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第八話「出会い・弐」

「霊石様! 一体どちらに行っていたのですか!?」

「ビューゲ様も! 何故ご一緒に……!」


 家に戻ると案の定というか色んな人が駆け寄ってきた。本来ならここでビューゲに押し付ける予定だったが状況は変わった。そんな事をしている暇はない。


「どけ。邪魔だ」


 俺はそれだけ言って道をこじ開ける。そんな俺の後ろを、子供を背負ったビューゲがついてくる。ビューゲが背負っている子供に気付いた者もいたようだがそれ以上に俺の勢いに押されたのか誰もそれ以上は何も言わなかった。

 すぐに屋敷勤めの医者を呼び子供の治療をさせる。その間に替えの服や体を洗う準備をさせる。この時代に風呂なんてものはない。お湯や水が入った桶を用意してそれを流してもらいながら体や髪を洗う程度だ。中には布を濡らしてそれで拭く事もある。


「霊石」


 俺が色々と準備をさせていると母がやってきた。その顔には怒りが出ているがそれとは別に困惑した様子を見せている。俺は母の前に立ちたちむかうように目を向ける。


「……貴方は何をしたのか分かっていますか?」

「街に出た事は謝罪します。反省もしています」

「では貴方が連れて来た子は? 話によると貧民街の子供らしいですね?」

「側近にしたいと思い連れてきました」

「貧民街の子供を、ですか?」

「あの子供だからこそです」


 俺は毅然と母に話す。母は何処か納得のいっていない表情をしており俺が子供を連れて来た事にいい顔をしてない事は明白だった。だからと言って諦める気は無い。本当に生涯二度と訪れないだろうと思わせる出会いだったと思っているからだ。だからこそ、母が、父が、ジィが、誰が何と言おうと側近にするつもりだ。

 そんな俺の気持ちが伝わったのか、母はため息をつくとこの屋敷の長の妻という立場に相応しい姿を見せた。


「ならば私は止めません。ですが本人の意思を確認しましょう。そして悪人でないかの確認も必要です。貴方が何と言おうと悪人だった場合は、分かっていますね?」

「勿論です。我儘を通すのです。多少の条件は仕方ありません」


 妥協するところは妥協し、臨機応変に対応する。それが相手に意志を通してもらえやすい。俺が彼を側近にしたいという意志を通すのにこの程度の条件ならば軽いものだ。

 母の同意を得られた事で更に迅速に指示を出していく。医者の診断は終わり打撲痕こそあれど命に別状はなく栄養が足りてない故の疲弊だと分かった。取り敢えず子供に食事を出す。しかし、いきなり色々と食べさせると死んでしまうという事を前世で知っていたから少しずつ食べさせる。

 食事を摂らせた後は体の汚れを取ってもらう。その際に服は処分する。大分汚く汚れを落とす事は難しいらしいと言われたからだ。代わりに俺の服を着させる。正直服はそれなりにあるが着ていない服が何着か存在する。服は動きやすい物以外は好きではないからな。


「霊石様、お連れしました」

「分かった」


 やる事を終えれば後は待つだけ。暇になった俺は自室にて本を読む。謹慎も兼ねた行いだが基本的に屋敷から出ない俺にはあまり意味がないと思う。そんな事を思っていると漸く終わったようで俺の服を着た子供が現れた。


「……」

「ほう? 随分と見違えたな」


 子供は俺より小さい、おそらく6歳前後だ。性別は分からない。髪は長く女性とも、男性とも取れるかなりの美形の容姿をしている。そんな子供は俺の服が着慣れないのか少しもじもじとしつつ俺の方を見てくる。


「お前、名はあるのか?」

「……」


 俺の問いに子供は首を横に振ってNoと示してくる。流石にこれは予想できたことだ。貧民街にいる、それも明らかにそこでも最底辺にいそうな子供だ。名があるとは思えない。こう言った者は“おい”や“お前”で事足りてしまうからな。


「ならばなんと呼べばいいか……。いや、それは後で考えよう。それにしても先ほどから黙っているが喋れないのか?」

「……し、しゃべ、れ、ます」


 たどたどしく発せられる言葉。変声期前故の高音に入る声。きっと声優や歌手をすれば人気が出そうな落ち着く声だ。喋り方のせいで台無しになっているがな。


「私は真律霊石。一応加泰帝国の皇族だ」

「……はい」

「俺はお前を見て側近にしたいと思った訳だがいくつか条件を付けられてな。悪いがいくつか質問をさせてもらおうぞ」


 俺の言葉に困惑しつつコクンと頷く。話すよりも動作で示した方が楽なのか。普段から声を発するという事をしなかった、出来なかったのかもしれないな。だが、今まではそれでよかったかもしれないが俺の側近になれば確実に困る。こういった所の修正も必要だな。


「親はいるか?」

「……」


 左右に首を振りいないと示す。次だな。


「俺の側近になる事に同意するか? 急な話で悪いがな」

「……」


 子供は迷った末にコクンと頷く。ぶっちゃけ下剋上を拒む理由なんてないからな。怪しい勧誘と捉えられてしまえば別だが。


「何か法を犯すような事はしたか?」

「……?」


 今度は首を傾げる動作をする。法を知らないが故の反応だな。ぶっちゃけこれは仕方ないか。逆にこれを知っていたら驚きだ。


「人を殺したことはあるか?」

「……!」


 今度は首をぶんぶんと左右に振る。勢いが強い事から物凄く拒否しているのが分かる。そう言った事に手を染めた事は無い。本人が言うには、という言葉が前についてしまうがな。

 まぁ、いいさ。どうせこのままでは分からないんだ。彼を傍に置きつつ監視を行い何もなければそのまま採用し、悪さを企てる様なら追い出すなり処罰するなりするしかない。母との約束がある以上悪人を屋敷に置いておくわけにはいかないからな。


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