に集うだろう。それが簡単に想像が出来た蓮怒は背筋を凍らせる。
「ならばすぐにでも奴を処罰せねば……」
「陛下、それは悪手です。今のところは貧民街の人間を登用しただけです。残念ですがこれで彼の一族を処罰すれば陛下への信頼は地に堕ちそれこそ無用な謀反を誘発する事になるでしょう」
「……ならばどうするのだ? ただの監視をするだけではいざという時に間に合うまい」
「次に何か主だった行動を起こした場合、真律霊石殿を謁見させるのです。そしてその心の内を見て決めましょう」
「成程の」
蓮怒は疑心暗鬼故に人の心を読みやすかった。例え表面上はこちらに従うと言っていても裏切ろうと考えているかは簡単に把握出来た。そして相手が子供である以上感情のコントロールは苦手だろうと予測し部下の言葉に納得した。
「ならばこれより真律霊石を監視せよ。そして次に何か行動を起こした時、有無を言わさずに連れて来い。そして余が自らその心を確認してくれよう」
「了解しました。直ぐに手配を行います」
蓮怒の言葉に部下は恭しく頭を下げると部屋を出ていった。そのまま自分の部屋に入った彼は大量に詰まれた書簡の隙間に見えないように入れられた丸められた紙を取り出すと筆を執り何かを書き始めた。
数分程で書き終えた彼は先ほどのまでの忠臣を思わせる厳格な顔に大きく弧を描いた口を見せ笑いながらつぶやいた。
「愚かな皇帝に貧民如きを登用する馬鹿な親族の餓鬼。我が主がこの土地を征服する時は意外と早いかもしれないな」
その呟きに答えるように外からの風が軽く扉を揺らした。