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第一話「真律霊石」

 戒衡可汗国の王ビューゲは馬を走らせていた。ビューゲは僅か20代で戒衡可汗国の王に至った。彼は数年前まで東方のある国で生活していたが前王の容体が悪くなったことを気に故郷であるこの国に帰還していた。そして前王が死ぬと王として君臨し戒衡可汗国をまとめあげた。そんな彼の後方には必死についてこようとする家臣の姿がある。しかし、彼は馬を止める事も速度を落とす事もしない。既に馬を走らせてからかなりの時間が経つ。彼の愛用する馬も限界が近かった。


「(すまん!もう少しだけ耐えてくれ!)」


 ビューゲは心の中で呟くと意識を前方に集中させる。馬もその気持ちが伝わったのか更に速度を上げた。

 そうやって暫く走っていると目の前に街が見えてきた。戒衡可汗国北東部の都市サルフォールである。北部からやって来るモンゴル系部族の侵入を防ぐために作られた城塞都市だ。

 門番は突然やってきたビューゲに驚くが直ぐに自らの主君であることに気付き開門する。ビューゲは馬をそのまま走らせ中央に建てられた官僚府の前に来る。馬を御者に任せるとビューゲは速足で中に入る。忙しなく動く官僚や女官を押しのけとある一室の前に立つと息を整えて入室する。


「……久しぶりだな。ビューゲ」

「お久しぶりです。霊石殿」


 ビューゲはその者を目にした瞬間、膝を付いていた。左手は握り拳を作り右手はそれを包むように目の前で掴む。戒衡可汗国、いや周辺地域でも最上位の敬意の表し方だった。

 彼が敬意を示す相手はビューゲより若かった。歳は20くらいであろうか?しかし、それでいてビューゲを軽く上回る覇気を有しビューゲだけでなく後から付いてきた家臣も自然と敬意を払っていた。


「霊石殿、この度はどのような要件でしょうか?」

「この国を、もらい受けに来た」


 男、真律霊石の言葉にビューゲは固まる。国を貰う。それはつまりこの国を滅ぼすという事に相違なかった。家臣たちも驚きで目を見開いている。驚きのあまり固まっているビューゲ達に構うことなく続ける。


「嫌とは言わせない。私は加泰帝国蓮怒皇帝より皇帝の位である聆公をいただいた。加泰帝国の皇帝は私となった。だが、加泰帝国はアレチュフにより国土を奪われた。取り戻すためには地盤が必要だ」

「……そのためのこの国であると?」

「そうだ」


 自分勝手すぎる。自国の国土を取り戻す為に従うなど出来るはずがない。いくら旧知の仲であろうと出来ない相談だった。


「……申し訳ないが」

「嫌とは言わせん」


 ビューゲの言葉を霊石は最後まで言わせない。


「君たちにとってはとても承諾できることではないだろう。だから条件も用意した」

「……伺いましょう」

「西の邪魔者を消してやろう」

「!?それは」


 霊石の条件は魅力的だった。戒衡可汗国の西に蔓延る国。それらが消えれば更なる発展が出来る。同時に霊石が条件に選んだ理由も察しがつく。彼の国は貿易ルートを牛耳っている。滅ぼせれば更なる利益が生まれそれを使い奪還の準備ができる。お互いにとってとてもいい話であった。


「勿論滅ぼせる策、武力ともにある。アレチュフ相手では心許ないが奴らなら問題ない。他にもこの国を発展させる策を用意してある。()とお前の仲だ。口先だけではない事は分かるだろう?どうだ?悪くないだろう提案じゃないか?」

「……偉大なる真律聆公にして可汗よ。我らの御心は御身と共に」


 霊石の言葉にビューゲは恭しく首を垂れるのであった。


カラ=キタイは作者が一番好きな国です(二番目はパルティア)。調べて知ったんですけど耶律体石って建国時には50近いおっさんだったんですね。

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