表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

004 解決とケンカ

 ここで、思いもよらないイレギュラーが起きる。


 一定水準以上の強さを得た星の子の勇者でもある彼が、初めて落命の危機に瀕したので特別な加護が発動。

 一瞬で彼の体が金色の繭のように物に包まれ、一瞬で両手足が生え全快復した。


 ……そんなのずるいよ。


 これはチンピラでは一生お目に掛かれない、勇者が勇者として目覚め、星の子としての力を発動した瞬間だった。


 そういうのは、最後の決戦の時に出すような特別な加護でしょ?

 何でこんな街の宿屋で発動してるの?


 ただ、僕の方は魔力を全身に纏って発動できる神速魔法を発動していたので、僕の方が反応も対応も速かった。

 彼が自分の変化に気付く前に、僕は彼に再び隠身の魔法を掛けて、彼の魔法剣を使って再び両手足を切り取ろうとする。


 ……でも、今度はそれが出来なかった。

 

 強化された彼の腕の肉に、剣が食い込まなかったんだ。


 なぜなら、黄金の光に包まれた今の彼には、全耐性超強化の星の子勇者のチート級加護が備わったからね。

 なので、僕が魔法で自分の肉体を超強化しても、僕の力では切断不可能だと判断。

 僕は右手に契約している魔界の王の力を借り、全てを乗せて斬ったんだ。


 そうして何とか斬った彼の四肢から血が噴き出す前に、表面の切り口に薄く回復魔法をかけて埋める。

 同時に、回復した彼の魔力を吸収する魔法も発動。

 これでさっきまでと同じ状態になったね。


 ……ふう。

 危ない危ない。


 星の子の加護で体が繭に包まれ金色に輝くものの、さっきまでと同じ様に動けないままの彼は、ようやく自分に何が起きて僕に何をされたかを理解して驚愕している……

 なんせ……さっきまでよりも血の匂いが強くなって、自分のベット周りに自分の両手足が二対づつ落ちてるんだから。


 「な、な、何者だ? 今の魔力は……まさか、最果ての魔王……がここまで?」

 「だから違うって、僕はこの街のチンピラだってば」

 「ふざけんな! そんな訳ないだろ!!」

 「ふざけてるのはあなた達でしょ。チンピラを滅ぼそうとして」

 「……昼間の話か?」

 「合ってるけど違う」

 「……じゃあこの子の事か?」

 「そうだけど、そうじゃない」


 彼は、僕の発言に混乱しつつも仲間を信じてこの状態でも何とか時間を稼ごうとしている。

 流石は星の子の勇者。

 僕の背後で、もぞもぞしている仲間の気配を感じているんだろうな。


 当然目が死んでいないし気概のある勇者。

 チンピラの邪魔さえしなければ、応援したいところだけどね。


 「ああ。あなたの仲間は僕の後ろで……」

 「あっ…ううっ。フランコ……お前ほどの達人がどうして……」

 「ああ、違う違う。そっちの死んだ方の仲間じゃなくて、残りの2人」

 「エリーゼ!! タカード!!」


 ベットから動けない彼の位置からだと、2人は僕が魔法で天井から吊るしたシーツに隠れていて、そこで何がどう動いているのかは見えない。

 なので、僕はエリーゼ、タカードと呼ばれた2人が居るベット脇の魔石照明に魔力を送って灯した。


 すると、目隠しの薄い白のシーツが魔石照明の淡い明かりで透け、2人のシルエットが丸見えになる。

 2人が裸なのも、ベットの上で何をしているのかもが明確に見えた。


 「…………えっ!?」

 「これで見えるようになった?」

 「エ、エリーゼ!? 嘘だろ、おいっ!? タカード!! お前らっ、何だこれはっ!?」

 「嘘? 嘘じゃないよ。じゃあシーツをめくってみようかな」


 僕は軽く風を起こして、2人を隠していたシーツを下からふわりとめくり上げた。

 シーツをめくり上げた隙間からは、魔石照明が裸で愛し合う2人を直接照らしているのが見え、天井に2人の影が重なる。

 エリーゼと呼ばれた女がタカードと呼ばれた男の上に跨って腰を振っているという、愛し合いながら一定のリズムで揺れる姿が影として写る。


 「がああっ………くそおおおお!! お前らああああっ!!」

 「……お盛んだね」


 2人の行為を憤慨しながら見ている勇者の彼。

 でも様子がおかしい。


 「あれ……嘘っ? こんな極限状態なのにこっちは大きくなるの……若いから? 羨ましい。その強さ僕に分けてほしいくらいだよ……」

 「ううっ……これも全部貴様の仕業か!?」

 「大きくなりながら逝くのもまた一興かも。じゃあね。もうチンピラの邪魔しちゃ駄目だよ」

 「な、何を……」


 僕は彼の魔法剣で首を刎ねた。

 右手に魔界の王の力を乗せないと刃が刺さらないから苦労するね。


 そして、こうなるともう星の加護も届かないだろう。

 彼の全身から様々な力が抜けたのが分かった。

 部屋に漂っていた強烈な緊張感も無くなり、僕の体も軽くなる……ふう。


 こうなると、部屋には勇者の肉体から流れる血の匂いと、愛し合う2人の動作音と独特の男女の匂いが強くなった。


 そんな……勇者の彼は四肢と首を切り取られ、下腹部の股間が大きくなったまま死んだ。

 恋人が仲間の男としてるのを見て……って少し珍しい性癖だったね。


 よし。目的達成。

 これで物語は進まなくなり、チンピラ滅亡の脅威は去った事になる。

 一安心だね。


 不安の無くなった僕は、僕の命令通りベットで愛し合い続ける2人を合体した状態のまま魔法剣で首を刎ねた。

 2人の体は繋がったままバタリと事切れ、2人の首は狭い床を転がり、引き付けられたかのように勇者の首と3つ並んで止まる。


 僕の愛するチンピラを消そうとしたみなさんにはお似合いの姿かな?

 魔界のおじさんの力を借りると凄く強いんだけど、やっぱり僕の性格も引っ張られて少し変わってしまうようだね。


 最後に、血だらけの魔法剣を眠っている少女に握らせて、血と死と焼きたてのパンの匂いが猥雑した宿を後にした。

 こうなった以上……少女には過酷な運命が待っているんだけど、まぁ僕にはどうしようもないかな。


 はぁ、返り血を浴びなくて良かった……眠いから帰って寝よう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 チンピラの朝は早……くない。遅い。


 昼頃まで自宅でだらだらとしながら何となくリーダーの家に集まり、全員が集まってから街へと繰り出すのがチンピラの日常。

 そして、日が暮れるまでブラブラと歩く。

 時には臨時収入も入るので夜遅くまで飲み屋に入り浸る事もあるけど……どちらにしろ、それがチンピラの日常だ。


 僕は昨日聞かされたんだけど、今日は月に一度のモヒカンの日らしい。

 モヒカンの日とは……モヒカン兄弟が揃って床屋に出掛けて、2人の整髪を見届けるという日だという。

 床屋は家の近所にあって、幼い頃から顔馴染みなので店の中では全員大人しくなる。

 これがチンピラだ。


 リーダーは自分で剃ってスキンヘッドにしているし、僕は魔界のカットの達人を魔法で召喚して整髪していた。

 みんなには自分で切っていると説明しているけどね。


 モヒカン2人は床屋のおばちゃんに話しかけられても、馴れない愛想笑いをしながら頷くだけ。

 それがチンピラだ。


 今日はモヒカン部分を整えてパリッとハードに固めてもらったので、横から風が吹いても微動だにしない。

 殴り飛ばされようが、川に落とされようが、モヒカンはキープ。

 それがモヒカンの日のチンピラ兄弟だ。


 こうして今日も、僕はチンピラ一味として3人の後ろを付いて歩く。

 すると、偶然正面の角を曲がってきた4人組のチンピラと出会った。


 街を歩いていると、こうして週に1、2度、他のチンピラと出会う事がある。

 そうなると実に大変なんだ。

 なぜなら、街中で出会う他地区のチンピラは全員敵で、争いの対象になっているからね。


 実力や人数が拮抗したチンピラ同士の争いは実にし烈。

 チンピラとしての死闘になる。

 例えば、道ばたで野良猫同士の喧嘩も見ていても、当猫同士は本気だし大変そうでしょ?


 まず、チンピラは他のチンピラを発見した時点で、最短距離を歩いて近づきながらお互いにメンチを切り合う。

 そういうルールがあり、これがチンピラ同士の喧嘩の合図だ。

 ズボンのポケットに両手を入れて、首をカクカクと上下に振り、相手のつま先から頭の先まで全てを睨みつけ威嚇をする。

 それがチンピラだ。


 僕も見よう見まねでやっているんだけど、中々相手を怖がらせる事が出来ないでいる。


 僕たちのリーダーは、スキンヘッドを生かして首を上下に振りながら頭に反射する太陽光を利用して、相手の視界を狭めている。

 流石はリーダーだ。


 モヒカン兄弟の2人は、固めたモヒカンを生かして首を上下に振りながら近づき、ツンツンと尖ったモヒカンの髪先で相手の顔を突っついている。

 流石はモヒカン兄弟だ。


 でも、相手も負けていない。

 相手のリーダーは髪をモッコモコに大きくしたリーゼントで、カクンカクンと首を上下に振る。

 その威嚇行動をとる度に、膨らんだリーゼントから紙袋に小分けされた飴玉やお菓子を飛ばしてくるのだ。


 チンピラは甘いものが大好きで、僕も大好きなんだ。

 しかし、ここで飴玉やお菓子に目を向けると、相手の思う壺。

 相手から目を逸らした事になり劣勢となるので、誘惑に耐えるしかない。


 そんな中、僕は相手の一番下っ端と1対1で向き合っていた。

 

 互いに背も低く、チンピラとしての実力は互角のようだ。

 僕たち下っ端2人は、ズボンのポケットに手を入れて互いに首を上下にカクカクさせて睨み合う。


 だけど、2人とも所詮は下っ端。

 どうしても、相手のリーダーのリーゼントから飛んで地面に転がっているお菓子に目移りしてしまっている。


 そして、2人は自然と息を合わせて徐々にリーダーの近くに進み、睨み合いながらも路上に飛ばされた飴玉やお菓子をサッと屈んで上手く拾った。

 これもチンピラだ。


 そんな中、モヒカン兄弟2人は有利な状況になっているようだ。

 2人の相手が普通のオールバックなので、モヒカン兄弟の首カクカクからのモヒカンヘアーアタックが炸裂しており、固められた髪の毛が相手の顔にどんどん命中していて顔が真っ赤だ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうしてメンチを切り合った後は、相手の胸倉を掴み合う。

 それがチンピラの喧嘩の手順だ。


 今までは相手に触れていなかったが、胸倉を掴むというのは相手に直接触れる事になる。

 そして、チンピラはシャツを着ないので、黒の革ジャンを掴み合う事になる訳だね。


 これらはチンピラとしてのルールであり基本動作でもある。

 ルールをおろそかにする輩はチンピラではなくただの無法者だ。


 僕たちは、4対4で堂々と横一列に並んで胸倉をつかみ合う。

 その光景は、チンピラの喧嘩として成立した証だ。

 ただし、通行人の邪魔にならない様、道の端か脇道で対決するのが街でのローカルルールとなっていた。


 僕は先程同様、相手の下っ端と胸倉をつかみ合っている。

 胸倉をつかみ合うという事は、相手との距離が近くなるという事だね。

 今、巷で流行っている壁ドンというのよりも近い。

 相手との顔面の距離は、キス寸前の距離といっても過言では無い。


 そして、僕の口の中にはさっき拾ったいちご味の飴玉が入っていて、呼吸をする度に自分の口から甘い匂いがする。

 恐らく相手は、オレンジ味の飴玉を頬張っているはずだ。

 顔を近づける度にオレンジの匂いがするからね。


 僕がふと隣を見ると、モヒカン兄弟2人のカッチカチに固まったモヒカンが相手の両目を抑え込み完全に封殺していた。

 流石モヒカン兄弟だ。


 モヒカン兄弟は相手の胸倉をつかんだまま、交互に僕の方を見て軽く頷いてくる。

 余裕がある証拠だ。

 カッコイイね。


 現に相手は両目を封じられて、何とかカチカチに固まったモヒカンを跳ねのけようと首を左右に振っている。

 その様子を見て、モヒカン兄弟(赤)(黄)はニヒルな笑みを浮かべていた。


 ああっ……僕もいつかはああいうニヒルな笑みが出来るようになるのかなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ