第四話「真律霊石のお勉強・弐」
「戒衡可汗国とは大臥の先、ア=ルー山脈以南とと黎鳴山脈周辺を領土に加えた国家です」
先ほどまで見ていた地図とは違い巨大な山を中心にした地図を指すジィ。地図通りならこの山脈の標高はかなり高いな。
「シルクロードは黎鳴山脈を囲むように南北に通っています。その南北のルートを抑えており国力は高いとされています」
「?詳しい事は分からないのか?」
「はい、両国の間には敵対している大臥とこちらの影響力にはないモンゴル系部族によって遮断されています。ほそぼそとした交友はあっても人材を大量に派遣し合うだけの交友は持てていません」
「だが加泰帝国にとっては大臥の裏を取れる存在ではないか」
「その通りですが大臥もそれを察しておりかの国に友好的なモンゴル系部族と連携してこちらの使者を見つけ出しては殺しているので……」
つまり現状ではこれ以上の関係構築は不可能という事か。そう考えると関係はある方なのかもしれない。少なくとも挟撃は出来る関係性という事だからな。……入念な準備は無理そうだがな。
「そしてこの戒衡可汗国の先にはカル=ハーンという国が存在します。今は東西に分裂しているらしいですが」
「ハーンとは確か君主の称号の事だったか?」
「その通りです。カルとは彼らの言葉で『強大、偉大』という意味らしいです。要は偉大なる君主の国、という事になるます」
「強いのか?」
「詳しくは分かりませんが戒衡可汗国が長年苦しめられているという話があるので弱くはないでしょう」
正直戒衡可汗国の国力が図り辛いからなんとも言えないな。とは言えシルクロードを抑えているという事は少なくとも経済力は加泰帝国よりは上だろう。見た感じ加泰帝国全然まともな道がないから。
あるのは精々中都と東都を結ぶ道ぐらいだろう。もう少し整備しようよ……。まぁ、10歳の俺が言った所で誰かが聞くわけでもないだろうけど。
「取り合えず戒衡可汗国とその周辺国は以上になります。今回はここまでにしましょう。今日はもう、暗くなり過ぎました」
ジィはそう言って地図を片付け始める。確かに外は既に暗くなってきておりこれ以上やるのは蝋の無駄遣いだろう。また明日にでも頼むか。
「分かった。今日はありがとう、ジィ」
「いえいえ、ワシ如きの知識が役に立ってうれしゅうございました」
そう言って微笑むジィを見てから俺は立ち上がり自室へと戻っていく。
しかし、今回の勉強は今までで一番タメになったな。俺が今どんな国にいるのか、その周辺にはどんな国があるのか知る事が出来た。これは大きいな。まぁ、今日習った知識を使うときはまだまだ先になりそうだけどね。
「それでマスラよ。倅の様子はどうだ?」
誰もが寝静まる時間、霊石の住む屋敷の主。真律風苑の部屋にてマスラは霊石の事柄の報告を行っていた。真律風苑は日中は中都の官僚府にてお務めをしている。その為普段の霊石を見る事が出来ないためこうして夜にマスラから報告を受けていた。
「若様はとても立派に育っております。武芸や鍛錬だけではなく様々な知識を貪欲に身に付けようとしております。今日も若様に周辺国家についてお教えしました。若様は理解為されておりました」
「ほう、それは頼もしいな。……だが、同時に不安にもなるな。皇帝陛下のご子息はお世辞にも有能とは言い難い。他の子息もだ。そんな中優秀な一族が出れば……」
風苑は最悪を想定してしまい息子である霊石の成長を素直に喜ぶことは出来なかった。加泰帝国が誕生し二百年近くが経ったが加泰帝国でも腐敗が出始め国力は少しずつだが減少傾向にあった。現皇帝は優秀であるため問題はないが次代、次々代でどうなるかは分からない。
「願わくば倅が不必要な野心を持たずに加泰帝国を支えてくれる忠臣になってくれるのを祈るばかりか」
「その点は問題ないかと。若様は知識は求めても野心は持っておらぬようなので」
「今はそうであろうがこれからも野心を持たないとは限らぬ。……ふ、まさか倅が優秀がために心配する事になろうとは思わなかったな」
風苑はそう言って苦笑するのであった。