第五話「友」
「霊石よ。お前に紹介したい人物がいる」
その日、俺は父である真律風苑に呼び出された。父は本当に俺と血がつながっているのかと言いたいほどこわもての面をしている。俺は母に似たようで美人、というか凛々しい女傑と言われても可笑しくない容姿をしている。別に俺は自分の顔に興味はないので気にはしないがよく侍女に可愛がられているのでラッキーとは思っているがな。
「紹介したい人物ですか……。まさかとは思いますが許嫁ではありませんよね?」
「そんな訳あるか。はぁ、頭がいいとは聞いていたがここまでとはな」
確かに10歳の子供が言う言葉ではなかったな。今更だけど。しかし、許嫁ではないのなら一体誰だと言うんだ?今更紹介するって事はこの国の人間じゃないとか? 若しくは今まで国外にいたけど最近戻ってきた人物とかかな?
「入れ」
「……」
父の言葉に従い部屋に入って来たのは俺より少し年上と思われる男だった。歳はおそらく15歳くらい。少年から青年に代わる時期くらいで幼さを残しつつ大人の顔つきになっている。
「彼は戒衡可汗国の王子ビューゲだ。戒衡可汗国との友好関係が築けてな。彼は我が国に留学してきたのだ」
「……そうですか」
父は留学と言っているが確実に人質だろう。多分こちらからも皇族の誰かを送っているんだろうなぁ。その場合、俺が送られていた可能性だってあるけど。しっかし、そんな重要な人物を紹介させるという事はこの家に住むのか? 確かにうちは広いし父と母と俺しか皇族はいないけどさ、だからと言ってそんな事はないよね?
「どうやら察しているようだな。彼は今日から我が家で共に暮らす事になった」
「……随分と急ですね」
「元々引き受けると言っていた奴らが急に拒否してな。他の者達も同じ意見で私が引き受けるしかなかったわけだ」
「それはそれは」
要は厄介事を押し付けられた、って事か。しかし、一体何をそんなに嫌がったのだ? 見た感じ忌避するような事はなさそうだが……。
「彼はその、少し病を患っていてな。感染を恐れたという訳だ」
「それは移るようなものなのですか?」
「そう言う訳ではないが……」
「ならば何故恐れるのですか?」
「誰だって厄介事は嫌だという事ですよ」
俺の追及に答えたのはビューゲ本人だった。彼は何処か諦めたような表情で話を続ける。
「私の病は完治に向かっていますが薬が必要です。塗り薬でして激臭を放つのですよ」
「成程、確かにそれは避けそうな理由ですね」
「加えてその薬は触れるとかゆみを起しますから」
成程、ただでさえ初めて友好関係を築けた国の王族と言うだけでも厄介なのにこういった事情が含まれれば忌避感を持つのもうなずけるな。だからと言って納得は出来るかと言われれば否としか言いようがないが。
「分かりました。これからよろしくお願いします」
「……いいのですか? 私としては拒否されても可笑しくないと思っていましたが」
「その程度の事で追い出す理由にはなりませんよ」
「……貴方は優しい方ですね」
何やら高評価をいただけたが俺としては思った事を伝えただけだからな。そう思っていると父が安堵したような口調で話しかけてきた。
「霊石よ。この国にいる間、彼はお前の側近という扱いとなる。友好国の王子と言う事さえ気を付けるのなら好きに使ってよいからな」
「霊石殿。私もこの事には同意しています。もしお許しいただけるのならそばに仕えさせていただきたい」
成程、確かに俺の側近はいなかった。というよりも同年代との交流がない。そう言う意味では彼は俺の友になれる存在になりそうだな。
「分かった。ビューゲ殿、これからよろしく頼む」
「はい、勿論です」
こうして俺の最初の側近にしてその縁故が後に俺を助けてくれる事になる王子ビューゲとの最初の出会いは幕を閉じた。