第三話「真律霊石のお勉強・壱」
「よし、今日はここまでだ」
「はい、ありがとうございました」
皆さんこんにちはこんばんはおはようございます。真律霊石です。月日というものは早いもんで俺は10歳となりました。身長も伸び滑舌の問題もほとんど解消された。
最近は筋力も付いてきたことから武芸に励む時間が増えた。とは言っても10歳という幼少である事には変わりはない。よって俺が行うのは基本的に体力づくりと素振りなどの基本的な事だけだ。体力づくりについても子供の内から鍛えていると身長が伸びなくなると聞いた事がったので流石に無理はしない。
そして今日の鍛錬も終了し指南役の高辺から終了の言葉をいただいた。
「若様は武芸にも学問にも手を抜くことなく励んでおられる。これは将来が楽しみですな」
「高辺よ、これは当たり前の事ではないのか?」
「流石に他所の事は詳しくは知らないが率先して行う事などまずないな」
子供というのは基本的にどこでも一緒なんだな。少し安心したかも。
さて、今日はこの後地理のおさらいをする。その為、俺の教育係兼子守り役のジィの部屋に向かいます。ジィは文官であるため部屋には様々な本や地図がある。中には加泰帝国が誕生する以前の地図もあるとか。
「ジィ、いるか?」
「おお、若様。今開けます」
俺はジィの部屋の前に立つとそう呼びかけた。事前に言っていたこともありジィは直ぐに出てきてくれた。俺はジィに促されて部屋に入る。ジィの部屋は一言で言って汚い、というより様々な本や紙が置かれており物で溢れていると言った感じか。そんなジィの部屋の中央にはテーブルが置かれ加泰帝国を記していると思われる地図が置いてあった。どうやらすぐにでも説明できるように準備していたらしい。
俺がテーブルの前に座るとジィは反対側に座った。
「それでは始めさせていただきますぞ」
「うん、頼んだ」
「はい、ではまずは祖国である加泰帝国から行きますか」
そう言ってジィは地図の北部、加泰帝国の場所を指した。
「我々の祖国加泰帝国は加泰人による国です。元は小さな部族だったようですが僅か壱〇数年で今とほぼ同じ領土を手に入れたそうです。一時期は南部の愁によって滅亡の危機に瀕しましたが今では安定しています」
次にジィは加泰帝国の南部、愁を指す。
「愁。これは晋華における現在の統一王朝です。晋華は昔から国が滅びては別の国が興り今に繋がっています。我が国の文化も一部はこの国から取り入れたものです。そして我が国は京漣3州と呼ばれる地方を持っています」
「確か南都がある地域だったな?」
「その通りにございます。愁が晋華を統一する前、何十もの国に分裂し争っていました。そして誕生したばかりの頃、我が国の力を借りて統一に一歩近づいた国がございます」
「それが愁か?」
「正確にはその前の前の前の国ですね。まぁ、事実上別の国といって差し障りありません。この国は京漣3州の奪還を目論んでいるとの事ですが詳しい事は全く分かっておりません」
ジィは続いて西部の国を指す。
「そして愁以上に敵対しているのがこの大臥という国にございます。北西部のモンゴル系部族の小競り合いで長年争っています」
「見たところ我が国や愁よりも小さいようだが……」
「その代わりにかの国はシルクロードを保有しています」
「シルクロード?」
「かつて晋華が今よりも小さい地域の時から存在する遥か西、異世界との交易路の事です。かつてシルクを運んだことからこの名が付けられたと聞いております。この交易路は莫大な富をもたらしております」
「ジィ、質問だが愁は何故京漣3州よりシルクロードを抑えに行かないのだ?」
「それは大臥がかつて晋華の一部だったことに起因します。大臥はシルクロードで得られる利の一部を献上する事で目をそらさせているのです」
「朝貢という奴か?」
「そうですね。ですので我が国は事実上この2国と敵対している事になります。まぁ、その更に西方にある戒衡可汗国とは良好な関係が続いていますがね」
「戒衡可汗国?それは一体どのような国か?」
「ふむ、そうですね。本来はもう少し加泰帝国を詳しく話す予定でしたが先にこちらを話すとしましょうか」
ジィはそう言うと別の地図を棚から取り出すとテーブルの上に広げた。
主な用語
京漣3州
愁の前身である北苑が加泰帝国に割譲した地域。南都はここに建設されている。愁はこの土地の奪還を狙っている。
朝貢
※この世界での話になります。実際の朝貢とは違う場合があります。
晋華に存在する王朝に周辺国が様々な利を与える事でその地位を保証される事。事実上属国になる事だがこの地方ではとても魅力的な内容である。