キミの知らない物語
初めて出会った日のこと
初めてキミの声を聞いたとき
初めてキミに出会えたとき
ボクの瞳に溢れる嬉しさの雫を
溢れないようにって、天を眺めて誤魔化しながら
一人、部屋に戻って
そっと瞳を落とし、両手を握り合わせた。
心の底から誰でもない何かに感謝したかったのだろう
気付いたら、両手を固く握り合わせていた。
とある一日のこと
公園が大好きで全然帰ろうとしないから
ボクはため息をついて、スマホをいじる。
横目でキミの楽しそうな顔を見ていたら
真っ黒な画面の中の微笑むボクと目があった。
でも
ケガしないかなとか
他の誰かと仲良く遊べるかなとか
キミのことが心配で近づきたかったけど
キミくらいのボクが出てきて怒られそうで
気持ちを我慢してたこと
それは、ボクだけが知ってること。
とある一日のこと
ボクが夜遅くに家に帰ったとき
夢の国に旅立つ前のキミが
にっこり走ってボクを抱きしめてくれたこと
おかえり!って言ってくれたこと
1日の疲れなんて無かったことにしてくれる
キミに抱きしめられると本当にそう思えた。
明日への何よりの活力だった。
とある一日のこと
キミのわからないことを
ボクがわかることをたくさん伝えた。
今日の出来事を色々話してくれるキミの言葉は
ボクにとってはとても素敵な物語だった。
その物語はいつも輝いていた。
とある一日のこと
少しずつ会話がなくなって
キミがボクから離れていくことがわかったとき
何食わない顔してたけど
ほんとはすごく寂しかった。
抱きしめる日なんてもう来ないって
誰かに言われている気がした。
とある一日のこと
ほとんど会話がなくなって
ボクの前では素気ないキミが
寂しそうな顔をしていたとき
ボクだって声をかけてあげたかった。
誰よりも抱きしめてあげたかった。
でも、出来なかった。怖かった。
キミとの繋がりが消えてしまうような
ボクの心がキミに会いたくないと思ってしまうような
ここに戻りたくないって思ってしまうような
そんな気がしたから
ボクはそんなボクを責めた。
とある一日のこと
キミと久しぶりにたくさん話をした。
ボクに似てお酒が弱いキミはすぐに顔を赤くして
ボクと同じものを飲もうとしてた。
キミの瞳に映るボクの顔は必然と微笑んでいた。
そんなボクにもっと笑えばいいのにって言うキミ。
心の中がどれだけ喜んでいるか、どれだけ嬉しいか、
相変わらずキミはボクを癒してくれる。
嬉しすぎたから、
フラッシュバックする過去の出来事と今この瞬間を
合わせ鏡のように重ねていくと目がしみるから
考えないように我慢してた。
とある一日のこと
キミは泣いていた。
ボクの顔を見て、泣いていた。
キミの隣には素敵な人がいた。
ボクはキミに初めて出会った日のことを想い出す。
初めて出会った日の時みたいに
嬉しさの雫が溢れてくる。
でも、それは天を眺める前に零れ落ちた。
ボクはいつまでも変わらず、
ずっと輝いているキミを眺めていたかった。
この一日が終わるまで、少しでも。
キミがボクにくれた贈り物
「ありがとう、お父さん」
その言葉がどれほど嬉しかっただろう
何も見えない、何も触れない、それでも
キミからの言葉がボクの心を震わせる。
泣き崩れそうになるのを必死に堪えた。
父としてのあるべき姿をキミにも見せたかったから
今までボクが見てきた父の姿を
キミに見せることがボクからのお返しだと思った。
これから先の日々のこと
ボクはずっとキミのことを愛している。
たとえキミがボクのことを嫌いになっても
たとえキミがボクのことを忘れてしまったとしても
ボクはずっとキミのことを愛している。
家族だから、親だからとか
そんな言葉じゃなくて
キミのことが本当に、本当に大切だから
だから、ボクはキミのことを愛しているんだよ。
これまでも、これからも
キミはボクの誇りだから
これはボクしか知らない
キミの知らない物語
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
久しぶりの投稿になります。
時々冷たくあたってしまうときに、自分自身の知らない物語を考えることで優しくなれたらって思います。